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第二十八話「だから俺は嘘を吐く」後編(改訂版)

挿絵(By みてみん)

 第二十八話「だから俺は嘘を()く」後編


 ――魔竜化(ドラグフォルゼ)した蛇竜姫(ツェツィーリエ)は、実は何者かに呪いで縛られ戦闘を強要されている


 自分達が生きるか死ぬかの緊急事態で他の話を、それもその生殺与奪を握る脅威相手の心配など……とてもする暇など無い!


 そういう顔で冷たい視線を向ける蒼き竜の美姫に、俺は構わず話を続けた。


 「竜人種、蛇竜(ナーガ)族の超回復能力を利用する形で”荊姫の剣(ドルンレイデン)”っていう呪いの剣を使い”瀕死の状態”を維持し続けているんだ……」


 「……」


 氷雪の竜姫(マリアベル)が誇る蒼石青藍(サファイアブルー)の二つの宝石は冷たい光りのまま。


 「わかるか?つまりツェツィーリエは生殺しを続けられた状態で……」


 ――っ!?


 そこまで話したところで、俺の胸にゴツンと拳を当てる目前の美少女。


 「マリ……」


 「そんなこと……いま聞いてない。……現在(いま)は脱出を……」


 自身が始めた火急の話を”こんな話題”で遮られたお姫様はご機嫌斜めだった。


 「けど、これも大事な……」


 この非常時に、自分達の身が危機的な状況で、


 ”ツェツィーリエ(てき)”の心配なんてものをする馬鹿な男に苛立っている様にも見える。


 「わかるでしょ?すぐに逃げないと私達が……」


 「わかるけど……まだ、なんとかなるかも知れないだろ?な?」


 俺は確信犯だ。


 確信犯故に”こんな話”を続ける。


 「わかってないじゃないっ!!私は魔力がもう殆ど無い!スキルだってあと二回くらいしか使えないのよっ!」


 遂に苛立ちが怒りへ移行した少女は、俺の胸に当てがっていた拳を開いて、今度はそのままの位置、俺の胸元の服をギュッと鷲掴んで捻り上げる!


 「くっ……かはっ」


 引っ張られて突っ張った襟ぐりに、俺は少し苦しくなって(むせ)た。


 「今なら!さっきと同じように”戦乙女の投擲槍ヴァルキリズ・ジャベリン”で相手を怯ませて、その隙に私は”飛龍歩(ドラグ・ブースト)”で、はじめくんは”閃光突き(スティンガー)”で距離を取る事が出来るっ!それで、そのまま……」


 俺の胸ぐらを掴む白い手が二本になり、更に締め上げながら必死に訴える少女。


 「くはっ……マリ……ちょっと苦し……」


 「そのまま!……だから、そのま……ま……」


 俺の瞳に映る氷雪の竜姫(マリアベル)の二つの蒼石青藍(サファイアブルー)は波紋が広がる湖水の水面(みなも)のように……


 揺れて滲んでいた。


 「…………」


 マリアベルとツェツィーリエは確かに仲が良好には見えなかった。


 それでも同族、従姉妹(いとこ)同士……


 いや、(そもそ)も新参の俺なんかには解るはずもない複雑な想いがあるのだろう。


 「そのまま離脱して……後は……」


 暗く沈む蒼石青藍(サファイアブルー)を見ていると、それだけでマリアベルの葛藤がよく分かる。


 「だから、はじめくん……」


 そうまでしての、マリアベルの決意……


 だが、俺は……


 ――”い、いたい……く、くるしい……もう……もう……こ、ころし……て……”


 「…………」


 俺の脳裏には、あの時、俺の感覚だけが捉えただろう、蛇竜姫(ツェツィーリエ)の姿が浮かんでいた。


 「どうして?あなたが躊躇する必要無いわ!もともと……もともと今回は偵察だけのはずだったし、私達がツェツィーリエを倒す必要なんて無いっ!」


 ――それはそうだ


 一旦退いて、竜王国の軍に討伐させるのが道理だろう。


 「だいたい!魔竜化(ドラグフォルゼ)した”蛇竜姫(あのこ)”なんて、私達にはどうしようもないでしょっ!!」


 ――(まさ)しく……


 ――個人でどうこう出来るレベルの怪物ではないな


 「…………」


 けど……


 ――荊姫の剣(ドルンレイデン)は呪いの剣だ


 対象の魔力を吸収し、その力を(もっ)て”(いばら)”の拘束で宿主を傷つけ続ける。


 だから相手が強力な魔力を保持するなら保持するほどその呪力は強大になる。


 今回、媒体は竜人族でも王族、”蛇竜姫(ナーガ・ロード)”たるツェツィーリエ姫……


 呪いの申し子たる百子(ももこ)でも、手も足も出ないレベルの呪いになっちまったわけだ。


 そして、その蛇竜(ナーガ)でツェツィーリエほどの超回復能力を僅かに残すことで……


 瀕死の状態を維持!

