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Unlucky  作者: 碧眼の黒猫
第十一章 たった一人の救出隊
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転生者との再戦

 外へ出てきた奴は俺に走って向かってくると腕を引いて右手で殴ろうとしていた。

 奴との間合いを詰め、奴が右手を出してきた瞬間に左へ避け、両手で腕を掴んで奴の腹へ右膝で蹴りを入れると奴が前のめりになった。

 後頭部に右手を置いて下へ押してやると奴は俺に右手首を掴まれた状態で仰向けになった。


 倒れた奴の手を離してやり、後ろへ下がっていると奴は立ち上がって再び同じように腕を引いて殴ろうとしてきた。


 しかし、どこかさっきとは違う動きに俺は構え、奴が腕を振ってこようとするような動きをしたかと思うと、体をひねらせて右足で回し蹴りをしてきた。


 奴の回し蹴りを両腕で受け止めて奴へ近付き、脇腹を左肘で殴り、殴られたことで後ろへ下がっていこうとしているところに左足を軸にして体をひねらせ、右足で奴の顔面を蹴った。

 顔面を蹴られた奴は後ろへ倒れ、顔の右側を押さえていた。


「殴り合いは苦手か?騙すような動きはいいが、体がついていけていない。それだと俺とは戦いにならないぞ」


「クソ………」


 奴は唾を吐き捨てて立ち上がると銃をホルスターから出した。

 銃で撃つのか、殴るのかどっちかにしてもらいたい。


「なんだ?結局、それを使うのか?殴るのか撃つのかどっちかにしろ」


「くっ………黙れ……黙れぇぇぇぇぇ!!」


 奴が引き金を引くのと同時に横へずれて銃弾を避け、走って奴に手が届く距離まで詰め寄る。

 詰め寄った俺はソフィがやっていた技を試してみることにし、奴の銃を左手で掴んでスライドを引き、銃から弾が出てきたのが見え、スライドが戻っていく間に右手でボタンを押して弾倉を外へと出した。


 銃から弾倉を抜いてすぐに右手で奴の顎を押し上げ、右足を奴の右足の後ろへ出して銃を持っている手を左手で引いてやると、奴は体を横に向け、俺に腕を引かれた状態になった。


「もう懲りたか?いい加減諦めろ」


 腕を離して後ろへ下がり、奴が立ち上がるのを待っていると通路に集まってきていたレジスタンスの奴らの間から見覚えのある顔が走って来ていることに気が付いた。


「ソフィ?どうしてここに……」


「馬鹿!!油断するな!!」


 独房から出てきたナタリアがそう叫び、俺はナタリアに視線を向けてからすぐに、奴に視線を向けると奴は弾倉を抜かれた銃を俺に向けていた。

 まだ銃に弾が残っていると奴は知っているようだった。


 疑問が浮かぶよりも先に動こうとしたが、奴の銃から火が吹いたのが先だった。

 奴の銃から銃弾が発射されるのがゆっくりに見え、俺の視界に見える人や物すべてがゆっくりに見えた。

 見えるもの全てがゆっくりになっている中で体に衝撃を感じ、目だけを横へ向けるとソフィが俺を突き飛ばし、弾丸がソフィの右目を掠っていった。


 ゆっくりに見えていたソフィの動きが突然速くなり、普通の動きの速さに戻った。

 体の上に覆い被さるようにして一緒に倒れたソフィは顔を上げた。

 ソフィは顔を上げて俺と顔を合わせると右目から血が流れ出ているというのに微笑んだ。


「良かった……。間に合った……」


「ソフィ……、右目から血が出てるぞ。早く治療を……」


 俺が治療をするように言おうとしている時に奴がどこからか取り出した弾倉を銃に入れ、歩いて近付いて来ていることに気付き、俺はソフィを体の上から退かし、立ち上がって構えた。


