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Unlucky  作者: 碧眼の黒猫
第二章 犯罪者の教え
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恩返し

 震える手でナイフを折り畳んでしまうとソフィを見た。

 服を脱がされて上半身が下着だけになっているソフィを見た俺はベッドに近付いた。


 ソフィは体を震わせることなく、ただ荒く呼吸をしていた。


「……落ち着け、もう…大丈夫なはずだ」


 麻痺薬のせいで既に足も手も限界だったが声まで出るのがやっとだった。

 とりあえずそれほど気温が低いわけでもないが脱がされた服を着さ直そうとソフィの服へゆっくりと手を近付け、震える手でソフィに服を着せ直し、俺はふらつきながら椅子に座った。

 動くのがやっとの状態だったが椅子に座った途端に体は動かなくなり、俺はそのまま目を閉じて眠りについた。


 小鳥の鳴き声に目を覚ますと明るくなってセリーネの血が窓から入った光で赤黒く光っていた。

 ベットを見るとソフィが死体を見ないようにか、反対側を向いてベットに座って両手で握って震えていた。


「………ソフィ」


「は、はい!…」


 ソフィは返事をするとこっちを向いたが彼女の声は震えていた。

 俺が何もする気がなくても、この姿では彼女を怖がらせてしまうだけだろう。


「ここを出られるか?」


「……できません」


「死体があるからか?」


 その問いに彼女は頷いて答えた。

 死体はベットの近く、恐らく起きた時に見てしまっているだろうが一度見ているとはいえ、一般人が人の死体を見るのは耐えられないだろう。


 俺はパーカーに着いた血が固まっていることを確認すると彼女に提案をした。


「なら俺が扉まで運ぶ、それまでは目を閉じるのはどうだ?」


「………」


 彼女は一瞬、困った顔をしたが決心したのか目を閉じて答えた。


「お、お願いします…」


「わかった。目は開けるな」


 俺はソフィを抱き上げると死体を踏まないように気をつけながら扉まで運んだ。


「あ、あの」


「なんだ」


「できれば、その……このまま出てください」


「わかった」


 俺は彼女の言う通りに抱き上げたまま部屋から出て扉を閉めて廊下でソフィを下ろすと彼女は目を開けた。


「…………」


 ソフィはまだ震えていた。

 昨日のことがよほど怖かったのか、それとも俺の姿を見て震えているのか。


「昨日のことと俺のことは忘れた方がいい」


「え?」


「簡単なことじゃないだろう、だが昨日のことと俺のことは忘れればまた普段通りに生活できる」


「………」


 ソフィは黙ったままだった。

 俺は何も言わないソフィに背中を向けてその場を立ち去ろうとすると彼女が腕を引いて止めた。


「ま、待って……ください」


「どうかしたか?」


「恩返しを……させてください」


「恩返し?……俺は人を殺しただけだ」


「でもあの人は私を殺そうとして、それを……貴方は止めてくれました。それに……服も着せてくれましたから」


 ソフィは服を着せたところを話すと恥ずかしかったようで顔を紅くした。


「と、とにかく!恩返しをさせてください!」


「どうしてもか?」


「はい!……どうしてもです!」


 ソフィの目を見るかぎり、ソフィは嘘をついているわけでもなく、ただ恩返しをしたいだけのようだ。

 断ってもしつこく言ってきそうな気がした俺は仕方なく、ソフィの恩返しに付き合ってやることにした。


「……わかった」


「…良かった。断られたらどうしようかと思いました」


「断ってもしつこく言うんじゃないか?」


「いえ、そんなつもりは……あったかもしれません。助けて貰ったのに何もしないで貴方をどこかへ行かせてしまったら後悔するかもしれませんから」


「俺と一緒にいる方が後悔すると思うぞ」


「そんなこと言わないでください。今の時間なら人通りも少ないですから、私の家に行きましょう」


「待て、血だらけの俺を家に入れるつもりか?」


「その服を洗うためには私の家しかありませんから」


「流石にそれは……」


「良いから行きましょう!」


 俺はソフィに無理矢理、腕を引っ張られながら店を出た。

 ソフィの言う通りは街の通りを歩いている人は少なく、ソフィの家に行くまで人には数人ほどしか合わなかった。

 血が付いていることに気付かれるかもしれないと周りの反応を気にしていたが、服が黒いからか特に俺のことを気にするような行動をした奴は居なかった。


 ソフィと歩いているとソフィは俺の腕を引いたまま、隣の家と繋がっているように見えるレンガでできた家の扉の前に立ち、ポケットから鍵を取り出して家の中へ入ると彼女は両手を出した。


「なんだ」


「血が着いたままだと……困りますよね?服を洗いますから、脱いで渡してください」


「確かにな、だが武器は渡さないぞ」


「わかりました」


 俺はパーカーからナイフと銃を出してからパーカーを脱いでソフィに渡した。


「良ければ、全部洗いますよ?」


「いや、良い」


「そうですか……。あっ、ズボンにも血が付いていますよ?」


 ソフィにそう言われて俺は下を向いて自分のズボンを見てみると確かに少し血が付いていた。

 しかし、洗濯して落とすほど付いているわけではなかった。


「……この程度なら大丈夫だ」


「でも私は気になります」


「………」


「それに顔にも血が付いていますし、あと……血の匂いもするのでシャワーを浴びてください…」


 俺は血の匂いに慣れてしまっているせいかそんなに匂いが出ているのかわからなかった。

 最近は濡れたタオルで拭いたり、水を浴びていないことを思い出し、汚れや匂いを落とすためにシャワーを借りることにした。


(シャワーか、話は聞いたことがあるがどうやって使えばいいんだ?)


 服を脱いでシャワーのある部屋に入った俺は1人でそんなことを考えていた。


「シャワーの使い方、わかりますか?」


「多少はわかる」


 俺のいたスラムに唯一シャワーがある場所があったが、借りられるのは一部の人間だけで俺は聞いた話でしか使い方を知らなかった。


「回る部品があるはずなのでそこを時計回りに回すとお湯が出るはずです」


 ソフィの言う通りに回す部品を探すと誰が見ても回るとわかる部品があり、そこを掴んで言われた通りに時計回りに回した。

 するとシャワーからお湯が勢いよく出てきた。


「出たみたいですね。ここに着替えとタオルを置いておきます。それと中に石鹸もあるので使ってください」


「ああ」


 俺はまず最初に顔に付いた血が落ちるように先に顔をよく洗ってから、体を洗うことにし、顔を水でよく洗った後に石鹸を使って再び顔を洗い、シャワーで顔に付いている石鹸の泡を洗い流し、その後に全身を洗った。

 シャワーを浴びて出るとタオルと着替えが置いてあった。

 タオルで体を拭き、着替えを着てナイフと銃をソフィが用意してくれたズボンの中へ入れてからソフィを探しに一階を歩き回ったが、一階には居なかった。


(二階か?)


 階段があったことを思い出した俺は階段を登って行くとソフィではない誰かの気配がしたことに気付いた。

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