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第三十二話「荊牢獄破壊(ジェイル・ブレイク)」前編(改訂版)

挿絵(By みてみん)

 第三十二話「荊牢獄破壊(ジェイル・ブレイク)」前編


 「この……バカはじめぇ」


 「……」


 涙目で睨んでくる美少女に俺はフッと笑う。


 「援護は頼む、けど無理はするなよ。マリアベル(おまえ)の身に何かあったら元も子もないからな」


 「っ!?」


 そして美少女の頬はポッと朱に染まり……


 「そ、そんな!……いまさら……う、うまいこと言ったって……………………ばか」


 透き通る白氷の頬を羞恥に染める蒼髪(あおがみ)の美少女は、結構チョロかった。


 ――


 「ギシャァァァァッッッッーーーー!!」


 「あ、(あるじ)ぃっ!もう無理でガスぅよほぉっーー!」


 再び炎塊となった我が火狢(しもべ)はチョロチョロと大蛇の顔周りを跳ね周り、陽動作戦に奮戦していたがどうやらそれも限界のようだ。


 ――そういえばこんな状況だったよな……


 命懸けの戦いの最中。


 「めちゃっ!めっちゃヤバイでガス!怖いでガスぅぅ!あるじぃぃーー!!」


 「……」


 ――くそ、珍しく良い雰囲気だったのに……ちっ!


 「懐に飛び込むっ!マリアベル、援護できる時間は?」


 俺は後ろ髪を引かれながらも再び戦闘態勢に入った。


 「さ、三分……よ」


 迫る敵に短剣(ダガー)、”聖者の刻印刀(スティグマーダー)”を構え、改めて問う俺に――


 白い肌を多量の水滴に(まみ)れさせた美少女はそう答えた。


 「マリアベル…………俺、さっきなんて言った?」


 「う……あの……一分……です」


 小さく乱れた呼吸を繰り返す美少女は、ばつが悪そうにそう答え直す。


 ――たく、この無茶なお嬢様は……


 俺は今度こそ頷くと、前方に向けて叫んだ。


 「化狸ぃぃ!マリアベルが攻撃しやすいようにそのまま続けろっ!」


 「む、無理でガスっ!ひ、非道い扱いでガスよほぉぉーー!!」


 「ギシャァァァァッッッッーー!!」


 「うひゃっ!」


 「グオォォォォッ!!」


 「お、おたすけぇぇっ!!」


 ――


 「………………うむ、重畳(ちょうじょう)


 そんな化狸の言い分はキッパリ無視して、参戦する寸前の美少女に声をかける。


 「俺が蛇竜姫(ツェツィーリエ)の懐に飛び込めるように蛇竜(ヤツ)の意識を引きつけてくれ……だが危なくなったら直ぐ離脱だ、後は俺に任せるんだ」


 「わかったわ……わかったけど……」


 「じゃ、頼んだ」


 「……うん」


 心配そうな瞳の少女に俺は笑いかけ、ポンッと背中を軽く叩いて送り出す。


 ――


 「よし、俺が成すべき事は……」


 俺の魔力残量から計算して、

 最大魔法攻撃が一回、小規模魔法が一回……


 そしてスキルも三回が限度だろう。


 「……」


 一瞬だけ(まぶた)を閉じ、俺は五感を研ぎ澄まし、魔力の不自然な流れを探る。


 ――

 ―


 ――感じる


 ――蛇竜(ナーガ)の体内……


 盗賊スキル”宝物探知(トレジャー・サーチ)


 半径数百メートル以内にある宝物……

 価値にして十万ゼクル以上の金品、希少道具(レアアイテム)などを察知する能力だ。


 ――”其処等(そこいら)”に在るはずだ!


 俺は残り少ないスキルの一回を惜しげも無く使用する。


 ――在るはずだ……蛇竜姫(かのじょ)を支配する魔道具がっ!


 「……」


 ――ひとつ……ふたつ……中心に高反応、そして無数に点在する……


 「……」


 ――


 俺は静かに(まぶた)を上げ、そして目標を定めた愛用の”聖者の刻印刀(スティグマーダー)”を前面に構えてやや腰を落とす。


 ――戦況は……


 「ギシャァァァァッッッッーー!!」


 マリアベルが振るう炎焔(かえん)槍が蛇竜(ナーガ)の尾を薙ぎ払い、大蛇は威嚇に鎌首を高く(もた)げていた。


 ――今だっ!


 好機!!俺は一気に大地を蹴るっ!


 ザシュ!!


 俺に蹴られた地面は軽く(えぐ)れて砂埃を上げ、


 シュドォォーー


 俺の周りの景色は一気に後方へ流れ飛んだ。


 ――短剣(ダガー)スキル”閃光突き(スティンガー)”!


 ”短剣(ダガー)スキル”にある、その名の通り一瞬で間合いを詰める最速の突き。


 ――届け!


 前方で美少女と化狸に苛立っている暗黒蛇竜(ナーガ)に向かい、一筋の黒い矢となる俺!!


 「ギシャァァァァッッッッーー!!」


 当然、蛇竜(ナーガ)も急速に接近する殺気に反応する。


 鎌首を再び低く下げ、迎撃態勢を整えようと動く。


 ――届け!……あと……数メートル


 恐ろしく強大な暗黒蛇竜(ナーガ)の懐へと、斎木(さいき) (はじめ)こと、”矮小なる(チンケな)刃”は突き進む!!


