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第五十六話「紛い者の玉座」

挿絵(By みてみん)

 第五十六話「紛い者(まがいもの)の玉座」


 ――”ただいま所用にて席を外しております、御用のあるお客様は入り口右側の呼び鈴をご利用下さい。by笑顔が元気な城主、サー・イキング”


 「…………」


 辿り着いた玉座の間。


 十メートルほどある部屋の最も奥に鎮座する大仰な無人の玉座には、そんな内容が書かれた紙が貼り付けられていた。


 「…………」


 「あの……ハルバ……さま?」


 部屋の入り口付近で呆然と突っ立った無言の勇者を見て、神導師(クライスト・シープ)”の男は恐る恐る声をかける。


 「…………」


 勇者、榛葉(はるば) 零王主(れおす)は無表情のままで……


 やがて、彼の右腕がゆっくりと持ち上がる。


 ――チンッ!


 「お、押すんですかっ!?」


 入り口付近、自分達が入って来たドアの直ぐ横に設置された呼び鈴を押す勇者。


 てっきり、”巫山戯(ふざけ)るなよっ!”と怒鳴り散らして部屋内の調度品の三つ四つも破壊するのではと――


 それに怯えた神導師(クライスト・シープ)”の男は、予想に反して、全く表情無く、素直に”呼び鈴(それ)”を押す勇者の行動に、咄嗟に間抜けな声を上げてしまった。


 「…………」


 「…………」


 しかし、数分間後も部屋内に変化は特になく、その空間は静寂が支配する。


 ――き、気まずい……


 神導師(クライスト・シープ)”の男は思った。


 同時に――


 「…………」


 多分、勇者レオス・ハルバのこの表情は……


 あまりにも怒りが突き抜け過ぎ、もう、どういう反応を示して良いか解らなくなった故だろうとも推測する。


 「……ハ、ハルバさま?」


 とはいえ……


 「こぉっねぇじゃぁねぇかぁぁっーー!!」


 それで済むわけも無く、勇者の怒りは時間差で爆発する!


 「う、う……ええと……」


 「なんなんだ!これ!?ええ!なんなんだよっ!!個人商店かよ?笑顔が元気な城主?居酒屋アルバイトの微妙なネームプレートかよっ!バカにしてんのか!?この勇者レオス・ハルバ様をよぉぉっ!!」


 「ひっ!ひぃぃ!!」


 神導師(クライスト・シープ)”の男は、とばっちりが来ないかとビビりまくり、その場で頭を抱えて(うずくま)ってしまった。


 「大体なぁっ!最初からおかしかったんだよっ!この”掘っ立て小屋”とか、如何(いか)にも巫山戯(ふざけ)た”勇者殺し”の存在とかなぁっ!!」


 「ひっ!わ、私に言われてもぉぉっ!!」


 ――ギィィ……


 「っ!?」


 「あっ!?」


 ――パタン!


 その時、遠く部屋奥の玉座の方からドアの開く音と閉じる音が聞こえ、(うずくま)ったまま頭を抱えた神導師(クライスト・シープ)”の男がそっちを横目でチラリと見ると、そこには……


 「……」


 部屋の最奥部、玉座の後ろにある壁から隠し扉が出現し、そして其所(そこ)から一人の男が現れたかと思うと――


 ビッ!


 玉座の張り紙を雑に剥がして、


 グシャグシャ……ポイッ!


 丸めて捨てた。


 「ふぅ……どっこいしょ」


 そしてそのまま――


 ボフッ!


 何事も無かったかのように玉座(そこ)に腰掛けたのだ。


 ――


 「…………」


 「…………」


 ――あーーあ、やっと一息……なんとかまにあったなぁ


 俺は玉座に腰を下ろし、そしておもむろに部屋の正面、入り口付近を見た。


 「ん?……あー、えと……」


 多分、俺の一連の行動を入り口ドア付近で見ていただろう男が二人。


 それは恐らく、例の勇者とその連れの神導師(クライスト・シープ)だろう。


 「…………」


 「…………」


 呆然と俺を眺める二人の侵入者を改めて視界に収めた俺は……


 「えーゴホンッ!…………ふっふっふ!よくここまで辿り着いたな、勇者レオス・ハルバよっ!先ずは褒めてつかわそうっ!」


 「…………」


 「…………」


 「だが勇者よ、貴様は何の目的で愚かにも、この最強無敵にして世界の影の支配者、死の超能力者、サー・イキング様の城に足を踏み入れたのかぁっ!」


 ”斎木 創(オレ)”が高らかにお決まりの口上を述べた!


