訓練の成果
吹雪が強くなってきているのがスーツ越しにわかっていても、私は足を止めることなく歩き続けた。
これくらいならジェーンさんと秘密にしていた訓練よりは厳しくは感じなかった。
『ソフィ、よくそのペースでずっと歩き続けられるね。坂になってきたんだから歩く速度が遅くなってもおかしくないのに』
「そうですね。ジェーンさんの特訓のおかげです」
『そういえば、どんな訓練してたの?ジェーンの訓練は狂ってるような訓練内容だと思うんだけど』
「どんな?うーん、そうですね……。ジェーンさんが言うには、ワンマンアーミーを生み出す訓練だと言っていましたよ。とても厳しい訓練でした」
『一人の軍隊ねぇ……。というか、ジェーンがそうだからそんな訓練なのかもね。この世界に来た時からワンマンアーミーだって言われる転生者をあっさり倒してくるくらいだからね』
確かにジェーンさんはかなり強い人だと思う。
彼女の知識、技術、経験は計り知れない、私は彼女と何回も手合わせをしてもらったけれど、最後まで勝つことはできず、彼女は手を抜いて本気を出そうとはしなかった。
彼女との特訓はとても厳しかったけど、それだけの価値はあったと思っている。
「そういえばふと思ったのですが、ジェーンさんっていつも葉巻を吸っていますよね?葉巻が好きなんでしょうか?」
『そうなのかな?私も知らない、ジェーンって煙草は嫌いなのに葉巻は吸ってるんだよ』
「煙草が嫌いなのに葉巻を吸っている……。葉巻は別と言うことでしょうか?」
『ジェーンの中ではそうなんだろうね』
彼女はいつも葉巻を吸っていて、吸っていないところを見たことがない。
と言っても、寝る時や一人の時は吸っていないとハルさんから教えてもらった。
ハルさんが言うには昔から人前に出る時だけ葉巻を吸っているらしく、更に葉巻はお店で買ったものではなく、自分で一から作っているらしい。
『ソフィ、もうすぐ城に着くよ』
ジェーンさんのことを思い出している間に城へ着いたらしく、私は目を凝らして前を見ていると雪に埋もれそうになっている死体を見つけた。
死体の近くへ行き、死体を見てみるとどうやら爆発物によって死亡しているようだった。
私は死体の近くを通りすぎて崖の下を覗いた。
「高そうですが、何とかなるでしょう」
私は深呼吸をした後に崖から二、三歩ほど離れてから勢いをつけて崖から飛んだ。
『ソフィ!?』
驚いたクラーラさんの声が聞こえたけど、落ちている時に返事はできない為、私は空中で両手を広げて着地をする姿勢になり、凄い勢いで見えてきた地面に勢いよく着地した。
強い衝撃を手足で感じたけど魔法で体を強化したり、守ったおかげで怪我をすることなく落ちて来られた。
雪が舞い上がり、そして舞い上がった雪が地面に落ちた後、私はゆっくりと立ち上がった。
「よし」
『よし、じゃないよソフィ!何考えてるの!?いくらなんでも馬鹿だよそれは!』
「えっ……でも、ロープも何も無いですし……この方が早いと思ったのですが……」
『崖の出っ張りを利用してゆっくり下りて行こうよ……。いくらなんでも危なすぎるし、魔法の使い方を間違えてるよ……』
この方法はハルさんに高いところから落ちた時の対処として教えられた技だったけれど、それを利用して下りれば少し危険はあるけど道具がなくても下へと素早く下りることができる。
でも、魔力消費が激しく、私の魔力では一回この方法をするだけでかなり持っていかれてしまうため、1日一回が限界だろう。
「急がないと2人が危ないですから」
『そりゃそうだけど、まずソフィが大怪我したら2人を助けられないんだから、自分のことを考えてよ』
「自分のことは自分が一番よくわかっていますから、大丈夫ですよ」
『本当に大丈夫かな……』
心配そうに呟くクラーラさんの声を聞いた後、私は雪を踏みしめながら城の壁に張り付きそうなくらいまで近付き、壁にそって城の入り口を探し始める。
角から少しだけ顔を出して先を確認し、敵がいないことを確認してから小走りで壁にそって素早く移動する。
次の角に着く前に角からAK-12を持ち、防寒着に身を包んでいる人が出てくると私の存在に気付き、私と目があった。
「うおっ!?だ、誰……」
相手に大声を出される前にまず右手で拳を作り、相手のお腹を走った勢いをつけたまま殴った。
「ぐぁっ……」
相手はお腹を殴られるとお腹を押さえながら後ろへ下がっていこうとしていた。
次に力が思うように出さない内にAKを奪い、左足で相手の右膝の横を狙って蹴りを入れ、姿勢が崩れそうになっている隙に相手の右肩を背中側から左手で押してからすぐに左腕を相手の首に回した。
「ぅぅ……クッソ……離せ……」
まだ力が取り戻せていない男性を引きずり、来た道を戻るようにして城の影へ男性を連れていった。
