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第三十八話「帰還(ログアウト)の方法?」後編(改訂版)

挿絵(By みてみん)

 第三十八話「帰還(ログアウト)の方法?」後編


 「ああ、それで”転移の宝珠エマージェンシー・オーブ”をだな、複数集めると……」


 ――”競合向上(ミックスアップ)”という効果を知っているだろうか?


 これは異なる二つ以上の対象が交わる事により、個々が所持する能力がより高次元の存在へと変化するという現象だ。


 スポーツの世界でよく言う、好敵手(ライバル)としのぎを削ることで強くなるという感じだ。


 つまり、現実世界で起こりえるこの事象は、オンラインゲーム「闇の魔王達(ダークキングス)」でも再現されていた。


 所謂(いわゆる)、アイテムの合成や練成システムでだ。


 同種アイテムや同系統アイテムを複数個集めて同時使用することにより、より大きな力を発する現象……


 勿論、全てのアイテムに適用される訳で無いし、只単に一緒に使えば良いと言うわけでも無い。


 条件を満たし、用意されているであろう”手順(レシピ)”を踏めば……だ。



 「ちょっ、ちょっと待って、”ゲーム”ってよく解らないけど、転移の能力向上って、それってもしかして……」


 ――ほんと鋭いな、マリアベルは……ていうか、実は意外と頭脳派?


 彼女はこの世界で俺の本当の過去を知る唯一の存在だが、ともすれば寝言と思える内容を信じて、尚且つそこに考えが至る訳だしな。


 「ああ、”元の世界”に帰還できるかもしれない……ていうか、あの”女神(もど)き”に会える可能性があると言う方が近いか?」


 「ぁ……」


 蒼き竜の美姫は何故か、白く美しい顔を強張らせる。


 「それで予測される方法だが、俺は「闇の魔王達(ダークキングス)」VERSION6をクリアしてこの世界に飛ばされた。そんで、俺は今まで三人の勇者を倒し、”転移の宝珠エマージェンシー・オーブ”を三個集めている。で、俺が元々所持する自身の”存在の宝珠イグジステンス・オーブ”をあわせて全部で四個、つまりあと二個で……」


 「…………」


 ――俺の本当の目的


 俺が三百と二十五年で得た知識とアイテム、そして”勇者殺し”を生業(なりわい)にする理由を聞いたマリアベル・バラーシュ=アラベスカの顔色は、何故かいつにも増して白く見えた。


 「あと……二人の勇者を倒せば、はじめくんは……帰れるの?帰ってしまう……」


 「あくまで可能性だけどな。とはいえ、俺は魔神の魂?と混ざってたり、だから寿命があれだったりで、色々と面倒が多そうだけど……取りあえずあの”女神(もど)き”に会えれば、なんとかなるかもしれない」


 「…………」


 「てな感じで、俺の最終目標は元の世界への帰還であって、勇者を倒して転移の宝珠エマージェンシー・オーブを手に入れられれば、最悪”報酬”を反故にされても一応は”御の字”だ」


 「…………そう……なんだ」


 マリアベルが気にしているであろう、父親の裏切り行為による罪悪感を少しでも和らげてやろうと、思い切って打ち明けた俺の”真の目的話”だが、どうもマリアベルの反応は予想外だった。


 ――戸惑い?いや、どちらかというと……落胆?


 「それが、はじめくんの一番大切な……優先させることなんだ?」


 「お、おう……」


 何故だか血色の悪い少女の顔を見ながら俺は躊躇いがちに頷いた。


 「ほんとうに……本当にそれで……」


 「?」


 「だから……他に大切なことっていうか……あなたが望んだ報酬とか……あの」


 「…………っ!!」


 そこで俺は気づいた!


 モゴモゴと言いにくそうに下を向く少女の、少し朱を帯びた白い頬を見て俺は気づいたのだ!


 ――ああ、なるほど……と


 「大丈夫だって!取りあえずあの勇者が死ねば竜王国は暫くは安泰だし、もし閻竜王ダークドラゴン・ロードに命を狙われる事態になっても、暫くはオベルアイゼルかナズルミュールあたりに身を隠してやり過ごす。そういうのは慣れっこだから安心しろ、これならマリアベルも万々歳だろ?」


 「…………」


 ――ピシリッ!


 俺のその発言の直後、何故だか空気がそんな効果音を発したような気がした。


 ――あれ?


