潜入調査報告
「ええ、あの男は始末しました。貴方の言う通り、彼は貴方にとって邪魔な存在になっていたかもしれません。はい、確かに死体は確認しました。性別が男性で、家族も兄弟もいないため、極秘裏に死体は処分されたようです。この国は女性が頂点の生き物であると言うような国ですから」
私は無線機でラーイ帝国のある人物と連絡を取り、その人物からされた依頼を達成したことを報告していた。
無線機から音が出ないようにイヤホンを使って静かに誰もいない倉庫の中で通信を行っている。
「ええ、どうやらアンゲル帝国は新生魔王軍と同盟を組もうとしているようです。しかし、心配には及びません。人間と魔族の不仲は貴方もよくご存じでしょう?きっと、問題が生じる。大昔の魔王が復活したと報告しましたが、どうやら少々魔王軍内でその魔王に対して不信感を抱いている者が多いようです。何処から?私なら魔王軍内部に潜入することも容易いことです」
髪を指に巻き付けながらそう言うと、苦笑をしながら無理をしないようにとお願いされた。
私はこの程度のことで無理をしているなど思ったこともないが。
「自分の体は自分がよく理解していますので、心配には及びませんよ。それよりも、アンゲル帝国の伏兵達はまだ動かさないのですか?………そうですか、彼女達も指示を待っているのに嫌気が差しているようです。早めに行動しなければ彼女達が協力してくれなくなる可能性が出てきます。まだ焦る必要はありませんが、早めに行動に出た方がよろしいかと。ええ、お願いします。それと、フリーダム王国の件ですが、あの国を占領したのは前線の押し上げの為だったようです。その行動は貴方の活躍で無意味になっているとは、この国の人間は誰一人気付いていないようです。捕虜による偽の情報を本部は鵜呑みにしている様子でした。疑いもせずに」
私は近くにあったバイク、R75に股がりバイクのハンドルを軽く撫でた。
ミラーに私の金髪の長い髪が写り、私はミラーを見ながら髪を耳の後ろへかき上げた。
「そうですね。この調子で我々が劣勢になっていると思い込ませれば、いずれ大規模な作戦を立てて侵攻してくることでしょう。相手が攻勢に出た時、伏兵達を動かせば街は簡単に我々のものになり、後は魔王軍とアンゲル帝国と同盟を組む国を落としてしまえば、世界は平和になるでしょう。はい……はい、なんでしょう?……また温泉に、ですか。ええ、この戦いが終わったら、また一緒に温泉に行きましょう。平和になったら、貴方とまた温泉に行くのも良いですね」
彼の平和になってからしたいことを相槌を入れながら聞いていると、彼は何かを訊こうとして躊躇い、そのまま訊こうとしたことは言わずに誤魔化した。
「今はアンゲル帝国を落とすことを考えましょう。あの国はなかなか落ちない国です。レジスタンスが占領していた城で戦闘し、望みは被害を最小限にしつつ撤退することでしたが、考えが甘かったようです。しかし、彼らが犠牲になったことでアンゲル帝国は舞い上がっているようです。こっちが押しても押しきれないのであれば、引いて相手をこちらの網にかければ良い。そうするだけで、どんなに守りの強い国であっても簡単に落とすことができます。しかし、相手がこっちの誘いに乗ってくれなければ意味がありません。そこで、もう一度芝居を打ってくれませんか?私が考えた作戦の資料は既に送りました。手元に届き次第、目を通しておいてください。それでは、そろそろ戻らなければ怪しまれてしまいますので、この辺りで通信を切ります。何か訊きたいことなどはありますか?」
私が最後に質問がないか彼に確認すると、彼は恥ずかしがりながらも今度はいつ会えるのかを訊いてきた。
会おうと思えばいつでも会えるが、生憎私は今はまだ会おうとは思っていない。
「そうですね。役目が終われば貴方のもとへ帰れるのですが、当分の間は会うことはできないでしょう。ですが、私は常に貴方と共にあります。貴方を忘れたりはしませんから、安心してください」
私がそう言うと声で喜んでいることがよくわかった。
この程度の言葉で喜ぶとは、どれだけ単純な男なんだろうか。
彼は本当に私が彼のことを好きになっていると思い込んでいるようだ。
本当に、単純で騙しやすく、まだまだ子供な男だ。
彼から最後に名前で呼んで欲しいと頼まれ、私はその望みに答えることにした。
「それでは、また後で話しましょう。和人」
彼と名前を呼び合った後、私は無線機を切った。
ここで物語を一度区切ります。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
小説を書いてみようと思い、まずは物語の土台になる物語を作ろうとプロットなど特に考えずに1年前に書き始めたUnluckyですが、なんとか土台はできあがったと思っています。
まだ触れていない人物や疑問に残る点、出番が少なく触れられていない人物なども多く居るため、次回作はその人物達も登場させられるように頑張ってみようと思っております。
それでは、もう一度この物語を読んでくださった読者の方々に感謝を。
ここまで読んでいただきありがとうございました。