 玉座に坐した、いつも通り全身黒ずくめな服装の俺は、背中に二本の短剣(ダガー)を背負う(内、一本は只今は(カラ)になっている)人間種で在りながら竜人族の一城が主!


 そう、隠れ無き、この4LDK城の支配者なのだっ!


 「…………」


 ――って、あれ?


 「どうした勇者、俺様の威厳に声も出ないか?」


 未だ入り口付近で無言で俺を眺める男二人に俺は問いかける。


 「お、俺は勇者、レオス・ハルバ……こ、公国の依頼によって……その……人類の救済のため……」


 (ようや)く名乗り始める男だが……もの凄く歯切れが悪い?


 「は?ハッキリと喋れよ勇者、話が先に進まないだろうが」


 「………じ、人類の……き、救済………て、」


 「て?」


 俺は言いよどむ勇者を注視する


 「って、…………できるかぁっ!!」


 「ひぃぃっ!!」


 ――と、


 突然にキレだして怒鳴る勇者、レオス・ハルバと、その横で小さくなる神導師(クライスト・シープ)の男。


 「ええと……勇者よ、ものは相談だが俺に従え、そうすれば世界の半分を……」


 「だーかーらぁっ!”お決まり”はもういいって言ってんだよっ!勇者殺し!」


 俺の問いかけに応えることを放棄した無礼千万な勇者は、癇癪を起こして怒鳴り散らす。


 「ええーー!?なんだよ榛葉(はるば) 零王主(れおす)、こういう場合のお決まりは重要だろうが?物語は最高潮(クライマックス)なんだから……”そもさん”と言われたらすかさず”せっぱ”だろ?ノリが悪いなぁ……」


 「ざっけんなっ!テメェは遅刻して来てその態度かっ!なに”しれっ”と無かったことにしてんだよっ!この間抜け”勇者殺し”がっ!!」


 ――おお……怒ってるな……


 痛いところを突かれた俺は、玉座に坐したままでそれは悪かったと、両手を顔の前に合わせて”ごめんねジェスチャー”した。


 「大体なぁ……”勇者殺し”、その古くさい定番ネタ……お前もやっぱり”異邦人”なのか?なら……」


 「…………なら?なんだって?」


 俺は怒り覚めやらぬ榛葉(はるば) 零王主(れおす)の言葉に(わざ)と白々しい態度を取る。


 「だから……どれだ?お前はどれの……」


 「なんだぁ?……”あ!?お前どこ中よ”ってヤツか?……他人(ひと)を古くさい扱いしておきながら、お前も大概だなぁ?」


 「この間抜け”勇者殺し”!!全然違うだろうがっ!VERSIONだよ!”闇の魔王達(ダーク・キングス)”のVERSIONだっ!!」


 「…………」


 ――気の短いヤツだなぁ……


 「ちっ!しらばっくれやがって」


 やはりそういうのは気になるか……だが、俺は当然答える気などない。


 「まぁ、あれだ……で、本日はどんな用件だ?」


 はぐらかして、軽く聞いてみる。


 「ちっ!イカサマインチキ野郎め!……まぁいい。なら、先ずはお前が(さら)ったフェリシダーデを返せ!それから閻竜王ダークドラゴン・ロードについて知っている情報を洗いざらい話してもらう!そして最後に……」


 ――なんだなんだ……えらく要求が多いな、”欲張り勇者さん”め!


 俺は呆れながらも聞いていた。


 シャキン!


 すると榛葉(はるば) 零王主(れおす)は自身の台詞も途中で、腰に装備した如何(いか)にも立派な剣を抜き放つ。


 「最後に、なぁ……ぶっ殺してやるよ!」


 ギラリと光る俺と同じ黒い両の瞳と、武器レベルも相当だろう立派な剣の切っ先が俺に向けられた。


 「…………それじゃぁ交渉になってないだろ」


 部屋最奥の玉座に坐したままの斎木 創(オレ)と、部屋入り口のドア付近で抜刀した榛葉 零王主(ゆうしゃ)


 ――その間、約十メートルほど


 そして勇者の吐いた言葉は……そうだ、俺になんの(メリット)もない。


 踏んだり蹴ったりだ。


 「くたばれよ、勇者殺し!この原罪(エデン)の勇者様、最強最大の必殺技で一瞬でお陀仏にしてやるよっ!」


 「…………」


 ――おいおい……”ぶっ殺す”は最後じゃ無いのか?