 「あの……マリアベル……さん?」


 ――それって竜王国のその後や、俺を気遣って……じゃない?


 俺は急に不安になって、()()ずと彼女に言葉をかけるが、


 「へぇ、そうなんだ……万々歳なんだ?へぇ……」


 対するマリアベルは笑顔だった……


 「うっ……あの」


 笑顔だけど……ちょっと怖い。


 「わたしのことは……」


 「え?」


 「だ、だから……わたしのことは……報酬……」


 「?」


 ――なんだ?いったい……


 そんな意味不明のマリアベルの態度に俺が戸惑っていると――


 ――っ!


 意を決したように彼女の蒼石青藍(サファイアブルー)の瞳が光った。


 「で、でも!それだと、はじめくん、報酬は貰い損ねるのよね?ね?」


 「いや、だから……報酬は……金は貰えたらで……」


 「幾ら本命の……オーブを手に入れられても!”唯一大切な”オーブを手に入れられても!”それしか”大事で無いオーブを手に入れられても……”ただ働き”みたいなものよね?ねっ!」


 蒼き竜の美姫は表情を変えてドンドンと俺に詰め寄る。


 「…………」


 ――なんだなんだ?、いったい……彼女は何が言いたいんだ?


 ――てか、ちょっと引っかかる箇所が何カ所か……


 「はじめくんが”唯一大切”に考えるオーブとかは手に入るけど、それだけでいいんだ。ふぅん、報酬は”それだけ”あれば、はじめくんはいいんだ、へぇぇ!!」


 「……」


 ――え……と……これって、報酬の百億ゼクルの件だよなぁ?


 「いや、一応、閻竜王ダークドラゴン・ロードと約束した”報酬”も貰えるように努力はするが……最悪それでも仕方が……てか、諦めがつく……」


 「っ!!」


 なにかがブチリと切れる音がしたような気がした。


 ――なんかヤバイ……


 俺の中の動物的本能が、これはヤバイと告げる!


 「…………」


 「…………」


 ――いや……てか、なんで黙る?


 ――それって凄く怖いんですけど……


 …………あっ!!


 俺はそこで改めて、今度こそ気づいた!


 俺の最も大切な事にっ!!


 ――もしや彼女は……マリアベルは!


 竜王国を残忍暴虐な勇者から救ってくれた俺に対して、それだけじゃ申し訳ないと、”ちょっとした”サービスをっ!!


 (我ながら俺は真の馬鹿だった)


 ――そうか……そうだよなっ!


 この一連の行動で、俺とマリアベルは最初の頃とは違って随分と……そう、結構な親密度……とはいかないが、信頼は得ているはずだ!


 ――だから…………うぉぉっ!


 不味い……考えると鼻血が出そうだ。


 「マ、マリアベル……大切な事は……ある!」


 俺は急遽”真剣な顔”を作って、隣で座る美少女の手を……白い手をガシリ!とテーブル上で取った。


 「あっ……」


 小さく声を漏らし、蒼き髪の美少女は俺を見上げる。


 「マリアベル、いや、ベル……すまない、俺は君に大切な事を告げていなかった」


 「…………はじめ……くん」


 見つめ合う俺と蒼き竜の美姫。


 至高の蒼を(まと)った見目麗しき竜のお姫様は、淡雪の如き儚く白い頬を彩らせて……俺を見詰める。


 「大切な……もの、だよね?……わたし、それを信じても……」


 少し震える声……


 そんな少女の恥じらいを受けて、男、いや、(おとこ)斎木(さいき) (はじめ)は力強く頷いた。


 「ああ!ある意味、故郷への帰還なんかより!三百うんちゃら年の努力よりもずうっっっっっと大切だっ!」


 「っ!」


 そして、そんな男らしい俺の応えに、美少女は見る見ると耳まで赤く染めた。


 「だから、マリアベル……いいよな?」


 「……………………………………うん」


 俺の確認に、少し長い沈黙の後で消え入りそうな声と共に小さく頷く美少女。


 ――おっ!おぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!!


 苦節、三百……いや、二十歳にして俺はっ!俺はついにっ!!


 しかも!こんな超超美少女とっ!!


 俺は勝ち組だっ!


 友達がいなくても、金が無くとも、容姿がちょっとアレでも、頭が芳しくなくても……


 ――可愛い彼女!!