 (いや)、死にかけの状態を……否否(いいや)っ!!


 ――殺し続けて、生殺しを続けて……


 あの”魔竜化(ドラグフォルゼ)”を維持させている!!


 「はじめくんっ!!」


 「っ!?」


 時間ばかりが経つだけで一向に明確な返事を返さない俺に対して、マリアベルは既に両手で掴んだ俺の胸ぐらを前後に揺すって迫っていた。


 「ツ、ツェツィーリエな……それでも、多分あの状況だってそう長く持たない……放置すれば、ほどなく死に至るだろう」


 「っ!」


 俺の言葉に、目前の蒼き竜の美姫は詰め寄っていた身体(からだ)をビクリと震わせた。


 ジワリジワリと回復力を死が上回り……


 生きたまま肉体が崩壊して消え去るか、先に苦痛で精神が崩壊するか……


 ――どちらにしても(ろく)な死に方ではない


 「恐らく……な」


 俺の推測は間違い無いだろう。


 三十分後か一時間後か……


 死の間際に発現するという、それは竜人種の最後の形態(すがた)


 戦闘において命の危機に、死に直面した時に、

 その”素養”を持った竜人族なら”魔竜化(ドラグフォルゼ)”をすることがある……


 ――”瀕死状態で竜化するのよ、だから摂理に従ってその後は死に至る……わ”


 マリアベルが俺に説明した、竜人族の死を前にした最後の足掻き……


 ほんの数分間だけ、死のカウントダウンと引き換えに最後に放つ”死の一撃”


 そんな苦痛に(まみ)れた”種の解放”を……数倍、数十倍の時間味わい続ける拷問……


 「本当に……(ろく)な死に方じゃないな」


 ボソリと呟いた俺の顔は、呪いを施した相手への嫌悪に歪んでいただろう。


 「だ、だったら……だったら、それは好都合じゃないっ!」


 マリアベルは俺の告げた事実に声を震わせながら言い放つ。


 「もともと、あの()が私達を陥れようと……”魔神の背(リュグラード)山”でも、”カラドボルグ宮殿(ここ)”でも……こ、殺そうと……自業自得だ……わ」


 泳ぎまくった蒼石青藍(サファイアブルー)で、自身を……俺を……そう納得させようと必死に訴える。


 ――そうだ自業自得だ……だが


 「…………」


 ――だが、それならなぜ?


 ――なぜ”マリアベル(おまえ)”は、そんなに悲しそうな顔で訴えているんだ?


 「だから……だから、はじめくんが倒さなくても勝手に……勝手に、し……ぬなら……なら……」


 ――答えは……


 俺は目前で下を向いてしまった少女の肩をそっと抱く。


 「いいんだ……マリアベル、もういい……」


 思った通り……

 氷雪の竜姫(マリアベル)の頼りない肩は小刻みに震えていた。


 言うまでも無く、マリアベル・バラーシュ=アラベスカの本心は”こっち”だ。


 だからマリアベル・バラーシュ=アラベスカは偽るのだ。


 本心を、望む本当の未来を……


 そんなことは出来ない、不可能だ、なら被害を最小限に抑えるには……


 ”斎木 創(オレ)”を死なさない為には……


 「だって!あの()がっ!……だから……」


 短い間だが同じ時間(とき)を過ごした俺には解る。


 ――だから俺は……


 マリアベルの”本当”が、偽らなくてはならない”優しさ”であるなら……


 「…………」


 ”斎木(さいき) (はじめ)”はゆっくりと深呼吸してから――


 「マリアベル、俺に考えがあるんだよ、大丈夫だ、俺に任せろ」


 ―

 ――だから俺は……嘘を()


 俺のためにそんな役を演じなくてもいいんだと、


 ――だから、そんな大言壮語を()


 「……うそ……うそばっかり……」


 俺の胸で……彼女は……マリアベルは嘘つきの常習犯を見上げる。


 「いつだって貴方は……はじめくんは……そうやって馬鹿な事を……か、勘違いしているなら言っておくけど、そんなの全然かっこ良くないのよ!」


 「…………」


 ――手厳しいが……全く(もっ)てその通りだ


 「そうやって死にかけたり、本当に死んじゃったりして……酷い目にあって、苦しんで……そんな事ばかり選ぶ、軟弱に見えても……実際に軟弱でも……それを選んでしまう優しい……馬鹿な……はじめくんに助けてもらったって……わたしは……無謀な賭けで命を捨てさせてまで……わたしは……」


 そして蒼き竜の美姫の項垂れた頭は数瞬後、力強く上を向く!


