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Unlucky  作者: 碧眼の黒猫
第十章 レジスタンス
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レジスタンスの目標

 クラーガ達に連れてこられた場所はエリカや他の兵士達が入れられていた独房だった。

 持っていた物を全て奪われ、奪われなかったのは着ている服だけで、ピアスも怪しんだクラーガにピアスを外されて壊されてしまい、博士と連絡もできなくなってしまった。


 ナタリアとは別々にされて独房へ入れられると思っていたが、何故か独房に2人一緒に入れられ、独房の扉の鍵をかけるとクラーガが一緒に来ていた仲間に手で合図し、クラーガの仲間は来た道を戻っていった。


「さて、話をしようか。尋問よりもこっちの方が平和的だ」


 クラーガは鉄格子の前で地面に座ると、そんなことを言い出した。

 とりあえずクラーガは俺が手を伸ばしても手が届かない距離だった為、抵抗は考えずに俺も壁に背中をつけて石造りの床に座った。

 ナタリアを見るとまだ体が動かしにくい状態で独房へ放り込まれたせいで、うつ伏せから仰向けになる程度しか動けないらしく、目を閉じてため息を吐いていた。


「何を話すんだ?先に言っておくが、俺はあの国の情報は持っていない、来たばかりで無理やり兵士にされただけだからな」


「ほう、そいつは不運だったな。だが、今俺が話したいのはアンゲル帝国の情報じゃない。俺が、俺達が何を目標にこんなことをしているのかだ」


「あの国を潰したいからじゃないのか?」


「違うな、そうじゃない。あの国を潰すのは始まりにすぎない、俺達が目標としているのは、あの国を潰し、あそこを拠点に世界を争いの無い平和な世界にすることだ。誰もが笑って、穏やかに暮らして年を取っていく平和な世界、それが俺達の目標だ」


「平和な世界?」


「ああ、そうだ。平和な世界だ」


 もし、本当にそう思っているのなら国を潰すのではなく、変える方が良いんじゃないかと思ったが、国のことについては何もわからない俺は余計なことを言わず、クラーガが何故そんなことを言い出したのかを考えた。


「そんなことを話して俺を仲間にでもしたいのか?」


「ああ、正直に言うとそう言うことだ。あの英雄気取りよりもお前の方がいい」


「英雄気取り?さっきのカズ……だったか?奴のことか?」


「ああ、そうだ」


「レジスタンスに協力してくれているんだろう?何故そんな言い方をする?」


 クラーガの言い方が気になった俺は何故そんな言い方をするのかを聞くと、クラーガは顔を少し下に向けて目を閉じた。


「俺は元々ラーイ帝国の兵士だった。ラーイ帝国は世界平和のために戦っていると、演説でよくギラディア皇帝陛下が言っていた。恐らく、転生者にも同じことを言っていただろう」


「世界平和?……何か変だな、国が平和を願うなら何故、その国を出た?」


「そう思うだろうな。そしてあの国なら誰もがこう言う。平和を願うならラーイ帝国で兵士として国に尽くしていれば、必ず平和はやってくると。だが、それは違った」


「違った?」


 クラーガは目を開けると胸ポケットから写真を取り出し、それを俺に向けて見せた。

 写真は少し若い頃のクラーガとソフィに似ている女性と横に並び、2人の前には金髪の少年と薄いピンク色の髪をした少女が笑顔で写っていた。


「俺の横に居るのは俺の妻だ。名前はアメリア、アンゲル帝国の兵士だ」


「敵国の兵士と恋に落ちたのか?」


「この時はまだ戦争をしていなかった。アンゲル帝国とはな、だからアメリアと出逢えた。2人の子供もできて、本当に幸せだった……」


 写真をポケットへしまい、ため息を吐いたクラーガは涙を流していた。


「……俺があの国を出たのは、あの国が狂っているとわかったからだ。今から数十年前のことだ。アンゲル帝国がラーイ帝国の領地に攻撃を行ったとして当時、俺が率いていた部隊が攻撃を受けた村に行くことになった。すぐに駆け付けた俺達は火の手が上がっている村に着き、襲っていたアンゲル帝国の兵士達と撃ち合いになった。その中で、偶然入った家の中にいたアメリアと会った。銃を持って兵士の姿をしていた彼女は俺に銃を向けたが、俺だとわかるとすぐに銃を下ろした。彼女に何故ここに居るのかを聞いた俺は、彼女の話を聞いてラーイ帝国の本当の顔を知ることになった」


「本当の顔?」


「ああ、俺達が駆け付けた村はラーイ帝国の領地ではなく、アンゲル帝国の領地だった。アメリアがそこにいたのは彼女が訓練している新兵と休憩しているからだった。彼女の話では突然、家から火の手が上がり始めて、住人達の避難誘導をしている時に俺達に襲われて反撃をしたそうだ。そう、先に手を出したのは俺達、ラーイ帝国の方だった」


