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第四十八話「”キルキル団”見参っ!」

挿絵(By みてみん)

 第四十八話「”キルキル団”見参っ!」


 「()の場所にて、この”金の竜像”と”銀の竜像”を頭上に掲げ、高らかにこう叫びなされ……」


 ――約束の時は来たれりっ!向かい合う真実と虚構は表裏の象徴、世の心理なりっ!


 ――

 ―



 「……」


 見るからに立派な剣を携えた黒髪の若い男。


 光りの壁に遮られた向こう側――


 そこを見詰めて立つ、右腕に装着した”腕装備型円形小盾(ハンズ・シールド)”が鈍く光るその男は……


 ガシャ!ガシャ!


 両手に持った竜の像を二つとも地面に投げ捨てた。


 「リ、リーダー?良いのか?」


 大鎚(アイアンメイス)を担いだ大柄な男が慌ててそう聞くが……


 「ばぁか、あんな恥ずかしい中二病な台詞、言ってられるかよ」


 黒髪の男は、そう言うとそのままスッと目前の光りの壁に左手を伸ばす。


 ――


 「おおっ!!」


 「……」


 心配していた大柄な男は感嘆の声を上げ、その横に佇む、腰に二本の曲刀(シミター)を携えた中年の男が細い眼を更に細めた。


 たった今、黒髪の男の左手は何の抵抗もなく光りの壁の向こうへと素通りし、そこが通行可能だと証明されたのだ。


 「こんなの見れば分かるだろうが?此所(ここ)だけダミー……最初からこの一点だけ通れるようになってるってな」


 黒髪の若い男、榛葉(はるば) 零王主(れおす)は……いや、勇者・レオス・ハルバは、呆れたと言ったような声でそう言った。


 「…………良いのか、あからさまな誘導だが?」


 そしてそのまま不用意に進もうとするレオスに、腰に二本の曲刀(シミター)を携えた浅黒い肌の痩せた男が静かに確認する。


 「…………」


 歩を止める勇者。



 ――此所(ここ)はニヴルヘイルダム竜王国、城塞都市カラドボルグ周辺……


 深い渓谷に分断された場所に一本きりの吊り橋が在り、そこを渡ると直ぐに現れた光りの壁はグルリと円を描いてある建物を囲んでいた。


 数十メートル?いや、下手をすれば百メートル以上の高さで侵入者を阻む結界。


 ()の結界は、例え”勇者(かれ)”であろうと、容易く破壊出来る代物ではなかった。


 ――”()の場所にて、この”金の竜像”と”銀の竜像”を頭上に掲げ、高らかにこう叫びなされ”


 此所(ここ)に居たるまでに出会った、黒いマントを頭からスッポリ被った見るからに怪しい謎の人物は、勇者一行にそう言って二つの竜像を手渡して来た。


 そして(くだん)の文言を伝授したのだが……


 「罠?雑魚のする事なんざ、俺に通用するわけ無いだろ」


 レオスはそう言い捨てると、再び光りの壁の向こう側へと歩を進め、サッサと侵入して行く。


 「ちょっ!待ってくれよ!リーダー」


 「…………ならば言うまい」


 そして、仲間達もその後へと続いたのだった。


 ――


 光りの壁をすり抜けて――


 その空間に勢揃いした勇者一行は目前の城を見上げる。


 「……」


 ”勇者一行(パーティー)”の中心人物は勿論、勇者レオス・ハルバだ。


 メンバーは――


 大鎚(アイアンメイス)を肩に担いだ”重撃戦士(ヘヴィ・ウォリア)”。

 巨漢で四角い顔で大雑把な造りの目鼻立ちであるオルテガ=ダング。


 腰に二本の曲刀(シミター)を携えた”勇剣士(グラディアトル)”。

 浅黒い肌と痩せた身体(からだ)、細くて鋭い眼をした無口な双剣使い、ズゥィアブン=ヤーヴ。


 そして……”解錠賊(アンロッカー)”と”神導師(クライスト・シープ)”の男が一人ずつという計五人の集団(パーティー)だ。


 「なんだこりゃ?ご大層な結界で囲まれてた割には随分とボロい小屋だな」


 レオスはそう言うと面白く無いと、あからさまに項垂れた。


 「ホントッスね、これじゃ城っていうより民家だ、クハハハッ!!」


 オルテガが大笑いする。


 「おっっもしろくねぇぇっ!これじゃ大した金もアイテムも無いの確定だな……なにが”勇者殺し”だ!!やる気無くした、もうこのボロ城ごと燃やすぞっ!」


 そしてレオスはそのまま右手を(かざ)し……


 「…………良いのか?ウィズマイスターが囚われているのだろう?」


 「ちっ!」


 鋭く細い眼の無口な双剣使い、ズゥィアブン=ヤーヴの言葉で思い直す。


 「”勇者殺し”の奴め、面倒臭い事して来やがって……けど、まぁいいか?どうせそんな不愉快な存在は近々”ぶち殺す”予定だったしな!」


 そう言い捨てて、レオスは四人の仲間を引き連れてその建物内に向けて進撃するための足を前に……


 「輝く刃の軌跡シャインニング・ブレイドォォッ!!」


 シュオンッ!!

