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第三十話「”斎木 創(バカなおとこ)”の戦い方」前編(改訂版)

挿絵(By みてみん)

 第三十話「”斎木 創(バカなおとこ)”の戦い方」前編


 バキンッ!バキッ!バキィィ!!


 「ぐはっ……」


 生きたまま噛み砕かれ続ける俺の体は、大蛇の頭ごと左右に大きく振られながら上昇してゆく。


 ――ミシッ……ミシシッ……


 肩口から腰まで縦に裂けた胴体は、メリメリと軋みながら剥がれ……


 そこに大きく頭を振る蛇竜(ナーガ)の遠心力も合わさって、俺の体には無数の亀裂が入っていた。


 「ぐっ……ふぉっ!……がはぁっ!」


 ――い、生きたまま喰われるってこんなか……んじ……か……


 肩口から、右横腹から……

 入った亀裂からその度にドバドバと血が溢れ、俺の苦痛は最大限に達していた。


 「が……はっ!」


 そんな中、俺は考える……


 その状態でも、その状態だからこそ考える。


 焼けるほどの激痛が絶えること無く刻まれ続ける体で……


 全身が悲鳴を上げ、脳に達する痛覚伝達の大混雑(ラッシュ)に焼き切れる寸前の脳味噌で……


 ――このまま喰われて消化された場合、俺は生き返れないのでは?


 と……


 ――俺の蘇生スキル……”再挑戦権獲得(アイルビーバック)”はどの程度本体が残っていれば大丈夫なんだ?


 試したことは無い。


 俺は過去に何度か死んだが……遺体を綺麗さっぱり失ったことは無い。


 「グギャァァァーーーー!!」


 「がはっ!ぐぅぅ……」


 そうしている間にも蛇は噛み砕き、咽を唸らせる。


 ――と、兎に角……一旦離れないとっ!


 「ぐほぁっ!」


 俺は血の泡を吐きながらも、ガッシリと両手で蛇の顔面を掴んで……


 ――こ、この状態で自殺行為だが……今更だ!


 「雷撃(スパーク)ぅっ!!」


 バリッバリバリバリィィッ!!


 範囲系攻撃魔法の雷撃(スパーク)を超至近距離から……というか、(まと)と一体になった状態で放つ!


 「ぐっはぁぁぁーー!!」


 ――焼けるっ!皮膚が……(ただ)れて剥がれ落ちるっ!


 明滅する光と灼熱に、目標物と不本意ながら一蓮托生状態な俺は、当然の如く巻き込まれて自身の放った電撃に身を焼かれて痙攣する。


 「が……は……」


 そしてボロボロの体の表面が更に焼け焦げて見るも無惨な俺は……


 「グルルルルゥゥ」


 決死の覚悟も実らず、相変わらず蛇竜(ナーガ)に噛まれたままで、ガックリと頭を力なく項垂れていた。


 「グギャァァァーーーー!」


 「…………」


 ――虎の子の電撃呪文、全然効果無し……


 というか、”斎木 創(ごちそう)”が”生の躍り食い”から”炙り焼き肉(ロースト・ハジメ)”になっただけ。


 ――な、なんて……いう、ま、魔法……抵抗値……だ


 このままでは……

 もう一度やる……か?


 ――いや、こ、この先の展開を……考え……る……と


 俺の立てた無謀な作戦から逆算しても、もう無駄な魔力を消費する訳にはいかない。

 そもそも通用しないわけだし、これ以上は魔力の浪費でしか無い。


 これでは俺は、マリアベルに対して”戦闘時の消費魔力の配分考えているのか?”とか、

 ”素人戦闘術”だとか、とても言えないだろう。


 「……」


 そして何よりも……俺の意識はかなりヤバイ……


 終始、激痛で痙攣していた四肢の感覚が乏しくなり、半ば喰われて喪失した内臓類に感じていた焼けるような痛みよりも、唯々……腹部の空虚な感じが僅かに伝わるのみになってゆく。


 「や……ばい……な……」


 ガキィィンッ!!


 「うがっ!」


 容赦の無い追い打ち!


 蛇の上下の顎は俺の体を噛み砕き、俺は握り潰された水風船のように口から血の噴水をピュッと一度だけ断末魔の印として上げて……


 ――俺は二つに分離(わか)れた


 「…………」


 霞む視界に映るのは、グチャグチャに粉砕され呑み込まれる俺の下半身。


 それが急激に小さくなっていくのを眺めていた。


 「……」


 「……」


 「……らっか?……落下……してるな……」


 上半身だけになった俺は未だ残る意識の欠片と共に、天地が目まぐるしく入れ替わる視界で錐揉(きりも)み急降下していた。


 バサ!バサ!バサ!バサ!


 ブォォォォーー


 強風に煽られる旗の如く翻弄され、強烈なドライヤーを両耳元に当てられた様な轟音に見舞われながら、俺の視界はグルグル、グルグル、グルグル廻る……


 「…………」


 ――き……気持ち悪い……


 程なく俺は死ぬだろう。


 この状態では……

 自身で天地を判別できない、風に翻弄されるだけの俺が地面に張り付く時にその瞬間は訪れる。


 それが前面なのか後背なのか……潰れ方を選べない。


 だが……


 だが、俺は……


 ――見つけないと……俺は見つけない……と


 「……」


 地上にキラリと小さな光り。


 「う……ぐっ……くっ……」


 殆ど無い意識。


 「ぐはっ……もう……ちょい……左……」


 ほぼ動かない関節を軋ませて俺は右手を伸ばし……余計に風を受ける。


 薄れた意識で、最早、欠損(エラー)だらけの脳味噌から”只一つ”の記憶を読み込んで……


 ブワッ!


 風圧に潰れた眼球で落下地点の場所を探る……


 「……」


 既に死んだ右手……だめだこれ以上は。


 だが諦めない。


 ――俺ほど死と馴れ合った男は居ないだろう


 「っ!」


 下唇を噛み千切り、俺は壊れた右手の先……その指を僅かに伸ばす。


 ――俺ほど死の間際になにかを成そうとする男は皆無だろう


 グラリ!


 途端に俺のボロ雑巾の如き上半身は左に傾き、そして加速する。


 人は死ねば終わりだ。


 それ故に死に際にて次の段取りをする必要が無い。


 「……っ……っ」


 痛みと……死へ向かう虚無感……俺は脳さえ破壊され、殆ど骸の状態で唯々……苦悶の涙を流して残った血反吐を絞り出す。


 「……っ」


 そこまでして……そうまでして……指をグリグリと足掻かせ、落下を微調整する。


 俺にとって死は安息では無い。


 少なくとも、俺にはその後にやるべき事があるのだから……


 ブォォォォォォーーーー


 落下するボロ雑巾は、微妙に意図的に最初の落下予定地点から逸れながら……


 ――安息の無い死出の旅立ちは……地獄の苦しみだろう……か?


 ブォォォォォォーーーー


 迫る地面と死……


 残念なことに、今回俺はその直前まで意識の残りカスを所持するようだ。


 ブォォォォォォーーーーーーーー


 ――マリ……アベル……



 ドシャァァァァァァァァッッーーーー!!


 そして男の身体(からだ)は地面にベッタリと張り付いて……


 何だか解らない汚れた液体のように……


 床の染みになった。


 第三十話「”斎木 創(バカなおとこ)”の戦い方」前編 END

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