第三十三話「斎木 創の考える上出来」後編(改訂版)
第三十三話「斎木 創の考える上出来」後編
バリッ!バリバリバリィィーー!!
突いた箇所から一気に明滅する光と熱が広がって――
「……」
それは瞬く間に対象者の全身に達する!
――電撃伝導突き!
この技は”短剣スキル”にある”閃光突き”というその名の通り一瞬で間合いを詰める最速の突きに、魔法スキル”雷属性UP”で強化した魔法”雷撃”を組み合わせた突きだ。
敵に突き立った刃から大電流が流れ、それは対象の身体を伝って全身に行き渡る。
俺の所持する雷系統の魔法と短剣スキルを組み合わせたオリジナルスキル!
「う……はぅ……」
――そして……
そして、この技の最も優れている点は、範囲魔法の雷撃と同じ効果を持ちながらも無差別では無く、対象以外には影響を与えないと言うこと。
「……」
――解るか?
”鉄鎖枷”に接した短剣の切っ先は蛇竜姫の体内を伝導して同種の異物だけ破壊する!
「くっ……はぅ……」
こんな感じで、体内に流し込まれる大電流に黒瑪瑙の瞳を揺らせ白い裸身を痙攣させるツェツィーリエだが、違和感はあっても実害は無いはずだ。
「……」
俺の”電撃伝導突き”はあくまでも”そういう技”であり、
今回の”対象”は無数の”鉄鎖枷”であるからだ!
「くぅ……はぅ……」
――パキィ……パキィィン!
「ひとつ……ふたつ……」
媒体である短剣の切っ先で捕らえた”鉄鎖枷”を起点に、他所へ繋いで軒並み同時破壊するっ!
――バキンッ!バキンッ!バキンッ!
伽藍洞の硝子細工を叩き壊わしたかの如き渇いた破裂音が幾度と響き、
「う……あ……ぁぁ」
その度に黒い巻き髪が揺れて、白い裸身から光りが外へ弾け出る!
「九つ……十、じゅういちっ!」
キィィーーーーーーーーーーーーン
――そして、
最後に一際大きな光りが弾け、それが少女の小柄な身体から霧散した途端に……
ドサリッ!
長いクセのある黒い巻き髪とお揃いの黒瑪瑙の瞳が特徴的なお姫様は、その場へ膝から崩れ落ちていた。
「……はぁはぁ……はぁ……」
白い肩を上下に息を出し入れする少女だが、その呼吸は先程までと比べて明らかに落ち着いてきている。
「お目覚めか、茨姫?」
彼女の正面に立つ俺は、一糸も纏わない、あられもない姿で膝立ちになった美少女の前で片膝を折り、自らの上着を脱いで静かに波打つ白い肩に掛けてやった。
「にん……げ……?」
俺の好意を珍しく素直に受け入れた美少女は、前開きである上着の左右を魅力的な大きな胸の前で引き寄せて合わせ、そこを小さく白い両手の指先でギュッと握って隠す。
「……」
――あぁ、そういえば……惜しいことをしたなぁ
その光景に俺は今更ながら思った。
「安心しろよ……必死だったから殆ど見てない」
そして意外な恥じらいを見せる蛇竜姫に、俺は気休めかも知れないがそう声をかける。
「……」
「……」
膝立ちに崩れたままの暗黒の蛇姫の前で、目線を同じ高さにするように膝を折った俺。
そんな斎木 創を探るような黒瑪瑙の双瞳で暫し見詰めていた蛇竜の姫様は、やがて戸惑いがちに朱い唇をそっと開いた。
「な……ぜ……なの?……どうして……私を……」
「……」
――だろうな……疑問はやっぱり、それだろう
俺自身かなり無茶をした自覚はあるし、蛇竜姫にしてみれば敵である斎木 創の行動は大いに理解出来ない事だろう。
で、理由は勿論、我が姫……”蒼き竜の美姫”の為であったのだが……
――
ボロボロで憔悴しきった小さいお嬢ちゃん。
最初に会った時の高慢ちきなお姫様という面影が微塵も無い姿。
俺達から見ればそれも自業自得なのかもしれないが……
今はそんな事より!
「どうして……私を……」
「ツェツィーリエ、俺が出来るのはな……」
俺は少女の震える言葉をかき消すように上書きし、そっと優しく手を翳す。
「……治癒呪文」
そして回復呪文を唱える俺。
「っ!?」
更なる驚きで黒瑪瑙の瞳の、二つの宝石を丸く見開く美少女。
シュワァワワァーー
一瞬、少女の小柄な全身に光が灯ってから、それは大気に溶けて消えた。
「小魔法一回……これで打ち止めだ」
俺は一人そう呟くとそのまま――
ドサリッ!
「はじめくんっ!!」
「主ぃぃ!」
後ろにひっくり返った俺の耳に、駆けつけたマリアベルと化狸の声が聞こえていた。
――ああ、これは……
シチュエーション的に、合法に思いっきりマリアベルを抱きしめられる好機だったが……
「……」
俺はもう立ち上がれそうも無い。
――無情……だ
――
「に、にんげん……なぜ?……どうして?」
そんな泥人形の俺に蛇竜のお姫様は懲りずに問いかけ続けていた。
――俺は……そうだ……な
大地に仰向けに転がった、もうなんの役にも立つ事も無いだろう”出し殻”は……
「なぜなの……」
「……」
いつの間にやら白みつつある夜空を見上げ、
自らが課した”大言壮語”の総仕上げとして、
「お前は……自由だ。ツェツィーリエ」
締めの言葉を発するんだ。
「ぁ……ぁぁ……」
長いクセのある黒い巻き髪とお揃いの黒瑪瑙の瞳が特徴的で、少しばかり生意気な顔立ちのお嬢様は……
「さい……き……はじめ……あ……あぅ……う……うぅ……」
終始、支配者たり得んと誇っていた恐ろしい双瞳から、
カラドボルグ要塞の蛇竜姫という外聞もまるで無く、
「う……うぅ……ひっく……」
ただ”ぽろぽろ”としおらしい滴を零していた。
「おいおい、柄じゃないなぁ」
初めて会った時には想像も出来なかった、意地悪少女の弱々しい涙声を聞きながら俺は、疲れ果てて立ち上がることさえ億劫な頭で考える。
――”人間”から”斎木 創”……ね
喰われて、上下にスッパリ千切られて、落下して潰れ、死んで、走って、転んで、怪我して、こんなヘロヘロ……
その代償が、得たものが……
”斎木 創”という呼び方ひとつ。
「…………」
――
「はじめくん!無事なの?怪我とか……」
「うぉぉぉっ主様ぁぁ!」
直ぐ近くまで駆け寄って来たであろう、一人と一匹の声を聞きながら、
それでも俺は、実に満足げに笑っていた。
「まぁな、俺としては上出来だ」
第三十三話「斎木 創の考える上出来」後編 END