人気の無い城の裏側に男性を連れてきた私は城の壁に向かって跪かせ、銃口を後頭部に突き付けた。
本当はこういうことはしたくないけれど、情報のためと割り切ろう。
「今からいくつか質問します。正直に言ってもらえれば危害は与えませんよ」
「いきなり殴ってくるような女に教えることはない……」
「そうですか……なら良いです」
私は銃の紐を使って銃を背負い、男性のすぐ後ろに立った。
「な、なんだよ……なにを…うぐっ……」
男性の首を左腕で絞めていき、左手首の上に右手首を置いて自分の体の方向へ引いて男性の首を絞める力を更に強めた。
「あ……あが……く……くるし………」
「このまま死にますか?それとも情報を言いますか?……お好きなようにしてください」
耳元で囁くように言い、男性に情報を喋らせようと力を徐々に強めていくが、なかなか男性は喋ろうとはしなかった。
「動かないで!」
男性がそろそろ気絶しそうになっているところへ防寒着に身を包んだ若い女性が4人の男女と一緒に走ってくると銃を私に向けたまま仲間と共に私と男性を取り囲んだ。
『囲まれたよソフィ』
「大丈夫です」
私は男性の首から腕を離し、男性を解放して両手を上げた。
振り返るとAKを持った男性が3人、マカロフを持った女性とPPKを持っている女性の計5人が私に銃を向けていた。
「貴女、どう見てもレジスタンスの人間じゃないよね?どうやってここに?」
「………」
この状況をどうにかしようと考え、大人数に囲まれた時はジェーンさんに教えてもらった近接格闘術が有効だと思った私は、まず一番近い人から順番に倒していこうと考えた。
「答える気がないならそれでも良い、リーダーのところに連れていく」
男性の一人が前に出ようとしたが、女性が男性の前に出て待つように手で合図をすると男性はため息を吐いた。
「銃を置いて、無駄な抵抗は考えないで」
私は指示通りに背負っていた銃のハンドガードを掴み、紐を体から取って地面に置いた。
銃を置くと銃を向けたまま近付いてきた女性の手からPPKを奪い、銃のマガジンを抜き取ってスライドを引き、薬室内の弾丸を取り除いた。
撃つことができなくなった銃を捨て、女性が腰に下げていたナイフを取り出して右手に持つとナイフを振ってきた。
女性のナイフを振るタイミングを見計らい、ナイフを振った後に再びナイフを振る瞬間を狙って詰め寄り、左手でナイフを持っている右手を抑え、右足で女性の左膝横に蹴りを入れて姿勢を崩しそうになっているところを突き飛ばし、後ろへと転んだ女性の横を通り抜け、後ろにいた男性へ向かっていく。
「くっ!」
男性が銃の引き金を引くことを躊躇い、撃とうとしてこない内に男性に詰め寄って男性の銃からマガジンを引き抜き、コッキングレバーを引いて銃から弾薬を抜き、抜き取ったマガジンを使って男性の顎を持ち上げて右足で男性の右足を抑え、マガジンで顎を更に押して後ろへ倒した。
「何してるの!撃ちなさい!」
「えっ……いやでもよ………」
「ああもう!綺麗な女性だからって見とれてんじゃないわよ!!」
「いやそんなんじゃ………無いことも……ないな」
もう一人の女性と男性が話している間にもう一人の男性の武器を奪い取り、首を絞め上げて気絶させた。
絞め落とした男性を離してマカロフを持って迫ってくる女性が引き金を引こうとしているのが見え、私は銃口を見たまま女性に詰め寄る。
女性の持っていた銃から銃弾が発射され、銃弾は引き金を引く瞬間に姿勢を素早く低くした私の顔の横を通り過ぎていき、私は更に詰め寄って女性の体に手が届く距離まで詰め寄ることができた。
「うそ……」
女性の手からマカロフを奪い取り、マガジンを抜き取ってから女性の後ろにいる男性の持っている銃を狙って引き金を引いた。
銃弾が銃に当たったことで驚いて銃を手放した男性の様子を見た私は銃を手放して女性の右手首を左手で掴み、右腕を右脇下に通して投げ飛ばし、そして最後に残った男性に走って詰め寄り、勢いをつけたまま腕を前でクロスしている男性の左側から右腕で男性の体を持ち上げると、男性は地面に勢いよく叩き付けられた。
「ぐ……やっぱ女には……ぐおぉ……」
男性の首を絞め上げて気絶させ、男性を放して周りを見渡すと、立ち上がろうとしている女性がいた。
いつも長々と戦闘描写を書いている素人です。動画などを見てどんな格闘術があるのか、使われるのかを見て書いていますが、恐らく実戦的では無いものもあると思います。理由として、映画やゲーム等から学んでいたり、動画を参考に素人の自分が考えている為です。自分の考えではカッコいいなら良いと思います。(そもそも小説に実戦的なのは書かなくてもいいだろうとも思っています。フィクションですからね)
ここまで読んで頂きありがとうございました。