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第四十五話「信頼無き協定」後編

挿絵(By みてみん)

 第四十五話「信頼無き協定」後編


 オベルアイゼル公国へ向かうツェツィーリエと別れ、俺とマリアベルは指示されたフレスベン城南門とやらへ移動していた。


 案内役という兵士は十人ほどで、俺達は囲まれて歩いている。


 「これで一応フレストラント公国、カウル・フレスベ=モンドリア公王との話はついたな」


 フレストラント兵士達に囲まれながらも、俺は構わずマリアベルに話しかけた。


 「……」


 対して、蒼き竜の美姫は視線だけ返して来るだけだった。


 ――別に今更警戒しても仕方無いだろうに……


 これだけ信用されてない訳だし、こっちもこっちで本当に帰るだけだしな。


 「まぁなぁ……公国にとっての利益はどちらに転んだとしても”勇者”か”魔王”、一方の脅威は無くなるという所だろう」


 俺は構わず続けていた。


 フレストラント公王は、勇者一行に我が居城の位置を教え、勇者に討伐を依頼する。


 その間、公国は色々理由をつけて手出ししない。


 一応そういう約束は取り付けた。


 ――フレストラント公国が俺達に協力をする”代価”は結果だ


 俺が勇者を屠れば、公国の力関係を崩す新たな英雄を排除でき、俺が敗れれば、そのまま勇者を前面に押し立て”閻竜王ダークドラゴン・ロード”討伐に乗り出して”魔王”を排除する。


 もっと言えば……


 それらの戦いで勝つ方がどちらでも、残った方が傷ついてくれれば、その後の処理も幾分は楽になるかも、という(よこしま)な考えもあるだろう。


 ――と、まぁ……ここまでは俺の筋書き通りだが、


 閻竜王ダークドラゴン・ロードの支援が得られない現在、独自で勇者撃退の戦力を整える必要があるだろう。


 具体的には、相手が”勇者一行”

 つまり、軍隊では無いし、こちらも城とは名ばかりの4LDK城だ。


 兵力も犬頭人(コボルト)族の筆頭兵士長トップ・オブ・リーダー、”トナミのトトル”率いる犬頭人(コボルト)隊。

 これは村の守備隊程度だから戦争なんて先ず無理だろう。


 ――相手も軍隊じゃ無いし、ここは少数精鋭による迎撃が理想的だが……


 それでもやはり、迎え撃つ側としては”戦闘員”的な役回りは必要だろう。


 ”個”の脅威を数で薄められるほどの兵力は所持していない。


 だが、”個対個”の戦いを少しでも有利に導くため、小細工や時間稼ぎにはある程度の人数は必要だ。


 「……」


 返事を返してくれない竜のお姫様相手に空しくなった俺は、何時(いつ)しか帰国後の段取りを独り考え込みながら歩いていた。


 ――なんだ!?


 と、その時……隣を歩くマリアベルが立ち止まる。


 「おぉ……眩しい」


 どうやら既に城門を(くぐ)り抜け、俺達は外に出ていたようだ。


 「……」


 そして、マリアベルの視線が前方の一点を指している事に気づく。


 俺もその視線の先を追って見る……


 ――


 「では、後はよろしくお願い致します」


 「ええ、お任せ下さいと、公王様にも伝えてくださるかしら」


 ――


 停止した俺達の前方に大きめの馬車が一台。


 そして数人の兵士と一人の女。


 馬車は俺とマリアベルを国境まで送致するためだろうし、兵士はその護衛……監視だろう。


 そして女は……


 マリアベルの蒼石青藍(サファイアブルー)の瞳は、その女を一際敵意の籠もった視線で突き刺していた。


 「……」


 肩まであるウェーブのかかった赤毛と同じく赤い瞳の女が此方(こちら)に歩いてくる。


 歳の頃は二十代半ば程の大人の女性……いや、マリアベルと同じくらいの十代後半?


 ――なんだ?いったい……


 その”赤毛、赤瞳(あかめ)”の少女は、見方によってはヤケに幼く見えたり、大人びて見えたりという不思議な人物だった。


 ――しかし……


 緋色の肩当と胸当てを装備する下は白い魔導着をアレンジした膝丈ワンピースという上衣で、下衣はスラリとした脚にピッタリフィットした赤いレギンスのような格好に、多少ヒールのあるお洒落な革製編み上げブーツ姿。


 装備などから上級の冒険者と推測できるが、白い肌といい、華奢な体格といい、貴族のお嬢様然とした気品と佇まいは、そういう輩とは程遠い。


 「…………」


 ――だが、だが……俺が引っかかっているのは”そこじゃない”ような?


 「はじめくん!」


 やがて美しく整った顔を緊張に張り詰めて、蒼き竜の美姫は俺に促す!


 「う?……ああ」


 「ああ?じゃないでしょっ!”勇者”の仲間よ!気づいてないの!?」


 ――っ!?


 呆けた相づちを返した俺にマリアベルは信じられないと言った声色でそう言う。


 ――ゆ……うしゃ?……勇者……あ、ああっ!!


 そして俺はそこで初めて気づいた。


 ――この女……この赤毛の女は……


 俺の自宅に踏み込んで、夜盗紛いの行為を働いたあの”勇者一行”にいた女だ!!と。


 「信じられない、忘れてるなんて!……はじめくんの頭の中ってエッチな事しか入ってないの!?」


 俺の横で、臨戦態勢を取りつつも、ジト眼で俺を見る蒼き美少女。


 「いや、エッチな事だけならこんな神秘的な美女を忘れるわけ……」


 ――っ!


