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第三十七話「決戦準備」前編(改訂版)

挿絵(By みてみん)

 第三十七話「決戦準備」前編


 「とにかくだ、敵が活発に動き出した以上は俺達も手をこまねいている訳にはいかない」


 俺は三人の竜人族を前に今後の方針について話し出すが……


 「……」


 「……」


 「……」


 三人の視線は依然と魔神”希鋼鉄闘姫(レアスティアナ)”に向けられていた。


 ――あのイレギュラーな初顔合わせの後じゃ無理も無いか?



 (そもそ)も、この世界の住人には人間種と非人間種が存在する。(あくまで人間の視点で)


 それで非人間種で、ある程度以上の規模の軍を率いる支配者が所謂(いわゆる)”魔王”と呼ばれる存在で、多種の種族が存在する世界(ユクラシア)だから魔王にも色々と種類がある。


 特に最強種族と云われる竜人族の王と、それに比肩しうる悪魔人(デモニッシュ)族の王が”魔王”の代名詞として知られていた。


 そして竜人族に暗黒竜(ダーク・ドラゴン)氷雪竜フリージング・ドラゴン黄金竜(ゴールデン・ドラゴン)などを始めとする多種が存在するように悪魔人(デモニッシュ)族も多様性(バラエティー)に富んでいる。


 とりわけ、悪魔人(デモニッシュ)族は微量とは言え神族の血を継ぐ種族であることから、王は”魔神王”と呼称される事もある。


 ”魔王”と”魔神王”……多少の呼び方が違うだけで定義は同じ。


 ――”個”としてはとんでもなく強力で、”群”としては多くの部族、眷属を従えた絶対的支配者!



 「はじめくん、幾らなんでも他の魔王の眷属をこの閻竜王ダークドラゴン・ロードの領地に招き入れて何の説明も無いのはちょっと……ね?」


 話を進めようとする俺に、マリアベルが待ったをかけた。


 「そ、そうか?……えーと」


 俺は……正直、面倒臭い。


 今日の本題は別にあって、呼び寄せた魔神”希鋼鉄闘姫(レアスティアナ)”は味方で、その役割さえ説明できればそれで良いと思っていた。


 今日この場を用意したのは、当然の如く”昔話”をするためでは無いからだ。


 だから、どうしたものかと躊躇する俺の横で……


 「ちょっと、そこの……ファブッち?」


 「ファ、ファブッちだとっ!?」


 (くだん)の鋼鉄のお嬢さんは、気軽に黄金火焔竜(ゴールデン・フレイム)の色男へと声をかけていた。


 「…………」


 突然、しかも馴れ馴れしすぎる呼称で呼ばれたファブニールは困惑しきりだが、そんなのは関係無いと、希鋼鉄闘姫(レアスティアナ)は黄金の竜戦士(ドラグーン)の手に残った切っ先の失われた両刃剣(グレートソード)をジーっと見ていた。


 「な、なんだ!?私は謝罪する気は無いぞ、(そもそ)もあの状況では敵か味方か……」


 ファブニールはそれが彼女の脳天をぶっ叩いた自分に対する抗議だと受け取って反論するが……


 ――そうじゃない、そうじゃないんだよ、ファブニール!


 希鋼鉄闘姫(レアスティアナ)が何を欲しているのか。


 ショーウィンドウ越しに物欲しそうに楽器を見る少年宜しくの瞳をした彼女を見れば、俺には充分だった。


 「これ要らないかな?」


 「は?」


 そして希鋼鉄闘姫(レアスティアナ)は、黄金の竜戦士(ドラグーン)が握ったままの折れた両刃剣(グレートソード)を指さす。


 「さ、斎木(さいき)……」


 困り顔で俺に助けを求める色男。


 ――あの剣は結構な業物だろうが、ああもパッキリと折れていれば修復など不可能だろうな


 「……」


 俺はファブニールに無言のまま頷いて返す。


 「べ、別に良いが、そんな物どうす……うぉっ!?」


 俺の意向通り行動しようとしたファブニールは、言葉途中で叫んでいた。


 ――


 ていうか、俺以外の面々は目を丸くしている。


 理由は――


 ガキッ!バキャン!


