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Unlucky  作者: 碧眼の黒猫
最終章 動き出す者達
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楽しい一時

 目が覚め、周りを見渡すとベッドとテーブルに椅子や棚などがある部屋に俺は寝ていた。

 暖炉は無いようだが、ここへ来た時と同じような部屋に俺は少し懐かしさを感じた。


 まだこの世界へ来て一年も経っていないが、多くのことがあった。

 頭のおかしい奴らに襲われたり、死にかけたりするのは前の世界でもあったが、こんなに続けて起きるのは生きていて初めてだった。


 液体のわけのわからないものを体へ打ち込まれ、想像すらしたことのない本の世界に出てくる人物のような死ねない体にされ、女だらけの街で兵士なることを強制され、兵士として初めての仕事は開始して早々に窮地に陥り、失敗した。


「思い出すと散々な記憶しかないな。平和が長く続いたのはリーナの屋敷に居た時ぐらいか」


 この世界に来てからのことを考えていると、落ち着いていた時間はとても少なく感じた。

 まだスラムに居た時の方が平和だった。

 前の世界に居た時とこの世界に来てからのことを比べていると、扉が三回叩かれた。


「起きてるかしら?」


 扉の向こうからナタリアの声が聞こえ、俺は立ち上がって扉まで歩いていき、扉のレバーを掴んで下へ押し、扉を開けた。


「ああ、起きてる。それは朝食か?」


 ナタリアは両手でトレーを持って扉の前に立っていた。

 トレーの上には肉料理に温かそうなトマトスープが2人分と、料理を食べるためのスプーンが2人分乗せられていた。


「ええ、博士が作ったそうよ。自信作らしいわ」


 帰ったら料理を作ってくれると言っていたが、本当に作ってくれたようだ。

 朝から肉料理を食べられるとは、贅沢だな。


「そうか、確かにいい匂いがして美味しそうだ。一緒に食べるか?」


「ええ、もちろん」


 ナタリアを部屋へ入れ、扉を閉めてテーブルに向かい、テーブルの近くに置かれた椅子に座った。

 椅子に座るとナタリアと向き合う形となり、俺達はトレーの上に乗った二つの料理を取って自分の近くに寄せ、テーブルは狭い為、トレーは床に置いた。


「ナタリア、この世界には祈りをする文化はあるのか?」


「あるにはあるけど、私は神様に祈りなんてしないわよ。そんなのがいるならこんな世界になってないだろうし、世界は平和なはずよ」


「そうだろうな」


 俺とナタリアはスプーンを手に取り、料理を食べ始める。

 俺はスープをスプーンで一口食べてみると、自信作と言うだけあってとても美味しいことに驚いた。


「旨いわね。なんだか悔しいわ」


「ああ、確かに美味しい。相当練習しないとこんなに旨いスープは作れないな」


 トマトスープは自分で作るものより甘く感じ、城で言った甘いものも好きだと俺が言ったからこの味付けにしたのかもしれない。

 確かにとても美味しい、ほっぺたが落ちるほどではないが、自然と笑顔になるくらいには美味しい料理だ。


「食べながらでいいから、私の話を聞いてくれるかしら?」


 先ほどから俺よりも速く食べるナタリアが食べる手を止めて、顔を会わせると真剣な表情になった。


「食べ終わったら貴方を訓練所へ連れていくわ。貴方、武器とか詳しくないらしいし、兵士らしい動きもできないでしょ?」


「ああ、確かにその通りだ。ナタリア達のように無駄のない動きはできていないだろうな。銃も撃つことはできるが、まともに使えるのは拳銃とショットガンにボルトアクションだ」


「山で狩りでもしてたの?まぁそんなことはいいわ。訓練所の中は魔法で経つ時間がかなり遅くなっているから、4時間で一年分の訓練ができるの。だから、一週間あれば熟練の兵士が育て上げられるわ」