 それだけで男は勝ち組なんだよぉぉっっ!!


 大興奮と共に俺は、握った手に力を込める。


 「じゃ、じゃぁ、ベル……」


 「……うん」


 「い、今からエッチを……」


 鼻息も荒く、恋人として当然の権利だと俺はそう聞いてみる。


 「……………………」


 頬を染めし乙女の蒼石青藍(サファイアブルー)の瞳は……


 ――ゴクリッ!


 まんじりと俺の顔を汚物のように見る。


 「ベル?」


 「……………………」


 無表情な、真に氷結のお姫様然とした彼女は………………


 ――って、え?


 汚物を……?


 無表情……?


 「あ、あの……ベル……マリアベルさん?」


 俺は途端に心細くなって聞き直していた。


 「ふふ………ふふふ……………………………」


 「あ、あの……ベルちゃ……」」


 「………………死んでもイヤ」


 「うっ!」


 氷雪の雪姫、蒼き竜の美姫、希なる美少女、マリアベル・バラーシュ=アラベスカ嬢は氷の微笑みでキッパリと断言したのだった。


 「…………」


 こうして俺の……


 俺の……千載一遇のチャンスは終了した。


 「う、うぅ……とにかく、今は勇者の……目前の脅威である、”榛葉(はるば) 零王主(れおす)”を倒すことに全力を挙げないと……だ」


 そして俺は泣いていた。


 「…………」


 「ティナティナの情報通りなら、アレは俺の知る勇者の例に漏れず、最悪最凶の屑だ!」


 依然冷たい視線を向けられたままの俺は、やや、八つ当たり気味にそう言ったのだった。


 「……………………さっきも……思ったのだけど、あなたってあの魔神をティナティナっ(はぁと!)て呼ぶのね……どうでも良いけど」


 ――ぶはぁっ!!


 それは、その絶対零度の視線は、決して”どうでも良い”と思っている目では無い!!


 あと、(はぁと!)なんてイメージは捏造だ!断じて無い!


 俺は更なる大ダメージを受け、目眩がした。


 「いや、今はそういう話をしている場合じゃ……」


 ――キッ!


 「本人がそう呼べって言うから呼んでるだけでありますっ!!別に他意は全く、これっぽっちもありませんでありますデスっ!!です……ですから……ごめんなさい」


 氷の美少女が圧力(プレッシャー)に、(すで)精神面(メンタル)がボロボロの俺は、必死の弁明と意味不明の謝罪、そして子犬のような媚びた瞳で少女に懇願していた。


 「はじめくん、じゃあ……ふふ」


 蒼く輝く竜の美姫はそっと桜色の唇を……口元を綻ばせた。


 ――おおっ!!赦された!!我、生涯の友を得たり!!……じゃなくて!


 「わかった!勿論!喜んで!」


 俺は少女の欲する事を察してウンウンと何度も頷いていた。


 ――そうか……そういうことか……女の子だなぁ


 「ベルちゃん!!俺は今日からマリアベルをベルちゃんと呼びますっ!!」


 「…………」


 ”焼きもち焼きさん”だなぁ!と、俺はニッコリと微笑んでみせ……


 「じゃぁ……そろそろ、この無礼な手を離して頂けるかしら?」


 しかし美姫から返ってきたのは”にべもない”態度。


 「うっ…………はい」


 ――ストライクッ!ストライクッ!ストライクッ!バッターアウト、チェンジィィーー!!


 そんな効果音が俺の空っぽの頭を木霊し、脱力した俺から白い手を抜いた蒼き竜の美姫は立ち上がる。


 「あと……その呼び方は馴れ馴れしくて不快だからやめてね」


 「……………………うぃッス」


 俺はゆっくりと項垂れたまま目尻に光るモノを輝かせて頷いたのだった。


 ――いいさ……いいんだ……今は”ツン”なんだ……”ツンツン”週間なんだ!


 ――いつか、きっと何時(いつ)の日か、”デレ”が日の目を見る時が……必ず来るっ!!


 「トンネルには出口が……」


 「?」


 「明けない夜は無いんだよぉぉっ!!」


 「っ!??」


 突然立ち上がって意味不明の言葉を叫ぶ俺に、流石のご立腹お姫様も目を丸くしていたのだった。


 第三十八話「帰還(ログアウト)の方法?」後編 END

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