 「グゥガァァッ!!」


 ――進むっ!


 「グルルゥゥ!!」


 ――進……


 「っ!?」


 闇塊の如き頭部には漆黒以外の部分が二点あった。


 それは怒りに燃える赤き灼熱の双眼。


 だが、俺が到達しようとした直前に!


 三点目の赤が現れる!!


 「っ!?」


 暗黒面に大きく亀裂が走り、横一線に禍々しく広がった赤き奈落!!


 「はじめくんっ!!」


 「うぉっ!不味いデスヨほぉぉ(あるじ)ぃぃ!」


 ――思い出したくも無い……


 裂けた赤き亀裂、竜の口内には、俺を散々に食い散らかした幾重もの獰猛な牙が……


 鋭利な凶器の密林が生い茂る!!


 「グルゥゥッ!!」


 だが、真の脅威は”竜牙”では無いっ!!


 それはもっと最悪。


 有り余る絶望。


 ゴォォォォォーー


 赤き奈落のその奥からジワリジワリと()り上がって来る、煮えたぎる火焔球……


 ――最強の竜族にして最大、最凶の破壊砲アルティメット・ウェポン、”竜の咆哮弾(ドラゴン・ブレス)”だっ!!


 俺は蛇竜(ナーガ)の懐深くまであと数メートルという位置まで突進した状態で……


 「ちぃぃっ!」


 咄嗟に片手の指先を地面に着けていた。


 ズッ……ザァァァーーーー!!


 瞬く間に地面との摩擦で俺の左手は砂埃を上げ、

 同時に手の皮が焼けてズル剥け、削られてゆく……


 「ぐっ、ぐぅぅ……」


 その痛さたるや……


 大の大人の男が本泣きするほどだ!


 ――い、(いて)ぇぇぇっ!!


 考えてもみてくれ……


 指先の腹を五指とも金属鑢(きんぞくやすり)でゴッソリだ!


 ”大根おろし”状態だ!



 「避けてぇ!!はじめくんっ!」


 ズシャァァーー


 水上を高速で移動していた小舟が、片方のオールをいきなり水中に突っ込んだようなモノだから……


 ドサァァ!


 俺は当然、左側に大きく抵抗を受けクルリと一回転、背後を向けさせられたかと思うとそのまま膝ごと崩れて勢いのまま右側へ……


 ゴロゴロゴロ…………


派手に砂埃を巻き上げて転がり続けていた。


 ――避けてますっ!ベルちゃん、避けたお陰でこの為体(ていたらく)ですがなぁぁーー!!


 ゴゴォォォォーーーーーーーーッッ!!


 ――っ!!


 直後に暗黒蛇竜(ナーガ)が大きく開いた(アギト)から放たれし、超絶破壊光線が……僅かに左側の大地を”えげつなく”(えぐ)り溶かしながら飛んで行ったのだっ!!


 ――た、たすか……


 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロッーー!!


 「ぐはっ!」

 「うぎゃっ!」

 「がっ!!」


 ――舌!?舌噛んだっ!!うぐはぁっ!


 クラッシュしてコースから飛びだした”ミニ四駆”?

 素人が力加減を間違えて明後日の方向へ飛び出すビリヤードの手玉?


 兎にも角にも、散々な災難に遭遇している俺だが……


 ゴゴォォォォーーーーーーーーッッ!!


 それでも、あの暗黒の轟炎に晒される災難よりは遙かにマシだろう。


 「がは……はぁはぁ……」



 最強種族の中でも選ばれし者が、死と引き換えに僅かの間だけ”神代の能力”を具現化させる魔竜化(ドラグフォルゼ)


 地上最強種族の原初が姿で放たれる切り札の一撃。


 ――”竜の咆哮弾(ドラゴン・ブレス)


 それに五体満足で耐えうる存在など例え”神族”を計算に入れたとしても……皆無だろう。


 ――


 一瞬、目前から一切の光が無くなる程の闇、闇、闇……


 暗黒蛇竜(ナーガ)の息吹が大気と大地を侵食する黒い轟炎となって、放たれた方角を灰燼の野と化していた。


 「ぐ、くぅ……」


 俺は砂埃に塗れながら大地に転がり、それを目の当たりにしていたが……


 「い、いたい……超痛い」


 やがてズル剥けた左手の平をそのままに、ヨロヨロと立ち上がった。


 「…………」


 俺が転がり着いた場所は、暗黒蛇竜(ナーガ)の正面からやや右に()れた位置。

 数メートル距離を置いた場所だ。


 ――ちぃっ!もうちょっとで懐に入れたの……くっ、やっぱ痛い……


 痛みによる泣きべそ、肩で息をする俺に……


 「グルゥゥゥゥ……」


 鎌首をゆっくりと向けた蟒蛇(うわばみ)の赤い双眼がヌラリと鈍く光って、嘲笑うかの様に細められる。


 「やっぱり……魔竜化(ドラグフォルゼ)とやらをしてても性格あまり良くないなぁ、ツェツィーリエ」


 「グルルルルゥゥ」


 ――いや、軽口だ


 この時にも”瀕死を繰り返している”だろう彼女に意識は殆ど無いだろう。


 「…………」


 だが、そしてそんな愚痴が思わず出るほどに……俺は窮地だった。


 第三十二話「荊牢獄破壊(ジェイル・ブレイク)」前編 END

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