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第四十一話「勇者”榛葉 零王主” 其の参」(改訂版)

挿絵(By みてみん)

 第四十一話「勇者”榛葉(はるば) 零王主(れおす)” 其の参」


 「うわっ!うわっ!くぅおぉぉーー!!」


 ギィィン!


 バシィィ!


 次々と迫り来る(つた)の鞭を剣で忙しく弾きながら、ラグ=バッハルトは雄雄しい雄叫びというより女々しい悲鳴に近いモノをまき散らしていた。


 「た、たすけてぇぇっ!!死にたくないよぉぉっ!!」


 緑の(つた)雁字搦(がんじがら)めに捕らえられ、怪物の根元まで手繰寄(たぐりよ)せられた獲物、ヨセリ=ヨーゼは泣き喚くが……


 「うおっ!わわっ!ひぃぃっ!!」


 本来なら彼女(ヒロイン)を助けるべく剣を振るう彼氏(ヒーロー)は、自分の身を守るのに手一杯だ。


 ――まぁねぇ……下級職業(クラス)の”勇剣士(グラディアトル)”ごときじゃ、レベル15以上の食人植物(マン・イーター)、キュベイラの相手は務まらないだろうなぁ


 「それに……」


 ――


 既に捕らえられていた複数の男女の哀れな姿。


 ホルマリン漬けされた標本のように異常に青白い肌と全身の至る所に突き刺さった細い緑の(くだ)の数々と、半死状態で栄養分を吸い取られ続けるゾンビのような被害者達……こんなのを目の当たりにしてしまえば?


 怪物に生きたまま捕食される恐怖に、捕らえられたヨセリ=ヨーゼだけじゃなくて、次の候補になりたくないラグ=バッハルトが、それこそ自分の事で必死になるのも頷ける。


 「いやっ!いやっ!いやぁぁっ!!」


 自分の末路を想像して半狂乱になって叫ぶヨセリ(おんな)


 「くそっ!くそっ!くそぉぉっ!!」


 襲い来る(つた)の洗礼に、自分だけはと、抗うラグ(おとこ)


 「……」


 ――大体こんなもんだよ……人間なんて


 自分が一番大事。


 普段どんな立派なことをほざいてたって、実際こうして目の前で悲惨で過酷な結果を見せられたら選択肢は自己保身の一択だ。


 「…………敵は……今のところ僕の方へは来てないな」


 僕はそういう分かりきった事を再確認しつつも、それこそ自身を守るための行動をしなければと、並行して脱出口を探していた。


 そして――


 「…………」


 グルリと見回してみたけど、何処(どこ)此所(ここ)も緑の(つた)で阻まれ、脱出するには一部の(つた)達をどうにかしないと無理そうだった。


 「いやぁぁっ!!ラグ!ラグッ!!」


 「くそっ!来るなっ!この(つた)めっ!ひぃぃっ!!」


 ――


 「…………」


 僕の周りの状況は相変わらず。


 「…………はぁ」


 結局、自身が助かるためにはそれを試すしか無いと思い至る。


 ――突破のためには壁になる(つた)を排除するしか無い


 けど……そのためには一撃で向こう側へと行けるように吹き飛ばさないと、僕にも(つた)の鞭が向けられるだろう。


 「…………」


 ――こわい……


 ――無理だ……殺し合いなんて……僕には……


 「いやっ!いやっ!いやぁぁっ!!」


 「くそっ!くそっ!くそぉぉっ!!」


 「…………」


 でも、何もしなくても……


 ――あの二人が終わったら、次は僕だろう


 僕もあの半死人達のように、生きたまま喰われ続けるエサとなる……


 「……」


 想像して、ブルリと背筋を冷たいものが走った。


 ――考えてる場合じゃ無い!


 僕は……


 榛葉(はるば) 零王主(れおす)は……


 この異世界(ユクラシア)に来て、初めて攻撃呪文を放つ決意をする!


 ――嫌だけど、しなきゃ地獄しか無い!


 「ヴォ……煉獄の炎(ヴォルガノ)!!」


 右手を前方にある緑色の障害物に(かざ)し、僕は唱える。


 ――っ!


 瞬く間に僕の(てのひら)には炙られたかの如き軽い熱が感じられ、それは直ぐに膨張し、黒炎となって僕の逃げ道を塞いでいた(つた)の壁に……


 ゴォオォォォォーーーー!!


 噴射されて壁は一気に燃え上がるっ!!