 シュオンッ!!

 シュオンッ!!


 ――瞬間っ!


 来訪者の五人に向けて何処(いずこ)からか強烈な閃光が複数回走り抜け、咄嗟に勇者一行はその場を散り散りに飛び退いていた!


 「ちっ!」


 「……」


 「だ、誰だっ!!」


 最後に回避した巨漢の戦士、オルテガ=ダングが皆を代表するかのように大鎚(アイアンメイス)を頭上に掲げながら鍔をまき散らして怒鳴っていた。


 ――


 「誰だ?フフフ……そう聞かれたならば名乗るは武人の嗜み」


 勇者達五人の後方から只中を走り抜けた閃光は、彼らを阻むように(くだん)の建物前で停止し、そしてその人影はゆっくりと振り返る……


 ――


 先ず目に付くのは、仰々しい、派手に輝く黄金色の全身鎧(フル・プレートメイル)


 身長は二メートル程で、全身鎧(フル・プレートメイル)から露出した鍛え込まれた逞しい手足と腰に見事な竜の装飾が施された”両刃剣(グレートソード)”を携えた、竜人族の立派な剣士だ。


 「フフフ、我が名はファブ……いや、黄金の騎士ナイト・オブ・ゴールド!!死の超能力者にして”キルキル団”が偉大なる総統、サー・イキング様が”四魔騎士アンラッキー・クローバー”が”唯一槍(ひとつやり)”!!」


 スッと通った鼻筋と自信に満ちた口元。


 豊穣の証である稲穂のように輝く黄金の髪を後ろで束ね、同色の双眸が()の者の所持するであろう才気を誇るように輝いていた。


 「……」


 「……」


 「……」


 「……」


 ビシリとポーズを決めて颯爽と立つ黄金の竜剣士、ファブニール・ゾフ=ヴァルモーデンだが、周りの反応は極めて冷めていた。


 「さぁっ!かかってこい、四人の人間種が勇士達よ!無駄と解っていても(なお)、このファブ……黄金の騎士ナイト・オブ・ゴールドという美しくも高き壁に挑んで果てよっ!」


 だが流石はファブニール、そこは全く空気を読まぬ唯我独尊、相変わらずの自己陶酔体質ぶりで……


 相手の反応などお構いなしで、日光を反射した金髪が煌めき、弛めた端正な口元から覗く白い歯がキラリと光っていた。



 「キ、キルキル団?黄金の騎士ナイト・オブ・ゴールド?偉大なる総統サー・イキング?……何言ってるんだこの竜人?は、はははっ!バッカじゃねぇの!?」


 巨漢で四角い顔の”重撃戦士(ヘヴィ・ウォリア)”、オルテガが手にした大鎚(アイアンメイス)で黄金の竜剣士を指して笑う。


 「それに俺達は五人だ、竜人は数も数えられないのかぁ?がはははっ!サー・イキング様?誰だよ、なぁ?」


 ――スッ!


 「は?…………おっ!?おおっ!!」


 そんな態度を続けていた大男だが……ファブニールが両刃剣(グレートソード)で指し示した方向を目で追い、直後、雑な口をあんぐり開けて驚きの顔で硬直したのだ。


 「あ?あ?……おいっ!?おおいっ!!」


 奇襲の攻撃を受けた勇者一行、そしてその一撃を銘々が飛び退いて(かわ)したと思っていたが……


 「…………」


 そこには既に事切れて倒れた仲間の姿があった。


 「マ、マジかよ……」


 倒れていたのは”解錠賊(アンロッカー)”の男。


 その男は今回の”勇者殺し襲撃”の為に、一時的に雇った盗賊(シーフ)系の下級職である”解錠賊(アンロッカー)”だった。


 「フン、口ほどにも無いな人間種。我が黄金剣の前では貴公等は等しく無力……ぬっ!?」


 ギィィンッ!


 ガキィィンッ!