 「がっ!がほぉぁっ!!」


 要らぬ事を言った俺は鳩尾(みぞおち)に肘を入れられていた。


 「ぐぅぅ……非道い」


 ――た、確か呼ばれていた名は……


 「お初にお目にかかります、閻竜王ダークドラゴン・ロード陛下の使者様。私は、フェリシダーデ・カレド=ウィズマイスター。フレストラント公国が諸侯が一氏、ウィズマイスター子爵家の者です」


 俺達の前で止まり、そう自己紹介した赤毛の女は、白い魔導着をアレンジした膝丈ワンピースの両裾を摘まんで優雅に上流階級の挨拶をする。


 「お?……は、初です……えと……く、苦しゅうない」


 虚を突かれ、俺はなんだか分からない返事を返す。


 「…………ばか」


 そして隣で俺に呆れた言葉を呟いた蒼き竜の美姫は、張り詰めた視線はそのままだが、自身も膝丈スカートの両側の裾を白い指先で摘まんで、ペコリと頭に少し角度を付けた。


 「ご機嫌よう、フェリシダーデさん。私は、ニヴルヘイルダム竜王国を統べし偉大なる王、”閻竜王ダークドラゴン・ロード”が第一王女、マリアベル・バラーシュ=アラベスカです」


 ――流石、マリアベル!上流階級度?では全く引けを取らん!生粋の嬢様挨拶だっ!!


 二人の令嬢、その華麗で可憐な所作に俺は俄然興奮しまくりであった。


 「……それで、”勇者”榛葉(ハルバ) 零王主(レオス)の仲間であるフェリシダーデ・カレド=ウィズマイスターさんが私達にどういったご用件かしら?」


 刺々しい視線を向けたまま、マリアベルは赤毛、赤瞳(あかめ)の女を牽制する。


 「勇者の仲間?私が?」


 しかし、フェリシダーデ・カレド=ウィズマイスターは平然としらばっくれる。


 「誤魔化そうとしても無駄よ!あの夜、あの場所で……彼を襲った事を忘れたとは……」


 マリアベルは俺を指さし、感情的に相手に詰め寄るが……


 ――いやいや、もともと最初に俺を襲ったのは”マリアベル(おまえ)”だけどなぁ?


 「襲った?助けたの間違いではないかしら。襲っていたのは竜人の戦士で、それを助けたのが勇者一行だと専らの噂……大体、あの場には斎木(さいき) (はじめ)さんと勇者達、後は竜人族の戦士しかいなかったはずですが、貴女はどうして私を見たと?」


 ――お!痛いところを突かれたぞ!


 「なっ!……追い剥ぎが如き所業をしておいて恥ずかしくないのかしら!」


 ――わ、誤魔化した!……てか、俺を”パンいち”にひん剥いた”マリアベル(おまえ)”がいうな!


 「それは”榛葉 零王主(かれ)”が独断でしたことです……まぁ、どちらにしても私は勇者の仲間ではありませんし」


 「……」


 「……」


 睨み合う二人の女。


 「はじめくん……貴方もなんか言うこと無いの!?」


 「お!おれ?」


 変な所でパスが来た。


 「はじめくん、さっきからずっと向こう側の……ていうか、私のこと心の中で茶化してたでしょう!?」


 ――って!だから毎度毎度!この”氷雪竜姫(おじょうさま)”はエスパーかよっ!!


 「他人事じゃないでしょ!なんか言ってやりなさいよ!」


 ――くっ!無茶振りを……しかし……


 「ええと……フェリシダーデさんとやら」


 確かにマリアベルの言う事は尤もだ。

 ここで俺達の行動が勇者に漏れるのは不味い。


 「アンタが勇者の味方でないという根拠は何だ?俺達は確かにアンタが勇者一行の中に居たのを見たが?」


 「ふふ……」


 俺の問いかけに、赤い髪と瞳の神秘的な美女は微笑(わら)った。


 「……」


 ――だから……なんだ?この違和感……


 俺はてっきり、マリアベルが言うように……


 あの夜に会ったこの女を思い出せなかった事が、俺が引っかかっていた”そこじゃない”違和感だと思っていたが……


 ――なんだか違う?


 ものすごく近いが、違う違和感だ。


 「ふふ、斎木(さいき) (はじめ)さん、先に言ったでしょう?私も私の家もフレストラント公国に奉公する身、でしたら”その勇者”とやらと行動を共にする理由なんて……」


 ――っ!


 「なるほど……間者(スパイ)だと言い張るのか」


 俺は女の赤い瞳を見据えて言った。


 それをそのまま信じるには材料が足りない。


 フレストラント公王に確認するか……


 いや、(そもそ)もこの女が”二重スパイ”という可能性もある。


 ――ならば、この赤い女をこのまま放置するのは情報漏洩の危機管理から考えて……


 「あら、随分と難しいお顔ですわね、斎木(さいき) (はじめ)様?」


 ――”張本人(おまえ)”が言うなっ!


 俺が心の中でそう叫び、隣のマリアベルが我慢の限界と魔槍を顕現させようとした瞬間だった……


 「良い方法がありますわ!私が賜った監視任務も、斎木(さいき) (はじめ)様方の猜疑心を晴らす方法も両方を満たす方法が!」


 そう言うと赤い女は事も無げにこう言ったのだった。


 「私をこのまま斎木(さいき) (はじめ)様のお城へ連れ去って、軟禁されれば良いでしょう」


 ――は?


 これには流石に俺もマリアベルも……いや、フレストラント兵士達さえ間抜けな顔で固まっていた。


 「大丈夫です、我が公王、カウル・フレスベ=モンドリア様には私から許可を頂きますので」


 ――いや、おいおい……てか……なんなんだ?この女……


 俺の困惑を余所に……


 目前の赤い女は薄っぺらく微笑していたのだった。


 第四十五話「信頼無き協定」後編 END

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