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Unlucky  作者: 碧眼の黒猫
第十一章 たった一人の救出隊
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追ってくる男の正体

「クソッ………そうやってお前は邪魔をするんだ………。お前は世界を平和にしたいとは思わないのかよ!?」


「平和な世界に興味はあるが、お前は言っていることとやっていることが矛盾している。地下で同じ考えをしていたはずのクラーガとその仲間を殺したな?外へ出てきてみれば今度はお前の仲間のがレジスタンスの連中を殺していた。ソフィの言う通り、お互いに銃を向け合っていては仲良くはできない。なら話し合いをすればいい、だがお前はそんな簡単なこともせずに一方的に決め付けて邪魔をする奴を殺している。自分に従わない、気が合わない、気に食わない、だから殺す。そんな奴が平和な世界にできるとは思えない」


「うるさい……クソッ……お前と話してると頭が痛くなってくる!」


 奴は足のホルスターから銃を取り出すと俺に向けてきた。

 そして、奴が引き金を引くと周囲に銃声が響き渡った。

 しかし、奴の震える両手で放たれた銃弾は大きく外れて飛んでいき、奴は何回も引き金を引いて俺を殺そうと目を見開きながら撃ち続けた。

 だが、一発も俺に当たりもしなければ、かすりもしなかった。


「ハァ……ハァ……クソッ、クソッ!」


 奴は銃を俺に投げつけると殴りかかってきた。

 投げつけられた銃を手で払い、奴の右手の攻撃を左へ避けながら右手で拳を作り、奴の腹を殴ると奴は前のめりの姿勢になった。

 そこへ更に自分の右手を引きながら左の拳で奴の後頭部へ拳を上から落とすようにして殴ると、奴は雪の積もった地面へ顔面から倒れた。


 地面に倒れた奴の様子を少し見ていたが、痙攣を起こさず、ただ気絶しただけだった。

 技ではないが、後頭部を強打されたら普通は痙攣を起こして最悪死ぬこともあるが、転生者は予想以上に体が丈夫なようだ。


「ジョ、ジョンさん!いくらなんでも後頭部を殴るなんて……」


「殺そうとしてくる相手にそうは言っていられない、こっちも殺す気で挑まないと殺られる」


「ジョンさん……」


「ヘリが来たぞ。ソフィ、怪我人を運ぶ準備をした方がいい」


 ソフィにそう伝え、俺はさっきから感じる視線の方向へ顔を向けた。

 視線を感じるのは崖の上から、崖の上に黒い服を着た男が立っているのが見え、そいつは研究所で再び現れた奴だとすぐにわかった。

 こんなところまで追ってくるとは、しつこい奴だ。


 俺の視線に気が付いたからか、奴は崖の向こう側へと振り返ると向こう側へ消えていった。

 諦めたのかと崖から視線をヘリへ向けて歩き出すとすぐ後ろから殺気を感じ、俺は反射的に素早く体を後ろへ向けた。

 後ろを見ると倒れている奴のすぐ近くに俺を凝視したまま動きもせずにいる男がいた。

 さっきまで確かに見上げるほど高い崖の上に立っていたはずの男が一瞬でここへ下りてきたことに、俺は驚きを隠せなかった。


「………」


 男は相変わらず、無表情で呼吸するような音も聞こえない不気味な奴だった。

 だが、不気味だが何故か懐かしさを感じる。

 そう、あんな格好をする奴を俺は知っている。

 俺の親とも言える男に。


 だが、信じたくはなかった。

 こいつは会った時から殺気をしか向けてこない、身長もそうだが外から見た印象は全くの別人だ。

 だから、この懐かしいような感覚は気のせいだろう。

 そう思いながら俺は奴と向き合っていた。


「ジョンさん!」


「ソフィ、急げ!早くそいつらをヘリに乗せろ!」


 奴から視線を反らさずに大声でソフィに急ぐように言う。

