第三十五話「敵かな?味方かな?」後編(改訂版)
第三十五話「敵かな?味方かな?」後編
「まさか……」
ピリリと張り詰める空気。
蒼き竜の美姫、蛇竜姫、そして黄金火焔竜の剣士……
三人が三人ともに、お互いを警戒した視線で一瞥していた。
「ま、まぁそう言う事だが……今、ここに居る皆はそうじゃ無い、無いからそんな険悪な空気出すなって!」
――そうそう、冗談じゃ無い。こんな規格外共に”我が家”で押っ始められたらシャレじゃ済まないし!
「此所に居る者達は大丈夫だ、だから集まって貰った」
俺はそう言い直して、そしてグルリと三人に頷いて見せた。
「抑も密偵には目星をつけて、既に身柄を抑えてある」
そして、そう付け足した俺に、ファブニールとツェツィーリエは感心した顔で頷くが、マリアベルだけが少々不満な顔で俺を見ていた。
「内通者を?でも……はじめくん、貴方どこでそんな情報を?」
彼女は他の二人と違い、今回の騒動の終始に置いて共に行動していたから、そういう疑問が浮かんだのだろう。
「俺はこれでも”勇者殺し”だからな、元々そっち方面に”独自”の情報網があるんだよ」
あの呪術導士の一件以来、マリアベルには隠し事をしないと言った(正確にはそこまで厳密には明言していないけど)
だから俺に対する不満も在るのだろうが……
彼女の疑問に俺はそういう風に誤魔化した。
……と言うか、嘘は言っていないはずだ。
「へぇ、独自の……ね、”独りぼっち”が大好きな、はじめくんがねぇ」
「……うっ!」
――そこは嘘でも”孤高を愛する”とか言って欲しい
マリアベルは、一応納得はしたようだが……
そこはかとなく冷たい瞳で俺を見ていた。
「……うう」
――気まずい……なぁ
コンコン!
「っ!?」
そんな空気の中、広間の正面大扉にノック音が響いた。
「トトル=ライヒテントリットであります!ご命令通り”容疑者”を拘束して連れて参りました!」
「おぉ!ご苦労、入れ!直ぐ入れ!!」
――ナイス!トナミのトトルさんっ!!
俺は絶妙なタイミングで流れ着いた助け船に飛び乗っていた。
「はじめくん、貴方ってひとは……っ!?」
そんな情けない俺をジト目で見ていた蒼き竜の美少女は、抗議しようとした途中で言葉を無くす。
――それは……
ギィィ!と大扉を開けて入室してきた犬頭人隊、筆頭兵士長のトトル=ライヒテントリットが連れてきた者を見てだった。
「四代目、ご命令通りこの火狢殿を拘束して尋問致しましたところ、密偵である事は認めましたが、雇い主の名は黙秘を貫いております!」
敬礼しながら筆頭兵士長、トトル=ライヒテントリットは俺に報告する。
「……そんな」
マリアベルがそういう顔で混乱するのも無理も無い。
筆頭兵士長のトトル=ライヒテントリットが部下二人を従え、そしてその間に荒縄でグルグル巻きの状態で座らされた下手人は……
「……」
俺の”使い魔”……
ついこの間、マリアベルの助言によって、俺の使い魔にした火狢であったからだ。
「うそ……だって……」
驚きのあまり席を立ち上がり、入り口付近で兵士達により縛られて座る化狸を呆然と見るマリアベルは、その後の言葉が出てこない。
「そうか……で、証拠は?」
俺は取りあえずトトルに先を確認する。
「はい、ここ数日の火狢殿の行動を密かに監視しておりましたが、その間に二度、外部の者と接触して情報を流しておりました。証拠として取り上げた密書には我らの内情がつぶさに……」
「……」
トトルの部下から密書とやらを受け取って、俺はざっと目を通す。
「宛名は……無いようだな」
「はい、残念ながら……それを受け取りに来た諜報員らしき者もあと一歩で取り逃がしました」
申し訳なさそうに頭を下げるトトル。
犬っぽい三角耳を両方ともペタリと伏せさせて、巻いた尻尾もダラリと下がっていた。
「相手も木偶じゃないからな、物事はそこまで上手くはいかないものだ……ご苦労」
急な命令を指示した俺に、最低限の仕事は熟した部下を労ってから、固まったままの少女に視線を移す。
「あ、あと、マリアベルも気にするなよ、お前が俺に助言をしてくれたのは……」
「どうしてっ!”使い魔の儀式”はちゃんと!だって!?」
どうしても納得のいかないお嬢様。
それも仕方無いか……
”使い魔”の使役を進めたのはマリアベルで、俺はそれを受けて儀式を行い、この火狢を得た訳だから。
「儀式に使った”召喚魔法具”の出所が怪しいな」
そこまで黙って流れを観察していたファブニールが意見を言う。
「そうですわね……どういった方法で、”いつ”、”だれが”、召喚魔法具をどうやってすり替えたのかは解りませんが、それしかないですわね」
ツェツィーリエもその意見に続く。
「…………」
そしてマリアベルは黙って視線を落とした。
自分の失態だと……
そう言う顔だが、それはちょっと違うだろう。
「俺もそう思うが、問題は方法より”誰が”だろうな」
そう、マリアベルに”勇者殺し”へ”使い魔”を提案するよう進めた……助言した人物がいる。
「誰?そんなのは”勇者”しかいないだろう?」
俺の言った”誰”を履き違え、”変な事を言う”と、ファブニールが俺の顔を不思議そうに見る。
「……」
――言うべきか、言わざるべきか……
いや、現時点で俺の推理を披露するつもりは無い!
だが俺には別の思惑があった。
そう、捕らえた化狸を態々とこの場に引き出した意味。
「……」
俺は面々の顔を順に眺めて暫し考える……フリをする。
そして如何にも芝居がかった動作で最後にマリアベルと視線を絡めてから俺は……
「あくまで推測の域を出ないが、依頼主は多分……」
「よくぞ見破ったでガスねぇ!!いや見破ったな!アッシは確かにある御方の命を受けた密偵!本来のアッシはレベル1の火狢なんて弱々じゃ無いし、”でガス”なんて間抜けな語尾も使わない、堂々としたレベル2の火狢でヤンスよぉっ!」
「……」
――引っかかった……いとも容易く、馬鹿正直に……てか、ガスもヤンスも間抜けさはどっこいだ
「はっはっはっ驚いたでヤンスか?どうでヤンス、斎木 創ぇぇっ!!」
――ブワァァ!!
化狸の小っこい獣は叫び、声と共に全身が炎に包まれる!
「……」
俺の大根な演技にまんまと引っかかった俺の”使い魔”改め”密偵狸”は、もう俺の思いのまま、まんまと自ら名乗り出て、そして敵意を露わに跳びかかってきたのだった!
第三十五話「敵かな?味方かな?」後編 END