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第四十七話「斯くして、命懸けの茶番という幕は上がる」

挿絵(By みてみん)

 第四十七話「斯くして、命懸けの茶番という幕は上がる」


 「正気なの?バカ?」


 蒼き竜の美姫は、相変わらずの調子で斎木 創(オレ)を罵倒した。


 「いいえ、姫、これは中々に素晴らしい演出だと言えます、流石は我が友っ!」


 綺羅綺羅(キラキラ)気障(きざ)な黄金の竜剣士はフッと笑って前髪を払う。


 「たしかにぃ……センスは最悪(バット)だけど、一世一代ワンス・イン・ア・ライフタイムのステージに演出(ドラマ)は必要かな?」


 鉱物(ゲテモノ)喰いの格闘士(クラッパー)美女は、見た目、感情乏しくも俺の趣旨に賛同した。


 「ぐふふのふぅっ!面白いですぅねぇぇ、ますたぁと居るとぉぉ」


 俺の”刀剣破壊武器(ソードブレイカー)”たるツインテールの黒い影娘は、ニヘラァと空洞の口をだらしなく弛めて笑った。


 「アッシは……」


 ガシッ!


 一丁前に意見を述べようとした馬鹿狸は、それを口にする前に俺が踏み潰した。


 「ひ、非道い扱いでヤンスよほぉぉっ!」


 …………てな感じで――


 我が”4LDK城”にて俺は、対勇者の作戦を皆に伝えたのだ。


 「では、いよいよ日時も差し迫ってきたことだし、各自怠りなく準備を……」


 「私は納得していないからっ!作戦はともかく、この馬鹿げた設定とか役回りって何なの?必要あるとは思えないわ!馬鹿馬鹿しいっ!」


 「…………」


 俺は手に持った杯を大きく掲げた。


 「では、我らに武運をっ(ツォムヴォール)!」


 俺の合図で各々が手に持った杯に注がれた年代物のワインを一気に(あお)る。


 ガシャァァーーン!


 「(おう)っ!」


 ガシャァァーーン!


 「YES!」


 ガシャァァーーン!


 「ふぁぁい!」


 ガシャァァーーン!


 「ガッテンでヤンス!」


 ガシャァァーーン!


 そして空になった、各々手が持ったワイングラスを石床に叩き付けて、

 俺達は一世一代の舞台に向け作戦決行の合図としたのだった!


 「だ、だから私はっ!!…………って?え?えぇ?」


 ――ゴクゴク……ぷはぁっ!


 「ふんっ!」


 ガシャァァーーン!


 俺は未練がましく抵抗するマリアベルのグラスを強引に奪って中身を飲み干し、そして床に叩き付けた。


 「ちょっ、ちょっと、はじめく……」


 「散会っ!」


 ――


 俺の一声で面々は各々の部署へと旅立っていった。


 「…………」


 ――さらば愛しき戦友達よ……願わくば再び”4LD城(ここ)”で相見(あいまみ)えようっ!


 俺の頬には一筋の熱い熱い涙が……


 「っってぇ!!だ・か・ら・私はまだ納得がぁぁっ!!」


 若干一名を除いて、その儀式は熱く、感動的に終了したのだった。


 「…………」


 「…………」


 二人きりになった謁見の広間で、蒼石青藍(サファイアブルー)の瞳でジト見される斎木 創(オレ)


 「さぁてと!そ、そろそろツェツィーリエがオベルアイゼル公国から戻るらしいから、俺も行くとするかなぁ……」


 説明がましい台詞を口にし、俺はその場を”そそくさ”と後にしたのだった。


 「……ばか……バカはじめぇぇっ!!」


 背中に既にお決まりとなった罵声を浴びながら。


 ――

 ―



 「それはそれは変わった人間種でしたわ」


 ツェツィーリエ・レーヴァテイン=アラベスカは、そう言うと手に持った三十センチほどの長さの革袋を差し出した。


 受け取った俺の手に、大きさの割に意外とズッシリとした重みが伝わる。


 ――魔術遮断の杭(ゴルゴダ)


