異世界へ
慣れてないのでおかしな部分や微妙なところがあるかもしれません。
いつのまにか知らない部屋のベッドに寝ていた俺はゆっくりと体を起こし、部屋を見渡す。
部屋には本棚、机、椅子、暖炉、そして自分が寝ているベッドがあり、部屋の中は誰もいない。
ベッドから出て窓の近くまで歩いて行き外を覗く、窓の外に見えるのはいくつもの高い木々で、空を見上げると日が昇っていた。
(寝ている間に何処かに連れて行かれたか?)
だが、それなら拘束していなければ逃げられるのだから手足が拘束されてないのはおかしい、それにここは見たところただの部屋であって独房ではない、扉に近付いてドアノブを握って開くか確かめる。
(開いている……)
扉を開こうと引いた時、足音が聞こえることに気が付き少し開いた扉をゆっくりと閉めて扉の近くでポケットから折りたたみのナイフを取り出し、刃を出して待つ。
だんだんと音は近付いて来ると、部屋の前で止まった。
「…………」
息を殺し、相手が入って来るのを待つ。
しかし、待っていても相手が入って来ることはなく、扉の前で立っているようだ。
「……大丈夫、心配しないで」
若い女性の声が扉越しに聞こえてくる。
少しとはいえ扉を開けたことで気付かれたのかもしれない。
「食べ物……持ってきた」
食べ物と言われて寝る前に食べずに寝てしまったことを思い出し、腹が減っていたことに気付いた。
「入っても……いい?」
部屋に居ることがバレているなら黙っていても仕方ない、俺はナイフを扉で隠して扉を開けた。
そこには身長が低めで銀髪で紫色の目、服装は修道服に似た服着ていて、白に近い肌をした若い女性がスープが入った皿を乗せたトレーを持って立っていた。
「右手のナイフ……しまって?」
右手に持っているナイフは扉の後ろに隠れているため見えないはずだが、女性は見えているかのように言った。
「……何故、ナイフ持っていると?」
「魔法を使ったから…」
「魔法……?」
(この女性はマジシャンか?)
目の前の女性が何を言っているのか理解できなかったが、とりあえず敵意は感じなかったため一旦、ナイフをしまうと女性は部屋に入ってきて、机の上にトレーを置いた。
「私はナディア。魔法使い……貴方は?」
「……俺は……名前がない、ジャックかジョンのどっちか、好きな方で呼んでいい」
「じゃあ、ジョン……でいい?」
「ああ」
名前も無い内に捨て子にされたため俺はスラムの色んな奴が面倒を見てくれた時に誰かが適当に言った名前を使っていた。
仮の名前の数は多く、色々な名前を付けられたがスラムではジャックかジョンのどちらかで呼ばれるようになった。
「……ジョン」
「なんだ?」
少し昔の事を思い出している間にいつのまにか同じスープの入った皿の乗ったトレーがもう一つ机の上に置かれ、ナディアは椅子に座っていた。
「……いつの間に」
「一緒に……食べない?」
「一緒に?」
「……嫌?」
そう言ったナディアの表情が少し悲しそうな表情になっていた。
今の俺も腹が減っているため、特に断る理由もない。
「……わかった。食べよう」
そう言うとナディアが嬉しそうに微笑んだ。
ナディアの反対側にある椅子に座り、料理を見る。
「これは…?」
「野菜を使ったスープ」
毒か何か入っているかもしれないと警戒したが先にナディアがスプーンを使って食べ始めた為、ゆっくりスプーンを使って一口食べてみる。
「……美味いな」
「そう?……良かった」
「ああ、美味い」
まともな料理を食べたのは久しぶりだった。
スラムで料理が得意な奴が居たが、そいつが病気で死んでからはまともな料理を食うことがなく、缶詰やパンなどの日持ちが良い食料ばかり食べていた。
料理を食べ終え、ナディアに質問する。
「ナディア、訊きたいことがある」
「…何?」
まだスープを食べ終わっていないナディアはスプーンを持ったまま、質問に耳を傾けてくれた。
「俺をここに連れてきたのはナディアか?」
「……ううん、連れて来たんじゃなくて……呼んだ」
「呼んだ?」
「そう……魔法を使って呼んだ」
そう言われ、俺はナディアが嘘をついているようには見えなかったがすぐに信じられる事ではなかった。
「魔法……さっきもそんなことを言ったな」
「魔法は色々な事ができるけど……使い方を間違えると死んじゃう」
