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Unlucky  作者: 碧眼の黒猫
第十一章 たった一人の救出隊
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転生者の過去

 目を開けると俺は何も見えない牢屋の中で壁にもたれ、ナタリアに抱き付かれていた。

 ナタリアを離そうとゆっくりと腕を掴んでいる手を掴んだが、彼女の言葉を思い出し、クラーガが言っていたことも思い出した俺は、ナタリアの手から手を放した。


「……今、何しようとしたの」


 ナタリアの声が突然聞こえ、俺は何も見えないがナタリアがいる方へ顔を向けた。


「いや、何も」


「嘘つき、絶対今私の手を離させようとしたでしょ」


「……そうだ。あまり近くにいるのも悪いかと思ってな」


「………今度は嘘じゃないようね」


 そういえばナタリアは嘘が嫌いだと言っていたことを思い出した俺は、観念して本心を彼女に伝えると、納得してくれた様子だった。


「……貴方、私のことをどう思ってるの?」


「急になんだ?」


「………いえ、やっぱりなんでもない。忘れて」


「そうか」


 深く追求せずに相槌をすると、お互いに何も喋らずに時間が過ぎていった。

 もうひと眠りしようかと思っていると誰かが歩いて来る音が聞え、独房の外が明るくなった。

 外が明るくなるとナタリアは俺の腕から手を放し、少し離れて横になった。


 少しすると通路から黒いコートを着た少年が現れた。


「主人公のお出ましか」


「なんのことだ?」


 俺がふざけてそう言うと、「カズ」とやらはそう返してきた。


「ほら、食べ物だ」


 物語の主人公様はありがたいことに独房にいる俺に袋に入った丸い団子のような物を渡してきた。

 袋を受け取った俺は袋を開けて中身を見た。


「なんだ?鬼退治に一緒に来て欲しいとでも言うのか?」


「違う、いや、そんなに違いはないか。仲間になって欲しいと思って、誘いに来た」


「そうか、それでこの団子にはどんな効果があるんだ?食べた奴が仲間になってくれる効果か?」


「何も効果はない、ただの団子だ。というか、なんで日本のおとぎ話を知ってる……」


「日本が好きな奴が友人に居てな、昔よく日本の話を聞かされた」


 渡された袋から団子を1つだけ出し、匂いを嗅いだり、舐めたりして毒がないかを確認する。


「本当にただの団子だ。そんなに疑わないでくれ」


「それは難しいな。俺を殺そうとした奴から貰った物を疑わないなんて、よほど無警戒な奴ぐらいだ」


 毒は入っていないことがわかった俺は舐めた団子を口の中へ入れ、袋を閉じて置くと独房の前で転生者が地面に座った。


「まぁ、当たり前か。とにかく誘いに来たのは本当なんだ。俺は和人、峯岸和人。アンタは?」


「信用してない奴に教える名前は無い。ノーネームとでも覚えておけ」


「じゃあ、ノーネーム。俺の、俺達の仲間になってくれないか?」


「断る」


 顔を全く合わせずに目を閉じてそう言ってやると、奴は短いため息をした。


「……頼む、平和の為に協力してくれないか?アンタみたいな優秀な人材が必要なんだ。見たところ転移者のようだし、俺達のところにいた方が絶対に安全だ」


「平和の為に……か。お前の言う平和とはどんな物なのか聞かせてくれ、お前の考え次第で答えを決める」


「わかった。俺の考える平和は男女平等で、差別もなく、争い事も無い。皆が自由に笑って暮らせて、俺みたいな奴が必要なくなる世界。それが俺の望む平和だ」


 クラーガと似たような理由だが、問題なのはこの次だ。

 こいつが俺の質問にどう答えるかで俺はクラーガが言っていたことが本当なのかがわかる。


「そうか、……1つ聞いていいか?」


「ああ、構わない」


「相手がお前の邪魔をするなら、躊躇うことはないのか?」


「邪魔をする奴らはみんな狂った奴か、犯罪者みたいな奴らばかりだ。躊躇いなんて無い」


 奴の言葉を聞いた俺はクラーガが言っていたことが本当だとわかったが、これではまだ人命を軽視したようなものとは思えない。


「確かに、狂った奴や犯罪者に同情する必要はない。だが、兵士達は国や家族の為に戦っている。そいつらを殺すことに躊躇いはないのか?」


「………それは………確かに、ある……けど……」


 答えにくい質問ではないはずだが、奴はうつむいて独り言を呟いていた。


「………俺は誰かに必要とされていたい、認めて欲しい……。その為には、戦い続けるしか……」


「何を言ってる?」


「……俺は………俺は、必要とされたいんだ。生きいる価値がある人間だと、自信を持ちたい……。そうでないと、俺は……」


 奴はうつむいたまま涙を見せ始めた。

 袖で涙を拭い、すすり泣きをし始めた奴は震える声で何かを言い始めた。


「……誰も、誰も俺のことを認めてくれなかった。……家族には見放され、一緒に働いていた人達にもバカにされて……。いつもそうだった。俺はいつも、周りの奴らにバカにされて認めてもらえなかった。……学校の先生も、友人も、親戚も、家族も……みんな、俺をバカにして……。いいや、そんなことはどうでもよかった。そんな人は多くいるんだから。俺が自分を生きている価値の無い人間だと思い始めたのは父親にああされた時だ。俺を家畜だと言ってるのと同じことをした。許せない、許せなかった……。でも、正しいのは父親の方だった……。それでも、俺はそれをされたことが衝撃で……優しい父親を、クズな母親の代わりに俺を育ててくれた父親を……信じることができなくなった。いくら褒められても、いくら慰めの言葉をかけられても、何一つ……信じることができなくなった……」


