村の生き残り
宿に戻るとアルやナディアが誰かと話しているのが聞こえてきた。
「大丈夫だって!元気だそうぜ?」
「アルの言う通り、元気…出して?…火傷や傷の痕もほとんどなくて…顔も綺麗なんだから」
どうやらこの村に来た時に助けた女性が目を覚ましたようだ。
部屋の前に行くと俺の存在にアルとナディアが気づいた。
「おう、お前どこに行って……ってそれなんだ?」
「?ああ、女の服だ」
「お、女の服?お前一体何してきたんだ…」
「その服…昨日の女の人の?」
「ああ、そうだ」
「えっ?それ昨日の人のなのか?なんでお前が持ってるんだよ」
「死んだから金になるものを探したんだが無かったからな、身につけていた物を全部貰った」
「え?ぜ、ぜ、全部ってお前……まさか丸裸に?」
「ああ、そうだ」
「で、でもなんでだ?死んだって…」
「あの女は異常者だった。子供を切り刻むのが趣味のな」
「なんだって!?そんな風には全然見えなかったぞ!?」
「あの女は殺すことで子供が幸せになると言っていた。子供にとって死ぬことが幸せなんだと」
「そんなのは…幸せじゃねぇよ。そんなのが幸せなわけねぇよ…」
アルは女の正体を知ってかなり衝撃を受けたようで俯いたまま近くにあった椅子に座って頭を抱えた。
「…大丈夫か?」
「ああ、すまねぇ…ちょっと信じられなくてよ」
アルはしばらく放っておいた方が良いと思い、俺はこの村に来た時に助けた女性に話しかけた。
「腕は痛まないのか?」
「えっ、あ、はい、大丈夫……です」
「そうか、腕以外にも怪我をしていたはずだが…」
「多分…まだ回復魔法で回復できる程度だったから治ったんだと思う」
「なるほど、良かった……とは言えないが腕一本無くなっただけなのは奇跡だな」
崩れていた建物からアルに担がれて出てきた時はもう助からないと思っていたがやはり魔法は凄いと改めて感じた。
「……すみません」
「どうかしたか?」
「あの……トイレは……どこですか?」
「トイレか、案内する。立てるか?」
「……ええ、大丈…あっ!」
女性が立ち上がろうとしたした時、無い方の腕に力を入れて立とうとしたため女性がバランスを崩し、倒れそうになった所を素早く支えた。
「大丈夫か?」
「……すみません、ありがとうございます」
「気にしなくていい」
俺は女性を支えながらトイレへ案内をし、女性がトイレを済ませるまで扉の前で待った。
「…どうして…どうしてこんな目に…」
女性はどうやら泣いているようで、すすり泣く声が扉越しにも聞こえてきたが俺は何も言わずにそのまま待ち続けた。
やがて時間が経つと泣く声も無くなり、女性が出てきた。
「ごめんなさい、長くなってしまって……あの……聞こえてましたか?」
「ああ、聞こえていた」
女性は恥ずかしかったのか顔を赤くして顔を隠すように俺に背を向けた。
「あ…あの…」
「誰にも言わないでほしい…か?」
そう言うと女性は頷いたのを見た俺はわかったと答え、女性を支えて部屋へと戻る途中でナディアと会った。
「ジョン…ハルが馬車の用意ができたらしいからそれで街に行こう」
「今からか?」
そう聞くとナディアは頷いて答えた。
確かに人数的にあの車では狭くなってしまうことを考えると当然だろう。
俺は女性を支えたまま玄関から外に出ると大きな馬4頭の後ろに大きな馬車が繋がれていた。
「準備は済ませたか?人間」
「ああ、大丈夫だ」
「えっ?…これに…乗るんですか?」
女性は乗ることを少しためらっているようで自分から乗り込もうとはしなかった。
「何をためらっている。乗らないのであれば置いて行くぞ」
「少し乗り込む所が高いな、少し待て」
女性が乗り込めるように俺が先に乗り、女性を引っ張って乗り込ませようと考えた。
「大丈夫か?」
「……はい!」
何かを決心したように俺が差し出した手を掴み、俺はその手を引っ張って女性を乗り込ませた。
「おっ、来たな。すげえ座り心地良いぜこれ」
「お前、もう大丈夫なのか?」
「ああ、いつまでもあの部屋で落ち込んでるわけにもいかねぇし、元気出せって言った奴が元気ないんじゃダメだと思ってな」
「…確かにな」
「…みんな乗ったかな?じゃあ行こうハル」
「ああ、じゃあそこを閉めてくれナディア」
ナディアが馬車の扉を閉めると馬車がゆっくりと動き始めた。
「ナディア、頼んでおいたことはやってくれたか?」
「うん、大丈夫。全部しまったよ」
「そうか」
「ん?なんか頼んでたのか?」
「ああ、あの宿にあった家具や服をナディアに頼んで全部ナディアの魔法でしまってもらった」
「ぜ、全部だって?」
「ああ、売って金にできるかもしれないからな」
「私…そんなにお金持ってるわけじゃないから…だからお金を稼ぐまでは物を売ってなんとかしようってジョンが」
「あ!だったらあの美女が言ってた冒険者ギルドってのはどうだ?」
「冒険者ギルド?」
「冒険者ギルド……危険な仕事から簡単な仕事まで様々な仕事があるところ……危険な仕事ほど報酬は多いけど死んじゃうこともあるから実力に自信がないとまずやらない……かな」
「えっと確かまだ誰も見つけていないところとか見つけると報酬が貰えるって言ってたぜ」
「まだ人が入っていないダンジョンや未確認の生物や植物、魔物等を見つけて報告して存在が確認されればお金は貰えるよ、未確認のモンスターや魔物は倒せば倍になるけど……とても危険」
「なるほど、わかった。ならまずその冒険者ギルドで仕事探しか」
「その前に…アルとジョンは冒険者として登録しないと報酬は受け取れない」
「ナディアは登録しているのか?」
「うん、登録してある」
「わかった。なら街に着いたらまずはその登録を済ませて仕事を探す」
「あ……あの!」
「ん?そうだ、この女性はどうするんだ?」
「どこか……親しい人の家とかはない?」
「えっ……えっと、ありません…」
「そうなんだ……じゃあ、どうしようか」
「一緒に連れていくわけにはいかないだろう」
そう言うとナディアは何かを考えているようで、目を閉じて少し考え込み、そして目を開けると予想外の提案をした。
「うん、一緒に連れて行こう」
「………ナディア、さっき俺が言ったことは聞いていたのか?」
「聞いてた。だけど義手を付けてあげるまでは一緒に連れて行った方がいいんじゃないかな?」
「義手か……心当たりがあるのか?」
「うん…それで良い?」
「…はい!よろしくお願いします」
「義手を作ってる街はとても遠くだから、しっかり準備をして行こう」
「わかった。それで名前は?」
「あ……はい、私はエルマ・アルシュターと言います」
「そうか、俺のことは好きなように呼んでいい。名前がないからな」
「俺はアルベルト・ローグベルトだ。よろしくな!」
「私はナディア、こっちの名前はハルバード」
「ナディア、勝手に紹介するな」
「だって、ハル自分から自己紹介することないから」
「当たり前だ。なぜ人間に教えなくてはならない」
「こんな感じだけど根は優しいから気にしないで」
「おい、何を勝手なことを…」
「はい!よろしくお願いします!ハルバードさん!」
そう言われたハルはそれ以上何も言わずにため息を吐いた。
とりあえず街に着いた時の目的はできた俺たちはハルの用意した馬車で街を目指した。
小説書くの難しいですが、物語を考えるのは楽しくて良いですね。