 呪術導士(カース・メイジ)ヒューダイン=デルモッドが使役した霜の巨人フロスト・ジャイアントを一定時間無効化した魔術遮断結界アンチマジックフィールドを形成し、魔竜化(ドラグフォルゼ)した蛇竜姫(ツェツィーリエ)との戦いでは空間の断層で俺に駆け寄るマリアベルを遮断隔離した超強力な固有結界を展開した魔道具(マジックアイテム)


 十三本の鉄芯の杭からなる異端の魔術道具は”ある男”により制作され、俺に渡されたモノだった。


 「レクス・アイゼルスタイン=ダイクラフ……あれでもオベルアイゼル公国では次代の英雄、いや、ユクラシア全土でも大天才の名を欲しいままにする男だけどなぁ」


 俺は手にした革袋から杭を一本一本取り出しては吟味し、その出来を確認する。


 「(はじめ)さまの名を告げましたら、久しぶりに会えるかと楽しみにしていたのにと残念がっておりましたわ……でもその舌の根も乾かぬうちに(わたくし)が竜人族と知るとそっちの方が興味を引いたみたいですわ」


 なるほど……


 竜人族はこのユクラシアでも最も希少な部族と言われるほど個体数が少ない。


 あの研究狂(フリークス)が興味を示すには十分な素材って訳か……


 「悪かったなツェツィーリエ、お前に使い走りの真似をさせて、勇者との決戦まで時間が無かったから最短でオベルアイゼルまで行くにはお前の力が……」


 元々、”異世界勇者”の出来損ないたる(さい)() (はじめ)には正真正銘の勇者相手に勝機など微塵も無い。


 そんな俺が”対勇者”で選択できる手段……


 ――”奇襲(ふいうち)”と”騙し(ペテン)


 その為にも、勇者側の予定でなく()(ちら)側の都合の良いタイミングで開戦するには、特に相手と同じ少数精鋭で迎え撃つ此方(こちら)の陣営の戦力……


 つまりマリアベル・バラーシュ=アラベスカに”月の恩恵”が降臨する時期を開戦タイミングに調整するには時間が無かったのだ。


 そして、フレストラント公国からオベルアイゼル公国第二の都市、アイゼルスブルク領に最短で入るには、フレストラント、オベルアイゼル、ナズルミュールの三国に跨がる”暗き鏡の湖ミラー・オブ・ダークネス”を渡るのが一番の近道だった。


 とはいえ、あの湖は”死の国への境界”と言われるほどの多数の魔物が蠢く危険な場所。


 通常の船は出ておらず、そこを渡航するにはツェツィーリエの、暗黒蛇竜姫(ナーガ・ロード)の使い魔たる水魔蛇(シー・サーペント)の力が必要だったのだ。


 「いいえ(はじめ)さま、(わたくし)(はじめ)さまのご命令ならどんな僻地にでも魔境でも手間暇を惜しまず向かいますわ!お気遣いは全く必要ありませんのよ」


 「そうか、ありがとう……どちらにしても今回は助かった、ご苦労様」


 俺は俺の言葉に即座に反応してそう答えるツェツィーリエ姫を眺めつつ、労を労った。


 ツェツィーリエはそんな俺の言葉にニッコリと微笑んでから、少し表情を険しいものに変えてそっと付け足す。


 「ですが……今回、あのアイゼルスブルクの城で感じた気配は……」


 ――気配?


 俺はその言葉に首を傾げる。


 「はい、姿無き凄まじい圧力(プレッシャー)……あれは恐れ多いですが閻竜王陛下と同等……いえ、もしかしたらそれ以上の……」


 「…………あっ!」


 俺はそこで気がついた。


 ツェツィーリエが感じた気配は勿論、レクス・アイゼルスタイン=ダイクラフのモノでは無いだろう。


 奴はオベルアイゼル公国第二の都市、アイゼルスブルク領の領主で、上位職業(マスタークラス)、”機工剣士(メカニカル・ブレイズ)”にして稀代の錬金術師(アルケミスト)、戦略家……本人曰く”本業は学者”だそうだが、とにかく多彩な顔を持つ大天才だ。


