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Unlucky  作者: 碧眼の黒猫
第三章 降りかかる災難
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忘れられない過去の記憶

 霧で周りが見えなくても馬は歩き続けている。

 ナディアが言うには霧の中でも馬には道が見えているらしく間違えることはないそうだ。


 義手を作っている街までに行く前にその街へ向かう途中の街で働いてお金を少し稼ぐことになった。

 ナディアの話によればどうやらその街では稼ぐ場所が多く、報酬も仕事ばかりらしい。


 街に着くまでは全員昼寝をすることになり、ナディアから眠れるように全員が毛布を渡された。

 しかし、俺はさっきの視線が気になって眠れずにいた。


(明らかに俺を見ていた気がするが……一体なんだ)


 姿も見えなかった相手だが確かに俺だけを見ていると感じた。

 あの霧の中で俺からは見えないにもかかわらず、まるで相手は霧がない状態でこちらを見ているように感じた。


「眠れないんですか…?」


 眠れずにいると小声でソフィが話しかけてきた。


「ああ」


「何か気になることでもあるんですか…?」


「……さっきの村の近くを通っている時、霧の中から誰かの視線を感じた」


「誰か…?私達をですか?」


「いや………恐らく相手は俺だけを見ていた」


「ジョンさんだけを…?」


「ああ」


「……何故、ジョンさんは視線とかがわかるんですか?」


 ソフィが質問してくる。


「そうだな……日々怯えて過ごしていたからかもしれないな」


「ジョンさんが…?」


「どういう意味だ?」


「え?あ、その……ジョンさんでも怯えることなんてあるんだと思いまして…」


 顔をそらしてソフィは言った。


「俺はこの世界に来てからもずっと怯えて生きている。人間いつ死ぬかわからないからな」


「いつ死ぬかわからないから怯えているんですか…?」


「ああ、だからこそ生きるためにできることはなんでもする。それが人殺しでも……」


「ジョンさん……」


「……変な話をした。もう寝た方がいい」


「……はい、あの……ジョンさん」


「まだ何かあるのか?」


「いえ、その……迷惑じゃなければ隣で寝ても良いですか?」


「構わない」


「ありがとうございます…」


 ソフィは俺の隣へ来て自分の足に毛布をかけると少し時間経ったくらいで眠った。

 段々と体がこちらに倒れてきた為、気になって俺は余計に眠れなくなった。


(……ナディアと一緒の時にもこんなことがあったな)


 いい加減断ってもいいと思うが断っても俺は眠れないことが多い為、結局断っても断らなくても同じだからだ。


(……あいつを思い出すな…)


 昔、今の状態のように俺の隣で寝るのが好きな奴が居た。

 俺の仕事仲間としてよく一緒に居たがある日の仕事終わりに食糧を持って帰る途中でトラックに轢かれて死んだ。


 他の連中から聞いた話だと俺の事が好きだったらしい、そのことには気付いていた。

 告白もされたが何度も断っていた。

 奴は絶対に恋人になってやると言っていたが俺は奴からはすぐに離れたかった。

 そいつは俺の仕事仲間になってから傷だらけになっていて、何度も死にそうになったこともあった。



 過去の記憶


「これ以上俺と一緒に仕事をしない方がいい。死ぬぞ」


「平気だって言ってるでしょ!絶対に嫌だからね!」


 この話をしていたのは確か死ぬ前の会話だったはずだ。

 俺はそいつを置いて行こうとしたがしつこく付いてきた。


「お前も知ってるはずだ。俺の周りで何人も死んでる。最近は酷い、俺と一緒に仕事に行った奴が1人もスラムに帰ってきていない」


「それが何?私達は相棒でしょ?」


「勝手に相棒にするな」


「とにかく、何と言おうと私は絶対について行くから」


 あいつは一度決めたことを曲げようとしない奴だった。

 そのせいでその日そいつは死んだ。


「おい、お前に死なれると俺は困る」


「大丈夫だって!ほら、私運が良いからさ」


「……その運でどうにかなればいいがな」


「なーに、絶対に平気だって、そんなに心配することじゃないわよ?」


「………そうかもな」


「ふっふっふ、今日は帰ったら貴方の部屋で飲み明かそう?」


「……はぁ、ああ、生きて帰れたらな」


「よし!これは死ねないわね、それじゃ今日も張り切って行くわよ!」


「ああ、その調子で帰ってくれれば俺は嬉しいが…」


「何よそれ!!」


 あの日ほどあいつと一緒にいる事が楽しいと感じたことはなかっただろう、仕事をしている時でも奴と一緒に居るのはとても楽しかった。


 俺はあいつのことが好きだったのかもしれない、だがそれに気付くにはあまりにも遅すぎた。

 失ってから気付くなんてことは短い人生の中でも何度もあったが、奴を失ったことは俺の心に深く傷を付けた。


 そしてまたあの時の瞬間が目の前で起こる。

 忘れられないあの時の光景が目の前でまた起こった。


「さぁ!今日は飲み明かすわよ!!」


「おい!待て!」


 あいつは足が速かった。

 あいつにはスラムの誰も追い付くことはできなかったが、この時だけでも追い付ければと何度も思った。


「早くしなさい!遅いわよ!」


「後ろを向くな!前を見ろ!」


 裏路地から出てあいつは道路へ飛び出した。

 そこへ運悪く大型のトラックが走ってきた。

 運転手は雑誌か何か見ていたのかこっちに気付いていなかった。


「平気だってーー」


 俺が手を伸ばそうとするよりも先にトラックのタイヤが音を鳴らしながらそいつに突っ込み、あいつが持っていた盗んだ物は袋から飛び出して道に散らばり、奴はトラックの下敷きになった。

 トラックの下からは血が広がっていった。


「ナタリア……」


 目を覚ますと俺は目から涙が出ていた。

 袖で涙を拭い、周りを見渡す。


 まだ誰も起きていない、馬車もまだ走り続けていた。

 窓の外を見るといつのまにか雨が降っているようで窓が雨で濡れていた。


(嫌な夢だ)


 思い出したくないが、時々この夢を見るせいで忘れたくても忘れることができなかった。

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