 バリバリ!


 持ち主の許可が出るや否や……


 ファブニールの手から遠慮無く折れた両刃剣(グレートソード)を分捕った見目麗しい顔立ちながら表情乏しい女格闘士(クラッパー)……


 魔神、希鋼鉄闘姫(レアスティアナ)の端正な口元が信じられない程にパックリと大きく開いたかと思うと、手にした両刃剣(グレートソード)(かじ)りつき、そのまま豪快に(むさぼ)り始めたからだ。


 ガキャコ!グキャァァン!ゴキッ!バキィ!


 スクラップ置き場の破砕用重機が出す様な非常識な食事音を響かせて、


 バキャバキャ!ギギギィィ!ガコンッ!


 もぐもぐ、()()むと、まるで串焼きの肉を食すように美味しそうに食べる女。


 「……あ……あ」


 「うそ……ですわ」


 「う……うおぉ!」


 勿論、女が美味しそうに噛み砕いているのは柔らかい肉などでは無く”鋼鉄製の武器”だ。


 折れたと言っても未だ三十センチほどもある幅広な両刃剣(グレートソード)の刀身なのだ。


 「さ、斎木(さいき)ぃ、こ、これは……」


 「いや、だから……」


 涙目で()(ちら)を見る黄金の竜戦士(ドラグーン)に、俺自身は知っていた事で予測も出来た事であるが、それでも久しぶりに見る奇妙奇天烈な豪快さに、改めて呆れた俺は上手く説明できない。


 ――黙ってさえいれば美人なだけに……残念だ


 まるで昔の電子遊戯(レトロ・ゲーム)の”パックなんちゃら”の如き大口に、ギャグ漫画みたいなギザギザの歯を出現させ、豹変して(かじ)りつく女魔神、希鋼鉄闘姫(レアスティアナ)


 ――多種族に比べても奇異な特殊能力を保有する悪魔人族(デモニッシュ)は、こういう奇天烈な一面こそが愛らしいとも……言えなくもな……


 ガキャコ!グキャァァン!ゴキッ!バキィ…………モグモグ


 「…………」


 ――言えないな、うん、只の色物だ。しっかりしろ、俺っ!


 俺は、”美人ならついつい許容範囲(ストライクゾーン)が広大になりがちな自分”を(たしな)めていた。


 「……」


 「……」


 「……」


 ――とにかく説明しろよっ!!


 と、心の声が聞こえてきそうな三人の竜人族が向ける視線の先にいる俺は……


 「ティナティ……いや、”希鋼鉄闘姫(レアスティアナ)”はオベルアイゼル公国の北に本拠を構えていた魔神王、”鋼鉄喰らいの魔神王(ステル・ベイン)”の眷属でだな……」


 本意では無いが、諦めて説明を始めた。


 「”鋼鉄喰らいの魔神王(ステル・ベイン)”は金属を食する……体内に内包する事であらゆる金属を統べる、ええと……つまり、ガシガシ食べて硬くなったり、超超硬くなったりする悪魔人(デモニッシュ)で、この娘もそんな感じ?」


 「……」


 「……」


 「……」


 三人が俺に向ける視線は説明前とあまり変わらない。


 「で、とにかくだ。敵が活発に動き出した以上は()(ちら)も手をこまねいている訳にはいかな……」


 「って、終わりなのぉぉっ!?」


 駄話を切り上げ、何食わぬ顔で本題に戻った俺に、蒼き竜の美姫、マリアベル嬢が抜群のノリでツッコんできた。


 「もうちょっと、ほら?なんかあるでしょう、ね?ね?」


 そして彼女には珍しく、しつこく食い下がってきたのだった。


 「……」


 ――いや、面倒臭いなぁぁ


 第三十七話「決戦準備」前編 END

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