第四十九話「黄金の騎士」
第四十九話「黄金の騎士」
ガギィィーーン!
「うわぁぁっ!!」
ドガァァッ!
「ぬはっ!」
大鎚を肩に担いだ重撃戦士、オルテガ=ダングが木っ端のように吹っ飛んで、二本の曲刀を携えた勇剣士、ズゥィアブン=ヤーヴが片膝を着く!
派手な黄金色の全身鎧を纏い”両刃剣”を携えた輝く竜人族の立派な剣士、四魔騎士”が唯一槍、黄金の騎士ことファブニール・ゾフ=ヴァルモーデンの前に二人の戦士は全くの無力だった。
「う、ウソだろ……急に強くなりやがった!」
オルテガの雑な造りの顔が引き攣っていた。
「フッ、言ったであろう?これが総統、サー・イキング様から与えられし”サイキックのおいしい水”によって引き出された我の真の力!竜人を越えし竜人!超・竜人(黄金)だとっ!」
スッと通った鼻筋と自信に満ちた口元、豊穣の証である稲穂のように輝く黄金の髪を後ろで束ねたファブニールの同色の双眸が才気を誇るように輝いていた。
「…………」
――サイキックのおいしい水?超・竜人?……なんだそりゃ?
巫山戯ているとしか思えないネーミングセンスと芝居がかった演出、”勇者殺し”は一体どこまで本気なのか……と、
レオス・ハルバは一部始終を眺め、内心訝しがりながらも、左手に握った剣を肩の高さに引き上げた。
――だが、黄金の騎士……奴が段違いにパワーアップしたのは事実だ
「下がってろ、オルテガ、ヤーヴ!この派手トカゲは俺が駆除する!」
レオスは左手の剣を構え、そしてファブニールに対峙する。
「…………フフン、やはりそう来なくてはな」
そして黄金の騎士、ファブニール・ゾフ=ヴァルモーデンも跪く二人の戦士を無視して、黒髪の勇者に向き直っていた。
――
―
「ファブニールには先鋒を努めて貰いたい」
この戦いに挑む前、斎木 創はそう言った。
「先鋒?」
「そうだ、そしてその先鋒が負う最優先事項は勇者達に”盗賊系”がいれば、それを早々に排除することだ」
――なるほど……
ファブニールはそれで自身の役目を理解する。
「YES、此方の”隠し通路”を発見されないためにはそれが重要かな」
ゲテモノ喰いの魔神、希鋼鉄闘姫がウンウンと頷く。
「勇者は……倒さなくてよいのか?」
ファブニールの問いかけに斎木 創は渋い顔をした。
「ファブニール、お前は強いが……多分無理だ」
「…………フフ」
友の言いにくそうな仕草にファブニールはその端正な口元をゆっくりと上げた。
「気を悪くするなよ、相手が悪すぎる。”勇者”と呼ばれる輩は能力値が桁違いというだけじゃ無いんだよ」
「どういうこと?」
黄金の竜剣士の代わりに氷雪の雪姫が聞いた。
「勇者はな、確かにレベルが桁違いで基礎能力もとんでもない、けど魔王……人間種以外にとって本当に怖いのは常備するその固有スキルだ」
「固有スキル?」
頷いて説明を続ける斎木 創に今度はファブニールが問うた。
「そう、異邦人はな、女神の恩恵でいくつかの常識外れな固有スキルを持つと言うが、今から説明する固有スキルは全勇者共通で必ず所持しているものだ」
「…………」
――”勇者”が”勇者”として在るために必須な能力……
「それは……人間種以外に対する大幅な”殺傷力の底上げ”だ!」
「……」
「……」
ファブニールもレアスティアナも、そしてマリアベルも黙ったまま斎木 創を見詰める。
「そうだな……所謂、”特攻”というやつだよ」
そして斎木 創はそのまま説明を続けた。
「その固有スキルの恩恵で、対人間種以外の戦闘となると勇者の攻撃力は数倍にも跳ね上がる、ただでさえ化物級の能力がだ!」
――それは、対魔王攻略兵器として送り込まれたのだから当然必須の能力なのだろうが……
勿論、出来損ないの勇者である斎木 創にはその能力は無かった。
「なるほど……つまりその固有スキル”特攻”がある以上、魔王軍は勇者相手では常に想像以上の苦戦を強いられるわけか」
納得顔のファブニールに頷いてから、斎木 創はそれを踏まえた作戦指示を続けた。
――
「以上、作戦は説明した通りだが……ファブニール、先鋒であるお前には出来たらもう一つ、可能ならで良いが……頼みたい事が……」
一通りそれを終えた後、斎木 創は少しだけ申し訳なさそうにそう付け足す。
「フッ……友よ、何でも頼むが良い。私と斎木の仲だろう?」
ファブニールはそんな相手にキラリと爽やかな笑顔を返した。
