ブッチャーの本性
銃を選んだ後ナディアから渡された袋に銃を入れて、そろそろ昼食を取ることにした俺達は馬車を止めて川で水分補給をし、ブッチャーの持ってきた肉で昼食を取ることとなった。
馬車から降りて外で昼食を取ることになった為、適当にナディアが椅子を用意してくれた。
「美味しい……焼き加減でこんなに変わるものなんですね」
「美味しい?良かった、まだまだあるよ」
「確かに美味いな」
ブッチャーの焼いた肉は美味く、肉屋で働いていただけのことはある。
「………お米が欲しいですね」
ソフィが小さく呟いた。
米は確か街でソフィが朝食として出してくれたものだろう。
「肉なんて久しぶり」
「私も…久しぶりに食べる」
「みんな、美味しそうにしてる。良かった」
どうやら俺達が肉の味に満足している顔を見れたことでブッチャーも喜んでいるようだ。
しかし、そこへ熊のような動物が口から唾液を垂らしながら寄ってきた。
見るからに腹が減っているようで唸りながら近付いてくる。
「…どうやら肉の匂いに釣られて来たようだな」
俺はすぐにライフルを持ち、弾が撃てる状態なのを確認してから熊に銃口を向けた。
「あ、あのジョンさん、お肉を渡せば良いのではないでしょうか?」
「貴重な食糧を渡す気はない」
熊のような奴の体の大きさからしてここにある食糧だけでは足りないはず、食糧を渡そうとすれば間違いなく俺達も食われるだろう。
「…お肉……お肉だぁ…ハハ、アハハ…」
小さな声でブッチャーが何かを呟いていることに気付き、ブッチャーの方を見るとチェーンソーを袋の中入っていたもう1つの袋から取り出してチェーンソーを動かし始めた。
チェーンソーの音と共に熊も咆哮と共に突撃してきた。
それに合わせるようにしてブッチャーもチェーンソーを持ったまま突撃した。
「アハハハッ!!お肉!!お肉ぅぅぅ!!」
「ブッチャーちゃん!?」
ブッチャーは相手の突撃を避けるとチェーンソーの音が鳴り響き、突撃してきた熊の体を横から切り裂き、熊から血が大量に噴き出した。
血が大量に噴き出したことによってさっきまで獲物めがけて突撃してきた熊は倒れ、明らかに瀕死になっていた。
しかし、ブッチャーは倒れた熊に近寄ると血塗れになりながら笑顔で熊をチェーンソーで解体し始めた。
ブッチャーが解体している様子を見た俺はライフルの銃口を向けるのをやめ、他の仲間の様子を見るとソフィは目を背け、エルマは衝撃のあまり目が離せない状態になっているようで目を開いたままになっていた。
ナディアはこんな状況でも肉を食べ続けていた。
俺は解体している様子を見続けているエルマに近付き、声をかけた。
「エルマ」
声をかけても反応がない、完全に放心しているようだ。
エルマの肩を掴んで体をこっちに向かせるとやっと正気に戻ったようだった。
「見ていると精神が壊れる。あまり見るな」
「は、はい……」
エルマは返事をした後椅子に座ってそのまま黙っていた。
俺はブッチャーが解体し終わったことを確認してから血塗れのブッチャーに近付いた。
「ハァ……あ、ジョンサン、お肉増えたよ?」
「そのようだな、それより血を川で洗い流して来い、肉は俺が袋に入れておく」
「うん、わかった」
ブッチャーはチェーンソーを持ったまま川に向かったのを確認し、袋を持ってバラバラになったしたいの近くに寄ってから袋を開けた時、袋の中があまり血で汚れていないことに気が付いた。
恐らく冷凍されていたものばかりを持ってきていたからだろう、しかしこのまま入れてしまうと他の肉が汚れると思いどうするか悩んでいるとブッチャーが戻ってきた。
「お肉、入れちゃった?」
「いや、まだ入れていない」
「良かった。血抜きするからお肉食べて待ってて」
「ああ、わかった」
俺は血抜きがなんのことかわからなかったが返事をしてからナディア達のところへと戻り、ブッチャーの様子を見ているとバラバラになった肉を持って川の近くで下ろし、また戻って肉を川の近くに移動させていた。
「あの、ジョンさん」
「なんだ?」
「ブッチャーちゃんは一体何をしているんですか?」
「俺もよく知らないが血抜きをしているらしい」
「なるほど……」
どうやらソフィは血抜きについて知っているようで納得していた。
血抜きはそのままの意味で血を抜くという意味だろう。
そのままブッチャーが血抜きを終えるまで俺達は昼食を取っていたがエルマとソフィは流石に食べる気が失せているようだった。
しばらく待ってもまだ血抜きをしているらしく、どうやら血抜きは数十分で終わるような作業じゃないらしい。
「私、少しお水を飲んできますね」
「あ、それじゃあ私も一緒に行きます」
ソフィとエルマはブッチャーが肉を洗っている場所より先に行き、血が流れてこない場所で水を飲んでいたがその場所で何かを話しているようだった。
「あの2人の会話が気になる?」
ナディアが少し笑いながら聞いてきた。
「いや、気にならないが……」
そう答えると笑ったままそれ以上は何も言ってこなかった。
段々と霧が濃くなっていることに気が付き、俺は距離が遠い2人の元へと向かった。
「うーん、話を聞く限りだと優しいけどよくわからない人といった印象ですね」
「そうですね、優しくて謎な人ですね…」
近付くとどうやら誰かの話をしているようだ。
「2人共、そろそろ馬車に戻った方がいい」
「え?あ、ジョンさん!?」
「え?もしかして聞こえてましたか今の話!?」
「ああ、少しだけだが……俺のことか?」
「ああ、いや、えっとその…」
「違うなら違うと言えばいい、もしそうだったとしても気にはしない」
「そ、そうですか…」
「それより早く戻った方がいい、霧が濃くなってきている」
「霧が?……本当に濃くなっていますね」
「ソフィさん、ジョンさんの言う通り戻りましょう」
2人は周りを見渡すと霧が濃くなっていることがわかったようで馬車へと戻って行った。
2人が戻って行ったのを見た後、俺は少し川の水を飲んでから戻ることにし、水を飲んで馬車へ戻ろうとした時、血が付いた草を見つけた。
俺は血が付いた草に近付くとどうやら誰かが通ったらしく、草が分かれていた。