「………何をされたんだ?」


「……言ったら笑うに決まってる。俺の親友もそれを聞いて、相槌をしただけだった。だから言わない……、言えるのは全部母親が悪いとだけだ。アイツは毎日毎日、パチンコに行っていた……。ひとつだけ話すと、俺がまだ小学生の時、俺は大怪我をした。母親はすぐに俺が運ばれた病院へ来てくれたが、良かったのはそれだけ、後は悲惨だ。俺の治療費として保険会社から貰った金を全部パチンコに入れてきた。たった3日ほどで、そんなことをした母親を父親が怒った。アイツは子供のことなんて思っちゃいない、実際父親と離婚する時、アイツはあっさりと兄と俺を捨てた。兄がアルバイトで稼いだ金を渡さなくなった時から母親は兄を嫌い始めた……。奴にとって子供は金の引き出せるATMとしてしか思っていなかったことの証明だ。他にもまだある。話せばきりがないほど、母親はクズだった」


 奴の口調から怒りが伝わってくる。

 歯を食いしばり、両手を強く握る目の前の少年からは、前の世界にいた時の俺よりも精神的に痛め付けられていたのがわかる。


「……そんな母親の行動にストレスを溜めていった父親がある日、俺を人間不信にさせることをした。……俺はその後、ずっと一人で思い悩んできた。父親にそうされたことがずっと頭に残って離れなかった。……ネットの人とする会話を信用できなかった俺は一人用のゲームをしていた。周りがオンラインゲームをしている時、俺は父親が買ってくれた古いゲームをずっと壊れるまでやった。そして、ゲーム機が壊れたら今度はスマホのゲーム、けどそれじゃ俺は満足できなかった。アルバイトを始めて欲しいゲームを買うために俺は金を貯めようと思った。……でも、そう思った時期が悪かった。父親から母親の借金の返済を手伝ってくれと言われて、俺は父親の手伝いをした。そのせいで、1年間ずっと目的のゲーム機もソフトも買えず、俺は周りから置いていかれて、友達も減った。唯一、俺の生きる意味になってた親友だけが、ゲームで俺とずっと遊んでくれた。でも、その親友は病気で入院、重い病気だったみたいで、半年後には息を引き取った……」


 どうやら支えになっていた人物が居なくなったことで、もう精神的に限界になっていたんだろう。

 そうなると、その後の行動は簡単に予想できた。


「それで、自分から後を追ったのか?」


「どうせ生きてたって仕方ない、俺に生きる価値なんてなかったんだから。……けど、ここでは違った。この世界の人達は俺を必要としてくれた。だから、俺はこの世界で認められたい、前の自分とは違う、新しい自分を」


「……なるほど、だがお前はそう思うあまり、周りが見えていないようだ」


「……なんだって?」


 奴に辛い過去があったことはわかったが、俺にとってそれはどうでもよかった。

 こいつは過去に囚われている。

 過去のことばかり考える奴は未来を考えない。


「お前は、本当に必要とされているか?お前は本当に新しい自分か?過去のことばかり引きずるようなお前は本当に新しくなったのか?俺個人の考えだが、お前は過去を見るあまり周りのことも、未来のことも見えていない。ただ人に流され、自分が必要として欲しいと自分勝手に動いている。そんなお前に付き合う奴がお前のことを本当に必要と思っていると?」


「…………黙れよ」


「そうやって逃げるのか?なにも変わっていない自分を認めずに、周りが本当に自分を必要としているのかも考えずに」


「黙れ……黙れ、黙れ黙れ!!」


 奴は立ち上がると足のホルスターから銃を抜き、俺に向けた。


「俺は必要とされてる!前の俺とは違うんだよ!!」


「そうやって自分に同情してくれない人間を殺してきたのか?自己中心的だな。お前がそうやって殺してきた人間にも家族が居る。お前とは違って幸せに暮らせたかもしれない人間がな」


「黙れぇぇぇぇぇ!!」


 奴の声が空間に響き渡り、天井に銃を向けて1発だけ撃つと銃声が奴の声をかき消した。

 奴は銃口を天井に向けたまま、肩で息をすると独房の扉の前へ来て扉を蹴り破って中へ入ってきた。

 中へ入ってきた奴は俺の襟を強く掴むと銃口を横から頭に突き付けてきた。


「殺してやる!……お前はそうやって人の心を惑わせるクソ野郎だ!お前みたいな奴は死ねばいい!」


「何を言っても無駄そうだな。そうやって薄っぺらい正義感で動けばいい、いずれわかる時がくる」


「黙れ、黙れっ!黙れっ!!」


 奴は左手で襟を掴んだまま壊された独房の扉から独房の外へ俺を投げた。

 少し後ろに転がって両手を広げ、両足で踏ん張って勢いを止めると、奴はホルスターに銃をしまい、独房の外に出てきていた。

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