「いや、どんな仲だよ……まぁいい。あのな……一撃、一撃だけで良いから、あの勇者がビビるような攻撃を仕掛けてくれ!」
「ちょっ!ちょっとはじめくん!それは……」
マリアベルが驚いてつい口を挟むのも無理は無い。
基本、反則級の強さを誇る勇者にはこちらからは仕掛けないのが本作戦の鉄則だと、本作戦の基本だと斎木 創は話の中で何度も確認していた。
それをたった今、張本人が矛盾したことを要求したのだ。
「ほぅ……」
だが、黄金の竜騎士はそれにも興味深そうに頷く。
「勇者に弱点があるとするなら……それは実戦の経験値だ」
「経験?」
どういうこと?という二人の女の視線を受けながら斎木 創とファブニール・ゾフ=ヴァルモーデンは会話を継続する。
「そうだ、ゲームをいくらやり込んでいても、ゲームは仮想、実戦とは違う。この現実世界では実戦、苦戦の経験が無い勇者達はあまりに戦いというものを知らなさすぎる」
――女神から与えられた恩恵により、転移直後から全く苦労や努力を知らない事が逆に弱みになるんだと……
幾多の経験から斎木 創は考えていたのだ。
「なるほど……ゲームとはよく解らんが、破格の才能故に鍛錬を蔑ろにする愚者という訳だな」
そして、その斎木 創の真の経歴を知らないファブニールは、その言葉をそう理解していた。
「ああ、大体そんな感じだ」
概ねそうだと斎木 創は深く頷く。
「…………」
「勿論、無理はしなくて良い。危なそうなら基本の作戦通りに……」
黄金の竜剣士、竜人族が誇り高き三血の一竜たるファブニール・ゾフ=ヴァルモーデンは、友からの結構無茶な依頼に……
「任せておけ友よ!……但し、少しばかりやり過ぎて、私が”勇者殺し”となって名を馳せても恨むなよ」
――と、白い歯を輝かせながら笑ってそう応えたのだった。
―
「あの怪しげな小瓶、ありゃなんだよ?派手トカゲ」
剣を構えた勇者、レオス・ハルバは呆れた様に問いかけた。
「ゆくぞ!”輝く刃の軌跡”ォォーー!!」
ダダッ!
勇者の問いかけを完全に無視して攻撃に転じ、大地を蹴るファブニール!
「ばぁーーかっ!食らえよ、派手派手トカゲっ!!」
だが、少しも慌てず迎え撃つ勇者の手からは幾つもの光の亀裂が発生し、それは前方の空間で激しくぶつかってスパークする!
ヴヴヴーー
ババババッ!ガリガリィィーー!!
――雷光刃乱舞撃
それは雷撃系、最上位に位置する攻撃系魔法の一つ!
習得レベル300以上、魔力による超超電圧で標的周囲にプラズマ化された電光剣が無数に発生し、その刃群が四方八方から対象を滅多斬りにする大魔法だ!
「……」
しかし、ファブニールは自身の周りに展開する魔法の刃などお構いなしで突進を続行し、勇者に向けた切っ先には微塵も躊躇は無い!
「死ねよ、バァカッ!…………なっ!??」
レオスは余裕でニヤけていた顔を、次の一瞬で凍り付かせたっ!
――”剣将”
レベル80以上と幾つかの条件をクリアした者のみが就ける上位職業の一つである。
直接戦闘系の最高峰の一つであり、近接戦闘では無類の強さを誇る職業だ。
そして、その”剣将”の職業スキルには”剣の乙女の加護”なるものが存在する。
「フ、フフフ……やはり”勇者”は”斎木 創”には及ばぬ!!我が”剣将”の加護の前にはどのような大魔法も無力だと識れっ!」
――それは、あらゆる魔法攻撃を一度だけ無効化するという上位職ならではの超強力なスキル
バシュッ!バシュッ!バシュッ!バシュッ!バシュッ!
顕現した電光剣は一本残らず消滅し、突進する黄金の竜剣士はそのまま切っ先を勇者に定めた!
「誇り高き”三血”が黄金の剣、その身に刻め!!人間種ぅぅっ!!」
ドシュゥゥーー!!
「ちっ!このトカゲっ!!」
ファブニールの渾身の一撃!
”輝く刃の軌跡”による黄金の切っ先が勇者に届いたかと思われた瞬間!
ガキ!
ガキ!
ガキィィッ!
ガキィィン!
「なにっ!?」
ファブニールの剣先はレオスの左胸数センチ前でピタリと静止していた。
ギッ……ギギギ……
「ぬ、ぬぅっぅっ!!」
寸前の所で幾つもの機械の腕に四肢を絡め取られ、動きを封じられる竜剣士。
「はぁはぁ……お、驚かせやがって、この派手トカゲ!」
それはレオス・ハルバの右腕に装着した”腕装備型円形小盾”の裏側から伸び出た四本の腕、関節部分が幾つもある機械腕だった。
第四十九話「黄金の騎士」END




