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Unlucky  作者: 碧眼の黒猫
第十一章 たった一人の救出隊
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言葉の真意

 城へ向かっている途中でクラーラさんに渡されて耳に着けたピアスが小さく振動した。


『ソフィ?聞こえてる?』


「はい、聞こえてますよ」


『そっか、問題なさそうだね。それよりもソフィ、何で服を着て行かなかったの?』


「へ?……あっ、忘れていました……」


 歩きながら自分の体を見て服を着ていないことを思い出した私は顔が熱くなっていくのが自分でもわかった。


『ま、まぁそのスーツだけでも問題は無いよ。ちゃんと保温性はあるからね。ただ外見があんまり好まれなくて服で隠している人が多いから服を着ることを勧めただけだから……」


 途中から元気のない声になって小声のような声になってしまったクラーラさんにどう言えば良いのか私は考えた。

 けど、確かに外見はまるで夜のお仕事をしている女性が着るような服に見えるし、ベストを着ていないとそういう人だと言われてもおかしくないと思ってしまうような服の為、私はこの服についてはなんとも言えなかった。


「えぇっと………私は……その……動きやすくて良いと思いますよ。このスーツ」


『ははは……ありがとう。ジェーンの作った潜入用のスーツを元に作ったスーツなんだけど、やっぱり私のは駄目だね……』


 良い言葉が見つからず、下手な言葉を言ってしまったことに私は後悔し、心が痛くなった。


「……いや、あの………ごめんなさい……」


『謝らなくて良いよ、ソフィ。この話は止めて別の話題にしよう』


「は、はい……どんなお話をしましょうか?」


『うーん、そうだね~。そうだ、ジャック……ジョンとはどこで会ったの?』


「ジョンさんと会った場所ですか……。ジョンさんと初めて出会ったのはフレデリカ王の国、フリーダム王国にあるお店です。私はそのお店で友人と一緒に料理の練習をしていて、兄のために作ろうとしている料理がなかなか上手くできないところへジョンさんが女性と一緒にやって来ました」


 私は歩きながらジョンさんと最初に出会ったことを思い出して、そんなに前の事でもないのに、懐かしく感じた。


「フリーダム王国か~。行ったことはないけど、良い国だってジェーンは言ってたね。それで、その時のジョンの印象とかはどうだった?」


「最初見た時の印象は黒い服のせいもあって、暗そうな人だなと初めて見た時は思いましたね。でも、彼はなかなか料理を作れない私に料理を教えてくれると言ってくれました。私が料理のできない人だと思われてしまったみたいで、彼は簡単にできる美味しい料理を作ってくれて、助言までしてくれました。その時、私は彼のことを優しい人だなと感じました」


「ソフィってお兄さんが居るんだ。お兄さんの為に料理を作ってあげるなんて、ソフィはいい妹だね」


「そ、そう…でしょうか?」


「私はそう思うよ」


 今まで普通の事だと思っていたからか、いい妹と言われても喜んで良いのかわからず、それに対してどう返せば良いのか悩み、特に理由もなく周りを見渡すと黒い服を来た背の高い男性が枯れた木の影から私を見つめていることに気が付き、足を止めてその人と目を合わせた。


「あの人は……?」


 その男性を見ていると段々と風が強くなって雪が舞い上がり始め、舞い上がった雪で周りが白くなっていき、黒い男性が見えなくなった。

 吹雪で数メートル先までしか見えなくなったけど、私は吹雪で姿が見えなくなった不気味な雰囲気のする男性を気にしながら城のある方角へ再び歩き出した。


「なんだか、不気味な雰囲気の男性が居ましたね」


『う、うん……なんだかホラー映画に出てきそうな感じのする男の人だったね……。寒気を感じたよ……』


「映画ですか……、私は映画を見たことが無いんですが、あの国の人達は映画が好きなんですか?」


『う~ん、そうだね。好きか嫌いかと言うと好きって答える人が多いはず、だってジェーンが映画好きで有名だからさ。皆もジェーンの見たって言う映画を見ようとどこの映画館も満席状態になるくらいだからね』


「す、凄いですね……」


 確かにいつもカッコいい言葉を言っているから、私もそんなことを言ってみたいと思うけれど、恥ずかしくて言えない。


「あっ……」


『ん?どうしたの?ソフィ』


「あぁ、いえ、ジョンさんも……カッコいい言葉を言っていたような気がしたんです」


『ふ~ん、どんな?』


「身の危険を感じたら手段を選ばない方がいい、どうやってその状況から抜け出すかを考えることだ。と彼は私に言いました」


『へ~、そんなことをジャック言ったんだ』


 今でも覚えているあの言葉、でもあの言葉の意味はどんなことをしてでも、つまり相手を殺してでもということだ。

 でも私にはそれができない、どんなに訓練して銃の扱いが上手になっても、人を殺すことは私にはできない、人を殺すことは絶対にしてはいけないとお父さんが新聞を見る度に兄さんと私に言っていたから。