 自分の台詞にさえ責任のない”勇者”は剣を構え、そしてあからさまな殺気を膨張させて、玉座に深く腰掛けたままの俺に向ける。


 ――


 そして俺は、ほんの一瞬だけ、そうチラリとだけ部屋の両脇に視線をやってから不敵に笑ってみせた。


 「そうか?……ていうか、それじゃ興も何もあったもんじゃないなぁ。普通は必殺技とかは最後に華々しく放ってだな……」


 「その手に乗るか!”勇者殺し(おまえ)”は鬱陶(うっとお)しいくらいに小賢しい奴だからな、色々と姑息な小細工を用意してるんだろうが!」


 「…………」


 ――なるほど……確かにしている


 部屋の最奥部に座する”斎木 創(オレ)“と”榛葉 零王主(ヤツ)”の間は十メートルほど。


 勇者が立つ入り口から俺が腰掛けた玉座に続く赤絨毯の両脇には、謎の石像群が並び立ち、そして玉座の俺の横にも石像が一体建っている。


 これはあからさまに怪しいよな?


 特に俺がさっきの会話中にそれらをチラ見したから余計に……


 胡散臭い謎の黒マント男が言っていた事が意外と真実であったから……


 そして、此所(ここ)に至るまで散々に小細工を施されたから……


 ――”普通”……罠だって思うよなぁ?


 「いやいや、何を言っているのかなぁハルバくんや……ていうか”姑息”な”小細工”って意味が重複して……」


 「いっくぞぉぉっ!!」


 「ひぃぃ……わ、私は下がっております!!」


 俺の言葉を聞かずに振りかぶる榛葉(はるば) 零王主(れおす)


 慌てて後ろに下がる神導師(クライスト・シープ)”の男。


 ――そうだ!こう見えて、勇者は最大限に警戒しているのだ!


 この巫山戯(ふざけ)た”勇者殺し”を……


 ”斎木(さいき) (はじめ)”を……


 だからこそ、初っ端から最強の攻撃を以て、雑な一撃で終わらせようとしている。


 キィィィィィィーーーーン!


 瞬く間に眩しいほどの光りの粒子が勇者の周りに集まり……


 それは凝縮されて刀身に同化、そして光り輝く刀身はゾッとするほどの魔力を(まと)う!


 「消え失せろ!このイカサマ野郎っ!!」


 「…………」


 ――光りの剣か……


 なるほど、暗黒竜王には有効そうなスキル攻撃ではある……だが、


 ――丁度良い、便乗してみるか?


 キュィィィィーーーーーン!


 勇者の剣に尋常ならざる輝きが宿りそれは十メートル先の標的、つまり斎木 創(オレ)に向けて放たれるっ!!


 「絶剣、天地開闢之剣ワールドブレイク・インパクトォォッ!!」


 「(おう)よっ!タナボタ・猫騙し(フラシュ)!」


 恐らく超超超……弩級の破壊スキル!!

 推定レベルが不明過ぎる超絶(ソード)スキル!文字通りの必殺剣!!


 対して……


 その辟易するほどの光りに便乗して、輝度を上乗せした我が”目眩(めくら)まし”スキル!

 盗賊(シーフ)職業(クラス)スキルの”とんずら”技、因みにスキルレベルは3だ。


 ズゴォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーー!!!!!!


 超超超……強力な光りの暴力が辺りを”白”で侵蝕し!


 パシュッ!


 「ちっ!」


 それに便乗して放った超ショボイ俺のスキルが、勇者の目を眩ませる!


 ズゴォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーー!!!!!!


 どちらにしても、比べることさえ馬鹿らしい技の応酬で……


 「…………」


 ――うひゃぁ、なんて常識外れの威力だ……死んだなぁ、これは……


 ドゴォォォォォォォォォォーーーーーーンンッッ!!


 俺の目前で圧倒的白い暴力は炸裂した!!


 第五十六話「紛い者(まがいもの)の玉座」END

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