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第二十八話「だから俺は嘘を吐く」前編(改訂版)

挿絵(By みてみん)

 第二十八話「だから俺は嘘を()く」前編


 「ギシャァァァァッッッッーーーー」


 ――絶体絶命!


 「うわぁぁっ!」


 折れた腕を押さえながら俺は死地で右往左往していた。


 蛇竜(ドラゴン)の凶悪な(アギト)から逃れるため、ドタバタと見苦しく右に左に泣きべそのまま……


 「グワァァァァッ!」


 「ひぃぃっ!」


 もうダメだと……

 迫る大口と巨大な牙に、情けない悲鳴を上げて目を閉じたとき……


 ズバァァッーー!


 「っ!?」


 背後から通り抜ける一陣の蒼い風!


 ヒュォッ!


 そして”蒼き風”から青白く輝く槍が蛇竜(ナーガ)に向かって射出され、


 ヒュルル――――――――――――


 ――――――ドドォォーーンッ!


 それは大空(たいくう)の闇で弱々しく瞬く星々を塗り潰す光りの尾を引いて……収束の場所、蛇竜の下顎(したあご)にて眩しく弾けて爆散するっ!!


 「グッオォォッ…………」


 ドドォォーーン!!


 打ち上げられた光線は美しき弧を描き、強烈なる一撃を(もっ)て暗黒蛇竜の下顎を撃ち抜いた。


 そしてそれを受けた大蛇の鎌首は、直撃した下顎(したあご)部分を勢いに回転させられて、天に腹を晒して大地にひっくり返っていた。


 「お……おぉっ!」


 爆発の衝撃に震える大気、続いた蛇竜倒壊が叩いた大地の振動に巻き上がる砂埃……


 俺はその光景を、尺玉の打ち上げを特等席で見た童の様な好奇心、バカ丸出しの顔で見ていた。


 「戦乙女の投擲槍ヴァルキリズ・ジャベリン……初めて見たぁっ!!」


 ――――ヒュオンッ!


 パシッ!


 ひっくり返った蛇竜(ナーガ)下顎(したあご)部分から自動で帰還した光の槍……

 魔槍を片手で受け取った”蒼い風”……マリアベルがバカ丸出し男の顔を見た。


 「はじめくん……大丈夫?」


 突如、疾風の如き駿足で俺の前に現れた”蒼き瞳の美姫”は……


 ――――トッ


 打って変わり、”ふわり”と柔らかい風と共に舞い降りる。


 微かに漂っていた甘い香りが部屋に広がり、蒼く輝く光の束がサラサラと流れ出て彼女の腰の辺りまで降りる。


 目の覚めるような蒼い髪が輝きながら華奢な腰付近で揺れ、こちらを見つめる二つの蒼石青藍(サファイアブルー)はこの世のどんな宝石よりも輝いて見える。


 薄氷のように白く透き通った肌と瑞々しい桜色の唇の……白い軽装鎧の下に蒼いゴシック調ドレスを(まと)った可愛いらしい少女。


 そのとびきりな美少女は、自身が放った技、”戦乙女の投擲槍ヴァルキリズ・ジャベリン”に相応しい戦乙女を体現した少女だった。


 ――どれだけ時間を過ごそうと、どれだけ見慣れようと……つい()()れてしまう


 「神様っ!仏様っ!マリアベルさまぁぁっ!!」


 俺は勢いのままに、美少女に抱きつこうとしたが……


 ガスッ!


 「うぎゃっ!」


 彼女がクルンと軽快に一回転させた槍の柄に、蠅叩きの要領で小突かれていた。


 「はぁはぁ……だから最初に言ったでしょ!はぁはぁ……貴方は迂闊だって!」


 「う……うぅ……ご、ごめんなさい」


 気高き戦乙女に怒られて悄気る情けない男の姿は、まんま母親に咎められた幼児であった。


 「けど……と、とにかく助かった……えと……」


 今の今まで暗黒蛇竜(ナーガ)の鱗から生まれ()でし”闇の蛇女(イビルラミア)”の群れに囲まれて奮戦していたはずのマリアベルは、現在(いま)は俺の横に居る。


 「…………」


 俺はチラリと彼女がさっきまで居たはずの場所に視線を移し……そして直ぐに理解した。


 ――


 その場所には数十体もの闇の蛇女(イビルラミア)(むくろ)が散乱し、俺へと繋がる一本の経路のみが綺麗に舗装された道のように筋となって(ひら)けていた。


 ――その道端は死屍累々……


 どうやら派手に暴れたマリアベルは、此所(ここ)まで一気に間を詰める様な、何らかの特殊な能力(スキル)で移動してきたのだろう。


 ――例えば、俺の短剣(ダガー)スキル”閃光突き(スティンガー)”のような一瞬で間合いを詰める最速の突き


 そういう類いのスキルを使用して……


 「は、はじめくん……はぁはぁ……”ぼぅっ”としてないで!はぁはぁ……逃げるわよ……はぁはぁ」


 「?」


 ――そういえば……なんだろう、彼女のこの疲れ様は?