 勝ち誇ったファブニールが言葉を終えるのを待たずに、二本の曲刀(シミター)を抜き放った勇剣士(グラディアトル)、浅黒い肌と痩せた身体(からだ)のズゥィアブン=ヤーヴの双剣が襲い掛かった!


 「ほぅ、中々に鋭い剣では……おっ!?」


 ドカァァーーッ!!


 二本の双剣を弾いたファブニールの背後から、勢いよく振り下ろされる重厚な衝撃!


 振り返り様に両刃剣(グレートソード)で受けたファブニールの眼前で激しく火花が散り、その重厚な一撃の勢いで彼の足元は僅かに大地にめり込んだ!


 「ぬうぅ……意外とやるでは無いか人間……くっ!」


 シュオンッ!


 ヒュオンッ!


 そして今度は、鉄槌と大地との間につっかえ棒のように挟まって動けないファブニールを再び踊る様に空を切る双剣が再襲撃する!


 「ぬぅっ!」


 ヒュヒュ!ヒュォンッ!


 「おらおらおらぁぁっ!」


 ドカァァーーッ!!


 「このっ!」


 ガキィィン!


 息もつかせぬ攻防が繰り返され、二対一の戦いは暫く続いたが……


 「はぁはぁはぁ……に、にんげん……め……はぁはぁ……」


 黄金の竜剣士には致命傷こそ無いものの……

 傷つき大地に片膝を着いて、肩で大きく息を出し入れしていた。


 「はぁはぁ……こいつムッチャ強い……ヤーヴさんと二人がかりでやっとかよ……はぁはぁ、やっぱ竜人は……」


 「…………」


 大鎚(アイアンメイス)を肩に担いだ重撃戦士(ヘヴィ・ウォリア)、オルテガ=ダングは荒い息で、

 二本の曲刀(シミター)を構えた勇剣士(グラディアトル)、ズゥィアブン=ヤーヴは無言で黄金の竜剣士を囲んでいた。


 ザッ!


 ――っ!?


 そこで一歩前に出る黒髪の勇者。


 「なんだそりゃ?……死の超能力者、偉大なる総統サー・イキング様の四魔騎士アンラッキー・クローバー唯一槍(ひとつやり)なんて大言壮語ほざいておいてこの程度かよ、黄金の騎士ナイト・オブ・ゴールド?」


 何故か若干苛立った顔持ちで、膝をついたファブニールを見下ろすレオス=ハルバ。


 「…………」


 それを膝を着いたまま見上げるファブニール。


 「期待外れだ……ほんと、今回はクソゲーだな」


 それは勝てて良かったとか、目的達成に近づいたという事よりも……


 ”この娯楽(ゲーム)は面白く無い”という、そういう感情が最優先で顔に出た状態であった。


 「もういいや、クソ雑魚め……ヤーヴ、オルテガ、サッサとその派手蜥蜴(トカゲ)を駆除し……」


 「ククク……」


 ――っ!?


 勇者ハルバ=レオスがそう吐き捨てようとした時だった。


 「ククッ、ハハハッ!思ったよりデキるな人間っ!なるほど、ならば此方(こちら)も奥の手を使わねば成るまいっ!」


 今の今まで劣勢に間違い無かった黄金の竜剣士は高らかにそう言い放つと、そっと胸の鎧に左手を差し込み、そしてそこから怪しげな小瓶を取り出した。


 「…………」


 ――グビ、グビビ……


 そしてこの状況でも構わずその液体を……

 なんだか”どんより”とした謎の液体が入った小瓶を一気に飲み干す。


 「クッ!ハッ!はぁぁぁぁーーーー!!」


 ――っ!!


 (たちま)ち、黄金の竜剣士、自称、四魔騎士アンラッキー・クローバー唯一槍(ひとつやり)黄金の騎士ナイト・オブ・ゴールドの全身から目映いほどの黄金光が溢れ出し、そして輝く竜剣士は両刃剣(グレートソード)を手にゆっくりと立ち上がる!


 「う、うぉぉっ!?なんだ!この……威圧感(プレッシャー)はっ!?」


 「……………………ぬぅ!まるで別人」


 その桁違いの迫力に、ヤーヴとオルテガは思わず後退(あとずさ)る。


 「ハハハッ!ハッハッハァアッッ!!これぞ、我が友にして総統、サー・イキング様から与えられし”サイキックのおいしい水”によって引き出された我の真の力っ!」


 輝く黄金の竜剣士は飲み干した空瓶を高らかに言い放った!


 「これが竜人を越えし竜人!超・竜人(スーパー・ドラグーン)黄金(ゴールド))だぁっ!!」


 第四十八話「”キルキル団”見参っ!」END 

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