 「そんなんで(なび)く安い女じゃないんだからっ!」


 キッと視線を上げ、自身の肩に乗っていた俺の左手をパシリと払って、蒼き竜の美姫、マリアベル・バラーシュ=アラベスカは俺の申し出をなんとも毅然と拒否したのだ。


 「……」


 「……」


 ドドーーンッ!


 ドドーーンッ!


 外部からは強固な”なにか”を壁に打ちつける衝撃音と振動が現在(いま)も休むこと無く続いている。


 ――この”氷の棺”はどちらにしても、もう持たないだろう……


 「俺が合図したら、この”氷棺宮(ホワイトカスケイト)”を解除してくれ、そしてさっきの……なんとかいうスキルで出来るだけ此所(ここ)から離れるんだ」


 俺はマリアベルにそう指示する。


 「っ!?いやよっ!だれが……」


 当然承諾などするはずの無い、蒼き竜の少女を……


 ――っ!


 俺は彼女を至近から遠慮すること無く抱きしめていた。


 「は……じめ……くん?」


 我ながら見事な不意打ちだ。


 「マリアベル、さっきも言ったが俺に策がある」


 俺の突然な行動に少しばかり放心状態になる少女。


 「信じてくれ、本当だ」


 俺は嘘臭い笑顔でその少女に頷いてみせる。


 「……いや……いやよ……また死ぬに決まってる……そして今度は……今度こそは……」


 暫く俺を心配そうに見ていた少女は、躊躇いながら話を蒸し返そうとするが……


 ――もう時間が無い


 焦った俺はゴソゴソと腰の道具袋からある宝珠(オーブ)を取り出して見せる。


 「その……宝珠(オーブ)……」


 「忘れたのか?俺は用意周到な男だぞ、保険かけてなきゃ危険な事なんてするかよ、ははっ、本当に危なくなったらこの転移の宝珠エマージェンシー・オーブで離脱するつもりだ」


 「……で、でも」


 「言っとくがな、俺はそんな慈善主義者じゃ無いぞ。例えヘンテコな”再挑戦権獲得(スキル)”があっても一度だって死ぬのはまっぴらだ!俺は痛いのも苦しいのも怖いのも嫌なヘタレだぞ?知ってるよな、俺にそういう極端な”マゾ気質(エムっけ)”は無いからな」


 「…………う……うぅ……極端な……”マゾ気質(エムっけ)”?」


 「ああ、だが”ちょっと”くらいの”マゾ気質(エムっけ)”はあるっ!(むし)ろ望むところだっ!!」


 涙目で俺を見る美少女に自信満々で不届きな事を宣言する俺。


 「…………」


 少しばかり変化した少女の視線……ジト眼で俺を見る美少女。


 「大丈夫だって、な?な?」


 俺はこんな風に、望むと望まざるに拘わらず……


 ここ一番に、主に女性を口説くときに、”シリアス展開”をぶち壊して失敗するのが割と得意だった。

 (全然自慢になりません……グスッ)


 ――と、俺が落ち込んでどうする!?


 ――気を取り直して……


 「だから、な?……マリアベル」


 「…………う……ん」


 とうとう根負けして?

 渋々ながらも頷く蒼き竜の美少女。


 「……」


 俺はそんな彼女を見ながら満足して頷いた。


 ――臆病なクセにその場しのぎを多用する


 ――真贋定かで無い言葉を軽率で嘘臭い笑顔で装う(コーティング)する


 ある意味、斎木(さいき) (はじめ)という男を総括したような態度を最後に……


 「じゃ、えーと……化狸?ああ、聞こえるか?……実はな……」


 マリアベルに背を向けた俺は、壁の外でパニック状態であろう我が使い魔に、コソコソと例の糸電話的な”使い魔専用念話機能(ホットライン)”で指示を出していた。


 第二十八話「だから俺は嘘を()く」後編 END

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