 こんな化け物に勝てる自信は無いが、なんとか頑張れば時間くらいは稼げるはずだ。


 俺はそう、思っていた。


 目の前の化け物が目の前から消えた瞬間、俺は後ろから殺気を感じ、振り向こうとした時、背中に勢いよく何かを刺されるような感覚を感じた。

 右の脇腹から血で真っ赤になったナイフの刃が出てきていた。


「ぐっ………うぐっ!?ぐぅぅ……!」


 ナイフを動かされて傷口を広げられていき、傷口から出てきた血が足元の雪を赤く染めていった。

 何回か抉られてからナイフを抜かれ、傷口を押さえて前へ逃げようとするが、左肩を掴まれて無理矢理向き合わせられると肩を掴まれたまま、引き寄せられて右手に持っているナイフで腹の中心を刺された。


「がぁっ……!……う…うぅ……ぅ……」


 倒れそうになる体を右手で男の肩を掴むことで支え、左手で男の右腕を掴んだ。

 男は変わらず何も言わずにナイフを体から抜くと、再び腹を刺してきた。


「うっ………」


 口の中に血が溜まっていき、口から溢れるほどの血が体の奥からでてくる。

 それと同時に、体も段々と冷えてきたらしく、寒気を感じていた。

 刺されたことで一瞬だけ力が抜けてしまい、男の肩から右手が滑り落ちた。

 左手で男の右腕を強く掴み、右手を上げて男の肩を掴もうとすると布のような物を掴み、体を何とか持ち上げようと顔を上げて力を入れると右手で掴んでいた布がずれ、男の顔半分を覆っていたバンダナが無くなったことで、男の顔全体が見えるようになった。


 悪い予感ほど、よく当たる。


「なっ……マ……マーカス………そん……な………まさか………」


 俺を殺そうと追いかけてきていた男はマーカスだった。

 わかってはいたが、信じたくはなかった。

 勘はよく当たる方だと自分でも思っていたが、外れてほしかった。

 こんな再会、俺は望んでいなかった。

 マーカスは、そんなに俺を憎んでいたのだろうか。

 ここまでしつこく追いかけてくるほど、俺のことが憎かったのか。


「ジョンさん!!」


 だが、憎まれても仕方ないのかもしれない、ジェシカを失って俺がスラムへ戻ってから、次々に仲間が死んでいったんだ。

 しかも、その大半が俺と盗みの仕事に付いてきていた奴だ。


「ナタリアさん!私が引き付けます!早く彼を!」


「ええ!……まだ死んでないでしょうね?早く逃げるわよ」


「許せ……マーカス………俺は………俺は………戻るべきじゃ………なかった。………あの時………勝手に………一人で死んで……いれば…………誰も死なずに………」


「ちょっと、しっかりしなさい!目を閉じようとしないで!意識を保ちなさいよ!バカ!私、まだアンタに借りを返してないんだから、今死なれたら困るのよ!私が借りを返すまで死ぬんじゃないわよこのクソ男!目を閉じるな!!」


 本当に生きる意味を失ったような気がする。

 マーカスにここまで憎まれていたとは、思いもしなかった。

 だが、マーカスが俺に死んでほしいと願っているのなら、このまま目を閉じればマーカスの思い通りになる。

 せめて、最後はマーカスの望み通りにしてやろう。


 それが、最期に俺ができることだろう。


「迷惑……かけたな…………ナタリア………俺みたいには………なるなよ………」


 俺を担いでヘリに乗り込もうとしているナタリアにそう言い、俺は静かに目を閉じた。

 ようやく、楽になれる。

 また、奴らに会えるだろうか。


「………ちょっと!目を開けなさい!……目を閉じるな!!開けろ!!ここで死ぬな!!……この、クソ野郎!!」


 ナタリアの叫ぶ声が小さくなっていき、それ以降ナタリアの声が聞こえることはなくなった。

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