「……何故、そんなことを?」


「……ラーイ帝国は表向きの顔は平和を願っているなどと言っているが、本当は違う。ラーイ帝国の本当の顔は世界平和をなどと言いながら世界を支配することだ。国民を洗脳し、強大な力を持つ転生者を利用し、何か理由をつけては偽物の正義を振りかざして国を潰す。それがあの狂った国のやり方だ」


「……だが、だからと言って転生者を英雄気取りと言う理由にはならないだろう?アンタの話が本当なら、彼らも被害者なんじゃないか?」


 クラーガの話を聞いていると、ラーイ帝国の国民と転生者は被害者のように感じ、そう言うとクラーガは笑い始めた。


「フッ……フフフ、転生者が被害者だと?馬鹿を言うな!!あのクソガキどもこそがこの戦争の原因を作った奴らだ!!」


 クラーガは空間に響き渡るほどの大声でそう言うと、右手で拳を作り地面を殴った。


「奴らは平然と次から次へと兵器を作り出し、話し合いで決着がつかないとすぐに武力で支配する!!そして自分が作り出した兵器が大勢の人を殺していることに罪悪感も何も無い!!例え相手がどんなにクズだろうが、犯罪者だろうが、人殺しは人殺しだ。正当化できるものじゃない。それなのに、奴らは国の王や国民の願いを叶える為などと言い訳をしながら簡単に人を殺し、平然としている。今の俺からすれば奴らも狂人だ」


「………人殺しは正当化できるものじゃない……か」


 マーカスも人殺しは良くないとよく言っていたが、この世界でも同じようなことを考えている奴が居るようだ。

 それも兵士、人を殺すことが多い職業の奴がそんな考え方を持っていることに俺は少し驚いていた。


「転生者が居なくなれば必ず平和になる。だから、その為にも優秀な人材を集めて奴らに負けない力を持たなければならない。俺達の仲間になってくれ、ナタリアも戻ってこい」


 クラーガは俺と目を合わせてそう言い、俺は視線をそらして目を閉じた。

 クラーガの言う世界平和、少し興味が出てきたが、俺はレジスタンスに入ることはできない、理由は彼らの仲間になれば必ず大勢の仲間を殺した俺を恨む奴が出てくるはず、そいつが俺を殺そうとしてこなかったとしても仲間同士で睨みあっていては組織全体に影響し、いずれ崩壊すると俺は思っていたからだ。


「断るわ。私は裏切り者よ。出ていく時言ったはず、同じ志を持って固い絆で結ばれていなければ同じ目標に向かって歩くことはできないの。私はもう、レジスタンスには戻れない。彼らとの絆を……失ってしまったから……」


 ナタリアは天井を見上げたままそう言い、目を閉じた。


「悪いが、俺は協力してやれない。大勢殺したからな、きっと俺のことを認めない奴が出てくる。それは弱点になり、組織を崩壊させる原因になるはずだ。アンタの言う世界平和に協力はしてやりたいが、俺のせいで組織が崩壊したらアンタらの努力が無駄になるだろうからな」


「ふむ……なるほど、2人の言い分はわかった。だが、俺はそう簡単に諦める男じゃないからな」


 そう言うとクラーガは鉄格子に近寄ってきた。

 手が届く距離まできたが、クラーガは鍵を持っているわけではないため、襲っても無駄だろう。

 そんなことを考えながらクラーガを見ていると手招きをしてきた。

 俺は一旦立ち上がって鉄格子の近くまで行き、鉄格子の近くで座った。


「ナタリアを頼むぞ。彼女は暗い所が大嫌いだ。昔から声やら何かが聞こえるらしい」


 小声でそう言ったクラーガに頷くと、クラーガは立ち上がって通路へと消えていった。

 そして、しばらくすると段々と周りが暗くなっていき、真っ暗になった。


 なにも見えないほど暗くなった独房の中を這って壁まで行き、壁にもたれて目を閉じて寝ようとしていると誰かに腕にしがみつかれた。

 誰かと言ってもここにはナタリアしか居ないのだから、当然ナタリアがしがみついているんだろう。


「……側に居て良いかしら?」


「ああ」


「離れたら殺すから……」


「ああ」


「絶対に離れないでよね?」


「ああ」


「ちょ、ちょっと……何で「ああ」しか言わないのよ……怖いじゃない……」


「あ………わかった。大丈夫、側にいる」


 正直、疲れていて寝たいから適当な返事をしていたのだが、それでは彼女が安心できないようだ。

 俺はしっかり返事を返した後、彼女に腕にしがみつかれたまま目を閉じ、眠りについた。

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