ソフィの決心
「落ち着いて、冷静になりなさい」
廊下にある椅子に座って、ジョンさんが無事なことを祈っていると、ジョンさんが病室へ運び込まれてから短い距離をずっと往復しているナタリアさんが私の前で立ち止まるとそう言った。
「えっ?……」
「えっ?……あぁ、ごめんなさい。独り言よ」
私と顔を合わせたナタリアさんはそう言うと、再び短い距離を行ったり来たりと繰り返した。
「ナタリアさんも、ジョンさんのことが心配なんですね」
「はぁ!?違うわよ!!……あのクソ男、死んだりしたら火葬じゃなくて鳥葬してやるわ……。まだ借りを返せてないって言うのに……」
ナタリアさんは怒っているように見えはするが、相当心配しているらしく、時々落ち込む表情を見せていた。
彼女はヘリの中で声をかけていた時もそうだったけれど、借りを返せていないから死なれたら困ると言い続けていた。
私も彼女と同じように恩返しをできていないから、彼にはまだ生きていて欲しい。
ただ部屋からフランさんやジェーンさんが出てくるのを待っていると、廊下を誰かが走って来る音が聞こえた。
ガスマスクをした女性がエリカさんと一緒に走ってくると女性は病室の扉を開けようとドアノブを握った。
しかし、女性がドアノブを回そうとしても回ることはなく、押したり引いたりしても開くことはなかった。
「結界魔法……?どうして……」
「中には入れませんよ。今、フランさんが治療していて、邪魔が入らないように結界が張られていますから」
「ジョン………」
女性はドアノブから手を離すと、廊下にある椅子に腰を落とした。
「ソフィさん、ジョンさんは今どうなっているんですか?」
エリカさんが隣へ来て座ると硝煙の臭いがし、つい先程まで戦いに出ていたのがすぐにわかった。
エリカさんも心配だったのか、服を変えずにここまで来たらしく、臭い以外にも顔や戦闘服に着いている汚れが目立った。
「お腹を酷く抉られて、心臓に3センチの穴が開いているそうです。ナタリアさん達が回復魔法を使ってくれたおかげで助かる可能性はあるそうですが、それでも助かる確率は低いそうです」
「心臓に3センチ………それくらいなら助かるような気がしますが………、応急手当として回復魔法を使っているのなら尚更……」
エリカさんが喋っていると、病室の扉が開き、フランさんが出てくると顔を誰にも合わせずに足早に去っていった。
その様子を見たナタリアさんとガスマスクの女性は病室へと駆け込んでいった。
私も急いであとに続いて病室へ入ると、ベッドの側にある椅子に座っているジェーンさんが窓の外を見ていた。
ベッドの上には、眠るように………というより、寝ているジョンさんが居た。
どうやら治療は無事に終わったようだ。
「起こさないでやってくれ、死ぬほど疲れているようだからな」
「……ボス、それって相手が死んでる時に映画で使われた台詞じゃ……」
「ああ、実際死んだことにしようと思っているからな」
ジェーンさんが軽くそう言い、どういうことなのかわからずに私はエリカさんと顔を合わせた。
「は、はぁ……?……別に死んでも何もない奴ですから、特に何も影響はないと思いますが………」
「ああ、影響はないだろう。この国に男が居ることの方が影響があるからな。そこで、ジョンには女として生きてもらう。本人は嫌がっていたがな」
ジェーンさんは立ち上がると、ナタリアさんに近付いて肩に手を置くとそのままナタリアさんを引っ張るようにして病室から出ていった。
「確かに、この国ではジョンさんのような男性が居るのは問題でしょう」
「この国のことをあまり知りませんが……、痴漢で処刑になるとは噂で聞いたことがあります。本当にそうなんですか?」
エリカさんに嘘のような噂の話を聞いてみると驚いたことに頷きが返ってきた。
「はい、相手が男性であれば、性犯罪として即死刑にできる法律があります。ここでは男性には人権も、権利も、価値も、無いようなものですから」
女性が優遇されていることは街を歩いていれば鈍感だと言われる私でもわかるほど、この国では女性が大切にされている。
街で男性を稀にしか見かけないほど、この国は男性が少ない。
「………助けたレジスタンスの方達も、ここに居ては危ないかもしれませんね」
私はジョンさんの寝顔を見た後、私はレジスタンスの方達を助けることを決心し、歩いて病室から廊下へと出ていき、レジスタンスの方達が治療を受けている病室へと向かうことにした。
たとえ離れていても、恩返しができないわけじゃない。
廊下を歩いているとジェーンさんが廊下の角から現れ、私は足を止めて顔を合わせた。
「ここを出ていくのか?行き先も決まっていないように見えるが」
「ここにいてはレジスタンスの方達が危ないですから。心配は無用です」
「そうか、なら止めはしないが……あまり無理はせずに、適度に休めよ」
ジェーンさんはそう言い残すと歩いてジョンさんの居る病室へと向かって行った。
エリカさんが立ち止まって敬礼をし、ジェーンさんはその横を手を軽く上げて通りすぎていった。
エリカさんはジェーンさんの背中を見て手を下ろすと小走りで私の方へ向かってきた。
「ソフィさん、レジスタンスの方達とここを出るつもりですか?」
エリカさんは真剣な表情で質問をしてきた。
私はその質問に頷くと、エリカさんは私の右手を握ってきた。
「私も一緒に行きます」
「心配要りませんよ、エリカさん。御気持ちは嬉しいですが、エリカさんは……」
「いいえ、もう決めたんです。ソフィさん、貴女は見ていて心配になりますし、あまり先を考えないようですからね」
「そんなことは………無いとは言えませんね……」
「だから、貴女には支えてくれる人が必要なのです。私ももうこの国に居る意味もあまりありませんし、教官……じゃなくて陛下にもここを出た方が良いと言われましたし、特にやりたいこともありませんから」
エリカさんは私の手を両手で包むようにして握ると、軽く上下に揺らした。
「よろしくお願いしますね。ソフィさん」
「う、う~ん………エリカさんがそう言うのでしたら、特に止める理由もありませんから………わかりました。よろしくお願いします。エリカさん」
私はエリカさんと握手を交わし、彼女の願いを受け入れることにした。