「そうか……どんなことができる?」
「……例えばこうやって物を浮かせたりとか、……扉を動かしたりとか」
そう言うとナディアがトレーに視線を落とした。
するとトレーが浮き上がり、扉の方に近付くと扉が勝手に開いた。
食器を乗せたトレーはそのまま部屋から出て行き、扉は勝手に閉まった。
「………なるほど」
「今のが魔法……触らなくても物を動かせたり、浮かせることもできる」
「……不思議な力だな」
「簡単な魔法なら…ジョンも使えるかも」
「俺も使えるのか?」
「わからないけど、多分」
「簡単な魔法………例えば?」
「手の上に火を出す……とか」
手の上に火が出ると想像すると熱くないのかと思い、やってみる前にナディアに訊いてみることにした。
「……熱くないのか?」
「大丈夫、熱くない……でも本物の火だから……物を燃やしたりもできる」
「なるほど、色々と使えそうだ」
「それじゃ、私の真似をして…」
ナディアがそう言うと左手を出して、目を閉じた。
すると手のひらにだんだんと火が出始め、次第に大きくなった。
最初は小さな火だったが、次第に広がっていき、手のひらいっぱいの火になった。
ナディアが手を握ると火は消えてなくなった。
「こんな感じ、手の中に火が出るのを想像すると出てくる……らしい」
「……らしい?」
「私、想像しなくてもできるから…」
ナディアは困ったような表情をして俯いた。
今のは想像していたわけではないのか。
「……つまり教え方がわからないんだな」
「……うん」
「やってみよう」
ナディアがしたように手を出して、目を閉じて火を想像してみる。
が、いつまでたっても火が出ることはなかった。
その後、3時間ほどナディアに教えてもらいながら他の魔法も試したが結果は同じだった。
「……簡単だと思ってたの、ごめんなさい」
ナディアが机に顔を伏せてそう言った。
「……気にしなくていい、それよりもナディア」
「…何?」
ナディアは伏せている顔を少し上げて俺を見た。
「俺を呼んだ魔法はどんな魔法なんだ?」
「……ジョンを呼ぶために使った魔法は、勇者召喚魔法」
「勇者召喚魔法?」
勇者召還魔法、随分と大層な名前だが、俺は物語に出てくるような勇者ではなく窃盗や人殺しをした犯罪者、とても勇者と言えるような人間じゃない。
「……そう、何処か別の世界から勇者としてこの世界に召喚する魔法」
「別の世界?」
「うん、この世界では異世界って呼ばれてる…その異世界から転生者も来る」
どうやら俺は元々いた世界ではなく、別の世界へナディアによって呼ばれ、今ここに居るようだと段々と理解ができるようになってきた。
「そうか、どうしてそんな魔法を?」
「それは……」
理由を聞いた瞬間ナディアの顔が赤くなり、少しだけ上げていた顔をまた隠した。
「……さ、寂しかった」
「……1人なのか?」
「……うん」
「……そうか、俺と同じだな」
「……ジョンも?」
俺は小声で言ったつもりだったが、静かな空間では小声でも意味がなかったようだ。
「ああ、仲間も友人も……誰も居なくなった…」
「どうしてなのか……聞いてもいい?」
できれば過去のことはあまり思い出したくは無かったが、誰かに話せば気が楽になると思い、俺は簡単に説明した。
「……仲間は病気か殺され、友人は殺されたか見捨てられたからだ」
「………ごめんなさい」
「いや、気にしなくていい」
その後しばらく沈黙が続いた。
俺は気にせず話してしまったが彼女には少し重すぎた話だったのかもしれない。
「………ナディア、ナディア?」
「………………」
聞きたいことを聞こうとしてナディアに声をかけると、いつのまにかナディアは寝ていた。
「……仕方ない」
聞きたいことがあったがナディアが起きた時に聞くことにして、椅子の上で寝ているナディアを抱き上げて俺が寝ていたベッドに寝かせて毛布をかけた。
窓の外を見ると日が落ち始め、暗くなっていた。
(日が落ちるのが早いな、俺が起きた時にはもう昼過ぎになっていたのかもしれない)
俺は椅子に座りパーカーのチャックを一番上まで上げて少しの間寝るために目を閉じた。
読んでいただきありがとうございました。
名前の無い青年の名前は小説内ではジョンかジャックが主に使っていく名前ですが、時々名前を変えられたり、付けられたりする場面も書いて行きたいと思います。