 だが、それでも、こと個人的武力という視点からなら、竜人族で皇族のツェツィーリエ姫が脅威に感じる程のものでは無いだろう。


 だから俺が思い当たる人物は唯一人……


 「ああ……それは多分、”戦姫”だ。たしか”死告天使ルヴァーナ・バルキュリア”とも呼ばれてたか?」


 「っ!?」


 俺の答えに流石の蛇竜姫もその黒瑪瑙(ブラックオニキス)の瞳を見開く。


 「言ったろ?数年前の人間種の唯一王国、ドレント王国内の権力争い、そしてそれに端を発した最北の公国、アルダース公国との戦に介入したレクス・アイゼルスタイン=ダイクラフがそれを収めて……」


 そう、”戦姫”、”死告天使ルヴァーナ・バルキュリア”は亡きドレント国王の孫娘……権力闘争で政治的に排除された姫で、アルダース公王である女傑、ヤーナ・ハイオウル=レーデン女王の姪っ子でもある。


 「”死告天使ルヴァーナ・バルキュリア”は……伝説級武具、天星の光弓(アルテナ)を使いこなし、神をも滅するという不遜なる黒き剣を操るという人間種と思えないくらいの戦士(バケモノ)……なんでそんな女が()の国にいるのですわ」


 ツェツィーリエがここまで驚くのも無理は無い。


 あの戦は、ここ最近の出来事では破格の戦い。人間種同士の争いとは言え、その内容には他の種族も大いに興味を抱いた歴史的な戦だったろう。


 だが……


 「その剣、”神をも滅するという不遜なる黒き剣”だったか?それ創ったの、俺の魔術遮断の杭(ゴルゴダ)を造った男と同じ奴だからなぁ……てか、戦で活躍したことに(かこつ)けて、レクスの奴……ちゃっかり自分の手元に囲っていたのかよ」


 ”戦姫”、”死告天使ルヴァーナ・バルキュリア”こと、フェリシア・ドレント=リンデンは黒髪が美しい超美少女だと伝え聞く。


 そんな美少女剣士がレクス(やつ)のためだろう、突然訪れた蛇竜姫(ナーガ・ロード)という脅威を影から警戒して威嚇というか警告を……


 ――羨ましい……てか妬ましい!俺の(マイ)婚約者(ハニー)が向ける威嚇は常に俺なのに……


 とはいえ、あの研究マニアの子供(ガキ)、ちょっと見ない間に”レクス坊や”も随分立派な男になったものだと、俺は感心しながら独り頷いていた。


 「どうしますの?」


 ツェツィーリエが聞く。


 「どうする?なにが?」


 俺には問いの意味が解らない。


 「ですから……」


 ああ、なるほど……蛇竜姫(ツェツィーリエ)は懸念からそう聞いていたのだ。


 「関係無いだろ?取りあえず現在(いま)の俺達には」


 だが俺にはそう言った世情は関係無い。


 敵にならないのなら、全く問題無い。


 というか、不世出の天才、レクス・アイゼルスタイン=ダイクラフと英雄王の血を引く戦姫の物語は、それはまた別のお話だろう。


 心底からそう考える俺は、そう言って流した。


 「…………そう、ですわね」


 そしてツェツィーリエも、完全に納得したわけではないだろうが、素直に俺に従った。


 「それよりも、俺達の相手は勇者だ。榛葉(はるば) 零王主(れおす)だ」


 俺はそう言うと、しっかりとメンテナンスが施された魔術遮断の杭(ゴルゴダ)を確認し終わって腰の革袋に仕舞う。


 ――さすが、レクス坊や……完璧な調整(メンテ)


 そして、代わりに取り出した小瓶をツェツィーリエに手渡す。


 「それで、ファブニールから作戦は聞いているか?」


 俺の問いかけに、なんだか”どんより”とした謎の液体の入った小瓶を手にした蛇竜姫(ツェツィーリエ)は頷く。


 「はい、(はじめ)さ……いえ、”私の総統(マイン・フューラー)”、サー・イキング様。”四魔騎士アンラッキー・クローバー”が”唯一槍(ひとつやり)”として必ずやこのツェツィー……”暗黒の騎士シュヴァリエ・ノワール”が満足のゆく結果を献上致しますわ」


 個人的特徴(チャームポイント)である黒瑪瑙(ブラックオニキス)の魔眼を光らせ、悪戯っぽく笑った黒髪巻き毛の少女は、スカートの裾を摘まみ(うやうや)しく頭を下げて、ノリノリに演じたのであった。


 第四十七話「斯くして、命懸けの茶番という幕は上がる」END

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