「おい!なにしてるカズ!」


 クラーガの声が聞こえると奴は動きを止め、声のする方へ顔を向けた。


「邪魔をしないでくれ!クラーガ!」


 銃のスライドを引いた後に離すとクラーガにそう言い、奴は銃を俺に向けた。


「ジョンさん、私の後ろに……」


 前に出ようとするソフィを横に手を出して止め、俺は奴と睨み合った。


「やめるんだ。カズ、落ち着け。そんなことをしてもなにも…………ソフィ?」


 睨み合っている俺達を止めようと近付いてきたクラーガは、俺の後ろにいるソフィを見ると彼女の名前を呟いた。


「お父さん……?」


「ソフィ………その目……まさか……………カズ…………お前がやったのか……?』


 ソフィの顔を見たクラーガは奴に視線を向けてそう聞くと、奴は目を泳がせていてクラーガと目を合わせようとはしなかった。


「ち、違うんだクラーガ…………その人が突然そいつを突き飛ばしたから………その…………そいつに当たるはずの弾がその人に当たって………」


「それで?………目を潰したんだな?」


「そう……だけど…………回復魔法を使えば……」


「治らねぇよ……。目は治せねぇ………。治せるのは傷だけ、目は見えないままだ。テメェ……よくも娘の目を潰してくれたな?」


 クラーガから激しい怒りを感じる。

 目つきは鋭く、手は震えるほど強く握っていて相当、怒っているのがわかる。

 怒るのも無理はない、自分の娘の目を潰されたら誰だって怒るだろう。


「そんな………でも、やってみないとわから……」


「わかるんだよ。何人も見てきたからな。お前らがいた世界の魔法がどんなものか知らねぇけどな。テメェがいた世界の魔法と同じだと思うんじゃねぇ!!」


 クラーガは奴の近くまで行くといきなり下から奴の顎を殴り、殴られた奴は顔を天井に向けるとそのまま後ろへ倒れた。

 クラーガは腕を下ろして振り返り、俺の近くへ駆け寄ってきた。

 心配そうな表情をしているクラーガの邪魔をしないように俺は横に出していた手を下げて横へずれた。


「ソフィ!……あぁ、綺麗な顔に酷いことを……大丈夫か?」


「うん、大丈夫だよ。お父さん」


「そうか……すぐに治そう……。もう……その目が見えることは無いだろうが、娘の顔に傷があるのは見ていられない」


 泣きそうになっているクラーガを慰めるようにソフィがクラーガに抱き付き、クラーガはソフィに抱き付かれて静かに泣きながら抱き返した。


「親子の再会か……」


「いい結果……とは言えなさそうね」


 隣に歩いてきたナタリアがそう言うとため息をついて俺の顔を見た。


「……言い訳をするつもりはない」


「そう………」


 俺の油断と考えの甘さが招いた結果だ。

 ソフィの目を潰すことになってしまったことに後悔し、俺は目を閉じた。


「……別に、貴方のせいなんて言ってないわよ」


「いいや、俺の油断が招いたことだ。慰めはいらない」


 閉じていた目を開けてナタリアに顔を向けると、彼女は顔を少しだけこっちに向けて目を合わせた。


「だが、ありがとう。君の言葉で少しは気が楽になった」


「は、はぁ?……べ、別に私は慰めようとして言ったわけじゃ…ないし………。……と言うか、私はただ……貴方を責めるような言葉になったかと思ったからそう言っただけで………本当に慰めようとしたわけじゃないから……」


 彼女は少し顔を赤くしているのが見え、すぐに横に向いてしまったせいで表情はよく見えなかったが、どうやら恥ずかしかったらしい。


 レジスタンスの奴らが歩いて近付いて来ていることに気が付き、俺は顔をそちらに向けた。

 近付いてくる奴らの表情からして捕まえようと思っているのではなく、俺達が逃げられないように逃げ道を塞いでるだけのようだ。


「リーダー、あんなことをしたらカズが何をするかわかりません。どうしますか?」


 クラーガの近くまで行った男がそう言うと、クラーガはソフィの肩に手を置いて優しくソフィを離れさせた。


「すまん、頭に血が上っていた。こんなことをしたら確かに何をするかわからないな。あいつを拘束して牢屋に入れてくれ」


「わかりました。……それと、その人は私達の仲間ですか?見覚えがありませんが……」


「………ソフィ、そういえばいつここに来たんだ?」


 仲間に聞かれたことでやっとソフィが何故ここにいるのか疑問に思ったらしく、クラーガはソフィと顔を合わせて聞くと、ソフィは俺に顔を向けた。


「ジョンさんを助けるために、今日ここに来たの」


「ジョン……あいつのことか……」


 クラーガは振り向いて俺に顔を向けると睨むような目付きになった。

 それにソフィが気が付き、目を細めてクラーガの耳をつまむと引っ張った。


「痛たたっ!」


「お父さん、彼を睨まないで」


「わ、わかったわかった。怖い顔をしないでくれ、ソフィ」


 引っ張られた耳を撫でながらクラーガはそう言い、それを聞いたソフィは微笑み、ソフィの笑みにクラーガは苦笑していた。


「すっかり女らしくなったなぁ……。……背丈も胸も大きくなって、大人の女性だな」


「そうかな?お母さんみたいに綺麗になれたかな?」


「ああ、若い頃の母さんを思い出すよ。しかし、本当に母さんと似た顔になったな……」


 少し余計な言葉が入っていたような気がするが、それを気にせずにソフィは自分が大人らしくなったと言われたことが嬉しいらしく、顔を赤くしていた。


 視線を2人から倒れた奴に向けると奴が上半身を少し起こして持っている銃でクラーガを狙っていたことに気が付いた。


「クラーガ!!」


 俺は名前を叫んでレジスタンスの一人のホルスターから銃を抜き取り、奴に銃を向けて引き金を引いた。

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