賑やかな空間
「あの……名前は好きに呼んでも良いって言ってましたけど、普段はジョンって呼ばれているんでしょうか?」
エルマが名前について聞いてきた。
「ああ、ジョンかジャックと呼ばれていた。どっちでも構わない」
「なるほど、では私もナディアさんと同じようにジョンさんと呼ばせてもらいますね」
「ああ、構わない」
前の世界では本名がないのはなかなか不便で、色々な名前で呼ばれて頭が痛くなりそうだったが、ジョンかジャックで基本的に呼ばれるようになってからは別の名前で呼ぶ奴が誰なのかがわかるようになった。
「本名が無いのか?お前」
「ああ、無い」
「……聞いたら悪いかもしんねぇけど、親が死んじまったとかか?」
表情から悪いと思っているのはわかるが、どうしても聞きたいから聞いてきたようだった。
「いや、捨てられたんだそうだ。捨てられてスラムの奴が拾ってくれたと聞いている」
「ああやっぱり聞かなかった方が良かったな、すまなかった」
「別に気にしなくていい」
「……親を知らないのは辛くないですか?」
「そうだな、考えたこともなかったが……辛くはない」
「そうですか……」
自分の本当の親についてはそれほど興味を持ったことがなく、スラムの仲間が親代りをしてくれたせいか、特に気になることもなかった。
そんな話をしたからか少し馬車の中は静かになった。
静かになったことで特に話すこともない俺は寝ることにした。
起きる頃には街に着いているだろうと考え、眠りについた。
〜数時間後〜
「お兄さーん?お兄さーん!なかなか起きないな〜」
騒がしい声に目を覚ますと馬車の中に5人ほど増え、余裕があった馬車の中が少し狭くなっていた。
「あっ!起きた?」
「……誰だ?」
「私?私はセリーネって言うの!よろしくね、ジョンさん!」
知らない女性が五人ほど増えていた。
俺が寝ている間に何があったのかはわからないが、彼女達の正体は首に付いている物から大体予想はついた。
首には首輪の様な物をしていて、途中から切れてぶら下がっている鎖を見るに恐らく奴隷だろう。
「……そうか」
「……ジョンが寝てる間に奴隷商人に声をかけられたから、乗ってた奴隷の人をみんな乗せた」
「ああ、おかげで騒がしくてな。まぁ少し退屈ではなくなったな」
そう言っているハルの手にはグラスがあった。
どうやら酒を飲んでいるようで、グラスの中は恐らくワインか何かだろう。
「ふふ、これが気になるか?人間、ならお前も飲むと良いぞ。味はあまり良くないがな」
「いや、遠慮しておく」
そう答えるとハルは鼻で笑い、酒を飲んだ。
実は酒に強くないから俺はあまり飲みたくない。
「あの!ジョンさんって何が好きなんですか?」
「何が好きか?なぜそんなことを?」
セリーネと名乗った女性がそんなことを聞いてきた。
何故か俺に興味を持っているようで俺の隣に座っていたこともあってかなり距離が近い。
「何でって興味があるからですよ…。言わせないでくださいよ!恥ずかしいじゃないですか!」
「…………」
この女何かおかしい気がすると俺は思った。
何か根拠があるわけではないが何かがおかしいと俺は思った。
「そうか、だが俺はセリーネに興味はないぞ?」
「いきなり呼び捨てですか!?」
「俺の世界ではそれが普通だったからな」
セリーネと会話しながらセリーネの体を観察していると胸と服の隙間に少し赤いものが見えた。
一瞬だったが、それは血が固まったような色をしていた。
「それっておかしいですよ〜。もっと親しくなってからお互いのことを呼び捨てするものですよ」
「そうか」
「興味なさそうですね。それで〜ジョンさんって何が好きなんですか?」
「特にないな」
「え〜本当ですか〜」
さっき観察していたせいで勘違いされたのか、胸を腕で寄せるようにして谷間を作っていた。
腕で寄せなくてもセリーネの胸には十分谷間がある。
「ああ、本当だ。特に何もない」
胸に視線を向けずに顔を見てそう言うと少し落ち込んだ様子だった。
「そうですか……。自分は料理が好きなんです、街に着いたらジョンさんのために料理を作ってあげますよ」
「料理?」
「ええ、何か嫌いなものとか好きなものはありますか?」
「食えるものなら大丈夫だ」
「ふふ、何ですかそれ、面白い人ですねジョンさんは」
俺はセリーネと話しているとアルと話をしていた女性がこっちに来た。
「あの……ジョンさん、ですか?」
「ああ、なんだ?」
「私サクラギ・ランって言います。ジョンさんと同じ転移者です」
「転移者?」
転移者と言うことは誰かに召喚されてここへ来たという事のようだが、俺とは違って金のために呼び出されてこの世界へ来てしまったのだろう。
「はい、転移者です」
「そうか、奴隷商人に捕まっていたと聞いたが?」
「…はい、家で寝ていたはずなんですがいつのまにかこの世界に居て、何もわからないまま奴隷商人に捕まってしまって……これからどうすればいいですか?」
「それは俺に言われても困る」
「そうですよね……ごめんなさい」
「謝ることはない」
彼女はこの世界に来て日が浅いのだろう、しかしそれは俺も同じで彼女に役に立つ助言をすることはできない。
「……少し休んだ方がいい」
「……はい、そうします」
サクラギは空いている席に座ると少し考え事をしていたように見えた。
それからしばらくはセリーネのそれほど興味もない話を聞きながら街に着くまでに全員の名前をナディアに聞いた。
奴隷商人から買ったのではなく、ナディアが商人を気絶させて奴隷を乗せたらしい、奴隷は全員女性で名前はセリーネ、サクラギ、ローザ、エリカ、ロッシェル。
ナディアからの話を聞く限り、奴隷商人は買い手を求めていたらしく、恐らくハルの馬車が豪華なこともあって金持ちか何かと勘違いしたのかもしれないが呼び止めて奴隷を買わないかと言われたんだそうだ。
それを聞いたナディアが商人を気絶させ、奴隷を乗せて今に至るそうだ。
馬車の窓から外を眺めていると巨大な壁のような物が見えてきた。
「やっと見えてきたな」
どうやらあれが目的の街らしい、近付くにつれて壁がとても高いことがわかった。
これだけの高さで門の内側を見るとかなり厚さもあるようだった。
門を潜り抜けるとそこには活気に溢れた街があった。
やっと街に着いたー、変に長くした気がする。
次回も頑張って書きます。