「つまり一日に4時間やっていれば、一週間で7年分の訓練ができるということか?」


「そういうことよ。だけど、死ぬ程疲れるから覚悟しなさい」


「そうか、だがもう死んでいる俺にその心配はいらない」


「フ……そうだったわね。いらない心配だったわ」


 少しだけ笑ったナタリアはそう言うと、再び料理を食べ始め、俺も同じように料理が冷めないうちに食事を再開した。

 食事を終えた俺達は寮にある訓練所へ向かった。

 廊下を歩きながら外を見ると、吹雪でかなり雪が積もっていた。


「訓練所は捕まるまでは毎日使ってたけど、誰かと一緒に訓練するのは久しぶりね」


「毎日?死ぬ程疲れる訓練を毎日か。この国の兵士は大変だな」


「そうじゃないわよ。私が毎日使ってるだけ、普通は週に3回か4回よ」


「そうか、努力家だな。ナタリアは」


「そうでもないわ。さあ、着いたわよ。ここが訓練所よ」


 ナタリアは訓練所の扉を開けて中へと入っていき、俺もその後に続いて入っていくとそこは一見学校で見たものと同じだった。

 何もない白い部屋、学校よりも狭いが魔法なら広くしたり、狭くすることもできるだろう。


「さあ、まずは射撃場を呼び出すから、自分に合った武器を選んでみなさい」


 ナタリアは壁にある端末を操作すると部屋が広い射撃場となり、狭い部屋では無くなった。

 ナタリアの近くで端末を覗いていると、ナタリアは端末の前から退いて端末の前を譲ってくれた。


 端末の前に立って画面を見てみると、銃の種類を選ぶ画面になっていた。

 画面を指で軽く触るようにして操作し、いくつかある銃の種類の中からライフルを選び、俺はM1903を選ぶと選んだ銃が壁からガンラックに縦に置かれた状態でゆっくりと出てきた。


「いい趣味をしてるな。映画みたいだ」


「ええ、本当、いい趣味してるわよね」


 銃を持ってガンラックを見てみると、スコープが置かれ、ナイフのような物も置かれていた。

 スコープを手にとってライフルに付け、早速試射をしようと射撃位置に立つと、人に見立てた絵が描かれている板の的が現れた。


 スコープの照準の中心に的の頭を合わせ、引き金を引いてすぐにボルトの取手を掴んで上へ持ち上げてから引き、薬莢が外へ排出されてからすぐにボルトを押して取手を下げて元の位置に戻す。


「いい銃だ。狙ったところへ飛んでいってくれる」


 スコープを覗いて板を確認すると、額の中心から俺から見て少し左に寄った場所に当たっていた。

 引き金を引く時に少しぶれてしまったことで中心には飛んでいかなかったが、それでもしっかりと頭に当たっていた。


「その古いライフルだけじゃなくて、今の最新のライフルとかも試してみれば?」


「いや、ライフルならこいつでいい。他ならアサルトライフルだったか、あれを試したい」


「なら、良いものがあるわよ」


 ナタリアは端末の前に立って何かをすると、壁からガンラックが出てきた。

 ナタリアはそのガンラックから銃を手に取ると、俺の側まで来て銃を差し出した。


「これは?」


「AK-47Ⅲ型よ。私の好きな傑作銃だから、試してみるといいわ」


「ああ、わかった」


 銃を手に取り、右側にある取手を引いて撃てる状態にした銃を的へ向け、引き金を引くと一発撃った衝撃の強さに体が少し後ろへ押されるのがわかった。


「反動が強いな」


「貴方、さっきもそうだったけど立ち方が悪いわね。それだとフルオートで撃った時に反動を抑えられなくて後ろに倒れるわ。ちょっと貸してみて」


 ナタリアに銃を渡すと、ナタリアは銃の安全装置をかけてから構える姿勢になった。


「背中はこのくらい丸めて、足はこの位置が良いけど、銃の持ち方で足の位置も変わるからとりあえず普通はこの位置で覚えて、アサルトライフルを撃つ時はこの姿勢が基本になるからよく覚えておくことね」


「ああ、覚えておこう」


「私は口で説明するの好きじゃないからやって覚えて」


 ナタリアに銃を渡され、安全装置を解除してナタリアの構え方を真似してAKを持って構え、的へ向けて引き金を引くと確かにさっきよりも後ろへ持っていかれるような感じはかなり少なくなった。

 しっかりと力を入れて姿勢を保っていれば、この銃を連射したとしても大丈夫だろう。


「良いじゃない、そんな感じよ」


「ナタリアの教え方が俺には合っているからだな。説明よりも見るかやって覚えた方が覚えやすい」


「そう、それならよかったわ。いちいち説明するのは面倒だし、何度も説明するの嫌いだから一度で覚えてくれるとこっちとしても助かるわ」


「なるべく一度で覚えられるように努力しよう」


「ええ、そうして。じゃあ、次はそうね………」


 俺はナタリアに教えてもらいながら射撃訓練を色々な銃で行い、自分に合った銃探しをしばらく続けた。

 銃について教えてもらっているうちに彼女の知識や経験を頭に入れていった俺は段々と銃について少しはわかるようになってきた。


 段々と銃のことを覚えていきながら、時々休憩を入れて雑談をしたり、彼女から国について知っていることやラーイ帝国についてのことも彼女が知っている限りのことを教えてもらった。

 彼女はAK-47が大好きらしく、一度話し始めると止めることができなかった。


 そんな彼女と休憩の時間にする会話はとても楽しいものだった。

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