『なんでそんなことをジャックは言ったの?』


「えっ?……あ、そういえば何故そんなことを言われたのか説明していませんよね」


 私はあの時のことを思い出し、あの時の恐怖が蘇って私の手が勝手に震え出した。

 しかし、こうなった時には目を閉じて深呼吸をし、彼のことを思い出せば震えは止まる。

 克服したわけではないけれど、私はこの方法で震えを止めていた。


「実は……彼と出会ったお店で私、殺されかけたんです」


『えっ?……誰に?』


「ジョンさんと一緒に店へ入ってきたセリーネさんと言う名前の女性です。人懐っこいような感じの人で、料理の材料が少なくなってきた私達に材料を譲ってくれて優しい女性だと思っていました。でも、友人がそれぞれ家へ帰り、私は彼女と一緒に作った料理を食べた後、急に体に力が入らなくなって、倒れそうになりました。彼が支えてくれたおかげで倒れることはありませんでしたが、体調が悪いわけでもないのに体が動かなくなってしまったことに私は何が起こったのか理解できませんでした」


『料理を食べた後……つまり、そのセリーネが料理に薬を入れていたのかな?』


「そうです。隠し味と言って料理に入れていた粉末が、体を動かなくさせる薬だったんです。私はそれを間近で見ていたのに気が付かなくて、彼は疑って一口しか料理を食べませんでした」


 今でも彼が料理をもう少し食べていたら、私はもう生きてはいなかったと思う。

 彼が疑って一口しか料理を食べなかったあの行動が、私を救ってくれた。


『それで、その後はどうなったの?』


「体が動かなくなって、震えが止まらない私をセリーネさんが部屋へ運ぼうとジョンさんに言って、私は彼に運ばれて部屋のベッドに寝かせてもらいました。彼が私から離れようとした時に自分の震える手を見た後、揺れるように動くと私の視界から居なくなりました。今でも覚えています、セリーネさんの笑い声が部屋中に響き渡っていたことを……」


 月の明かりで輝くナイフ、邪悪なセリーネさんの笑顔、どうしても私の脳裏に焼き付いたあの光景を忘れることはできなかった。


『……そんな奴と出会うなんて、その日は運が悪かったんだろうね。でも、そんなソフィを助けてくれたのがジャックだった。それで、その後にさっきの言葉をソフィに言ったんだ?』


「はい、次の日の昼過ぎに……本当はその言葉を言われる前にまた彼に助けてもらっていますが、そのお話はまた今度にして、私は彼に自分の身を守る方法を教えてほしいと言って、彼に自分の身を守るには信頼できる仲間がいることが一番と教えてもらいました。そして、私が仲間がいない時はどうするのかを聞くと手段を選ぶなと言われて、人を殺すことはしたくない私にその言葉を言ってくれました」


『なるほどね、大体は理解したよ』


「クラーラさん、彼の言葉の意味をどう思ったか、聞かせてくれませんか?」


『ん?どうして?』


「もしかしたら自分と違うことを思っているのではないかと思ったからです」


『なるほど、じゃあ私の思ったことを言うよ?』


「はい、お願いします」


 私は吹雪の中を歩きながら彼女の答えを待った。

 私とクラーラさんの思ったことが同じなら、私は彼の言った言葉を受け止めるべきなのか、そうしないのかを彼女にも聞いてみよう。


『私が思うに……要は逃げろってことだよ』


「……えっ?」


 彼女の答えに何故か驚いてしまい、私はよく考えてみると確かに、そんなような言葉とも受け取れると思った。


『だって、ジャックはソフィに人を殺してほしいなんて思ってないだろうからね。平凡な一般人な訳だし』


「で、でも、手段を選ばない方がいいとジョンさんは……」


『ソフィ、その後の言葉を思い出してよ』


「どうやってその状況から抜け出せるか、ですか?」


『その通り、抜け出すって言ってるんだから、少し言葉を変えるとどうやってその状況から逃げ出せるか、になるでしょ?』


「あっ……確かに……そうですね。でも、本当にそうなんでしょうか?」


『どう思い、感じたかはソフィにしかわからない。私は私が思ったこと、感じたことを言っただけだよ。だから、どう思ったのかはソフィが自分自身の心に聞いてみて。私にリーディング能力は無いからさ』


「自分自身の……心に……」


 私は自分の胸元に右手を置いて、歩いたまま考えた。

 そして、ジェーンさんの言葉を思い出した。


「相手の言葉の意味を履き違えるな、よく考えて相手の言葉の真意を見つけ出し、相手が自分に何を言いたかったのかを考えろ……」


 私はジョンさんの言葉の意味をわかっているのだろうか、彼が何を思ってそんな言葉を私にかけたのか、そんな疑問が私の頭に浮かんだ。

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