 「わわっ!」


 魔法を放った自身が驚くほどに……


 (まさ)に黒炎が天を焦がす勢いで……


 地獄の黒炎は容易く緑の壁を焼却して、一帯は焼け野原となった。


 「な、なんだ……これ……」


 僕の放った魔法は、たったの一撃で食人植物(マン・イーター)、キュベイラの半分以上を焼き尽くし、そして……


 「なっ!なんだ!?」


 「うっ……ひぃあ」


 その”おこぼれ”で助かったらしい見知った男女は、魔法の威力に呆然となってその場にへなへなと腰を落としていた。


 「…………」


 ――けど、驚いたのは僕だって同じだ……


 魔法を放った僕自身、その絶大な威力に立ち尽くしている。


 ――暗黒魔法レベル4の”煉獄の炎(ヴォルガノ)


 僕の放った魔法は、”地獄へ誘う魂の罪を問う断罪の炎”という設定の魔法だ。


 これはオンラインゲーム”闇の魔王達(ダークキングス)”では比較的初歩の魔法で、攻撃力もそんなに大したモノじゃ無いはず。


 けれど……


 「…………」


 ――この威力はなんだ!?


 ――これが僕の異世界(ユクラシア)での実力だというのか!?


 「……」


 ――僕は……


 「は、榛葉(はるば)……お前?」


 「う……ぐすっ……は、榛葉(はるば)……くん?」


 「…………」


 ――僕は……


 文字通り腰を抜かした二人の視線の先で立ち尽くす僕に向けて、


 ズシャァァァァーー!!


 ズザザザァァーー!


 猛烈な勢いで地面の草を掻き分けて進むキュベイラの(つた)っ!


 ザザザァァーー!


 ズザザザァーー!


 それは複数で、縦に!横に!斜めに!!


 雑草を割って縦横無尽に走り抜けて、あっという間に僕を包囲する!


 食人植物(マン・イーター)、キュベイラは僕を、”榛葉(はるば) 零王主(れおす)”をこの場で唯一の脅威と認めたのだ。


 ビシッ!


 ビシッ!


 ビシッ!


 囲んだ状況から、四方八方から襲い来る緑の鞭達!


 ――僕は……


 シャリンッ!


 ザシュッ!


 ズバァァッ!


 「榛葉(はるば)っ!?」


 「は、榛葉(はるば)くんっ!?」


 向けられた多数の殺意を、”それ”はいとも容易(たやす)く、尽くを斬り落としていた。


 「……」


 ――僕は……榛葉(はるば) 零王主(れおす)


 身体(からだ)の前に押し出して構えた、右腕に装着した”腕装備型円形小盾(ハンズ・シールド)”が鈍く光る。


 ギギ……


 ギギギ……


 あの時、フェリシダーデから受け取った”盾”の裏側から伸び出た四本の、関節部分が幾つもある機械腕(マシン・アーム)の先には鋭い刃が光っている。


 「榛葉(はるば)……そ、それは……」


 無様な格好のままの間抜け男が僕の装備に愚問をぶつけてきた。


 「”偽・百腕魔神へカートケル・アームズ”……この”成らざる箱庭の小盾(イン・ザ・ボックス)”に僕が仕込んだ”絡繰り(ギミック)”の一つ……さ」


 「ギ、絡繰り(ギミック)?……榛葉(はるば)くん……が!?」


 同様の馬鹿女が情けない涙顔を晒して聞き直す。


 「そうだよ、僕……俺は”機工剣士(メカニカル・ブレイズ)”だからな」


 ――そう、俺は”榛葉(はるば) 零王主(れおす)


 レベル515の上位職業(マスタークラス)、”機工剣士(メカニカル・ブレイズ)”……


 ――勇者様だ!


 「…………は、榛葉(はるば)?」


 「は、榛葉(はるば)くん?」


 ズゾゾゾゾ……


 足元では、身の程知らずにも未だ敵意を向けて這いずり回る幾本かの(つた)


 ――”コレ”は……


 俺は、敵にも成るわけが無い雑草、食人植物(マン・イーター)のキュベイラと……


 「榛葉(はるば)……俺の代わりにこのバケモノを倒すんだ!」


 「榛葉(はるば)くん!助けてっ!!」


 ――そう……この”異世界(ユクラシア)”は……


 情けなく地ベタを這いずり回って懇願する下等人種二人を見て確信していた。


 ――


 ――――”仮想世界(ゲーム)”だったんだよなぁ


 「…………は、ははっ」


 ”現実世界(リアル)”でぱっとしなかった僕……”榛葉(はるば) 零王主(れおす)”はもう居ない。


 無能で低能で、強者の消耗品としてしか存在価値のない雑魚共がウヨウヨと湧くこの世界。


 ――異世界(ユクラシア)で勇者様、レオス=ハルバは王様だっ!神様だっ!


 ザシュ!


 「ぐはぁぁっ!!」


 俺の”成らざる箱庭の小盾(イン・ザ・ボックス)”から生える機械腕(マシン・アーム)の一つが地ベタの(ゴミ)を刺した。


 「勘違いしてんじゃねぇよゴミ、お前が俺にするのは命令じゃない、懇願だ!」


 そして突き刺した太ももから機械腕(マシン・アーム)の刃はギギギとゆっくり動かされ、足の付け根辺りまで腿肉(ももにく)を引き裂いた。


 「ぎぁぁっ!!」


 途端に(ラグ)は絶叫し、それを目の当たりにした(ヨセリ)は顔を引き攣らせて目を見開く。


 「わか……ぐぁぁ!……わ……かりました……た、たすけてくださ……おねがい……しま……」


 ラグ=バッハルトは泣きながら懇願し、何度も何度も額を土塊に擦りつける。


 「……」


 「ひっ!!」


 そしてその塵屑(ゴミクズ)を確認した俺は近くで震えて怯える馬鹿女に視線を移す。


 「な、なんでもします……しますから……榛葉(はるば)く……榛葉(はるば)様!お、お願いしま……ヒック……酷いことしないで……」


 「…………」


 ――最早、誇り(プライド)も何も無いな、恐怖にアッサリと屈服する雑魚の典型だ


 俺は呆れながらも、勇者、レオス=ハルバの誕生記念日だと、少し愉しむ事にした。


 「煉獄の炎(ヴォルガノ)……」


 ゴォオォォォォーーーー!!


 先ずは片手間に、未だ蠢く雑草を完全に焼却する。


 「……さてと、」


 ザシュ!


 ザシュ!


 ザシュ!


 ザシュ!


 「う、うぎゃぁぁーー!!」


 またしても俺の”偽・百腕魔神へカートケル・アームズ”……機械腕(マシン・アーム)の四本が泣いて()(つくば)る男の四肢を突き刺し、そして大地に磔にしていた。


 「いちいち五月蠅(うるさ)いなぁ、たかが串刺しで……ああいう情けない男は嫌だね、口ばっかりで中身が無い」


 俺はそう言うと、へたり込んだまま恐怖に言葉も出ない女の前にドッカリと座る。


 「なっ!」


 そして顔を寄せて、そう同意を求めた。


 「っ!!」


 涙でクシャクシャの女の顔、その間近に自分の顔を寄せもう一度睨みを利かせた。


 「は……はい……情けないです……口だけの男は……」


 「ははっ、だろ?」


 俺は……何故だ?笑いが止まらない。


 「口だけの男は虫唾(むしず)が走る、俺はそういうのが一番嫌いなんだ」


 そう宣言して俺は女、ヨセリ=ヨーゼの前に胡座をかいて座った自身の下半身を指さし

 そしてもう一度、言葉を放つ。


 「けど女の口は嫌いじゃ無い……解るか?わかるよな?」


 「……………………はい」


 思わず息を飲む女の呼吸が伝わり、そしてヨセリ=ヨーゼは俺の下半身に奴隷の如く(かしづ)いた。


 ――


 「ぐっ……うぅぅ……赦して……くれ……たすけ……」


 四肢から止めどなく鮮血を流し、泣いて俺に懇願するラグ=バッハルト。


 「う……うう……う……」


 瀕死の恋人を気にする事も無く俺に奉仕し続けるヨセリ=ヨーゼ。


 恋人の命の危機より自己保身で貞操を捨てる女に、


 恋人が目の前で穢されている最中でも自身の命乞いを優先させる男。


 ――ホント……世界は……


 どこに行っても同じクソだ!


 俺は……榛葉(はるば) 零王主(れおす)はこの時に生き方を決めたんだ。


 同じクソなら……


 僕は……


 俺は……


 勇者、レオス=ハルバとして”トコトン愉しむ”のが正解だってな!


 第四十一話「勇者”榛葉(はるば) 零王主(れおす)” 其の参」 END

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