 さっきから少し気になってはいた。


 言葉を放つ度に共演される”荒い息”。


 確かにあれだけの敵を蹴散らして来たのだから無理も無いのかも知れないが……


 「はぁはぁ……はやく!ツェツィーリエが起きてくる前に……」


 至近だからなんとなく解る……蒼き竜の美姫から感じる枯渇感。


 ――これは……この感覚はもしかして……


 「はぁはぁ……」


 「お前……もしかして、もう体力が……というか魔力が無い?」


 「……うっ!?」


 俺の指摘に蒼き竜の美姫の顔は一瞬だけ引き()って、それから蒼石青藍(サファイアブルー)の瞳をそそくさと俺から()らせた。


 ――図星かよ……


 確かに闇の蛇女(イビルラミア)は強敵だろうし数も半端なかった。


 けど、いや、(そもそ)も最初の”蛇女(ラミア)戦”の時からちょっとだけ思ってたけど……


 「お前さぁ、戦闘時の消費魔力の配分とか考えてるのか?」


 「うぅっ……」


 マリアベル・バラーシュ=アラベスカ嬢は、今度はあからさまに視線……

 いや、可愛らしい顔を()らした。


 ――やっぱりか


 ”闇の蛇女(イビルラミア)”はともかく、最初の”蛇女(ラミア)”にさえ、あんな大層な”氷結の豪雨(まほう)”を行使していた彼女。


 所謂(いわゆる)”鶏肉を捌くのに牛刀を”……ってやつだ。


 これは戦闘経験が……そうだな、正確には”この状態”での、

 ”月の加護”とやらを得た最強状態の氷雪竜、マリアベル・バラーシュ=アラベスカ本来の姿での戦闘経験が極端に少ない事からくる素人戦闘術だろう。


 一ヶ月の間に何日も無い”完全なる|氷雪竜姫《マリアベル・バラーシュ=アラベスカ》”の状態。


 それはある意味仕方の無かった事なのだろうが……


 「マリアベル、お前……」


 俺が再び声をかけようとした時だった……


 「ギシャァァァァッッッッーーーー!!」


 ――っ!!


 ダメージを回復し、いつの間にか舞い戻った巨大な蛇の影が俺達二人を上空から覆っていた!


 「ちっ!」


 「っ!」


 ”獲物(ターゲット)”は勿論俺達だ。


 バシュッ!!

 バシュッ!!

 バシュッ!!


 ――なっ!?


 巨大な(アギト)で襲い来るのでは無く、またもやその下部が膨らんで弾き跳ばされる暗黒の鱗。


 だが、それがさっきと違うのは……


 今回の鱗は”まんま”鋼鉄の礫となって俺達を強襲する!


 ――ま、まずいっ!これはっ……


 ”闇の蛇女(イビルラミア)”製造の鱗攻撃は通常の鱗攻撃より若干スピードに劣り、怪物の誕生まで一呼吸在る。


 だからこそか、至近で隙だらけ、防御態勢の整っていない今の俺達には、即効性のある通常の鱗による跳弾が最も有効だと判断を……


 「な、なんて凶悪な攻撃をするんだよ……蛇竜(ドラゴン)になっても性格悪いなぁ、ツェツィーリエぇぇっ!」


 と、必死に抗議してみても後の祭りだ。


 俺は……俺達は、この最悪な攻撃を回避する手段は……もう……


 無駄な足掻きにもならないが、俺は咄嗟に隣のマリアベルに覆い被さろうとする――


 パシッ!


 「あうっ!?」


 だが、マリアベルはそんな俺の献身を”にべもなく”左手で払って、逆の手に握った魔槍を天高く掲げてから叫ぶ!


 「間に合ってっ!白き防壁、”氷棺宮(ホワイトカスケイト)”!!」


 ゴゴゴゴゴーーッ!!


 ゴゴゴゴゴーーッ!!


 ゴゴゴゴゴーーッ!!


 ゴゴゴゴゴーーッ!!


 「なっなんだっ!?」


 途端に周りの土がモコモコと盛り上がり、地下からは”生きた死体(ゾンビ)”ならぬ、分厚くも巨大な氷壁が四方から四枚……


 グルリと俺達を取り囲む様にせり上がって来た!


 ガキィッ!


 ガキィッ!


 ガキィッ!


 ガキィッ!


 氷壁にぶち当たり、火花を散らして弾かれる黒鱗の雨礫……


 トタン屋根に幾つもの雹が降り注いだかのような”けたたましい”打音を響かせながら、

 氷壁は破壊される事も無くそのまま数メートルの高さまで達した。


 ゴゴゴゴゴーー!


 そして、四枚の”それら”は頭上で中央に集結し、結合して夜空を遮った。


 ドッガァァァァーーンッ!!


 「っ!?」


 直後に、一際巨大な物体が白い外壁に衝突したかの様な衝撃が襲う!


 「…………」


 が……その影響は全く無い。


 ――

 ―


 完全に外界から隔離された密閉空間となった氷の箱の中で、


 ガキィッ!


 ガキィッ!


 ガキィッ!


 ガキィッ!


 その後も続く、少し揺れる感覚と鈍く響く衝突音を聞きながら俺は考えていた。


 幾つもの凶悪な鱗の(つぶて)、恐らくその後に続いた蛇竜(ナーガ)の牙。


 それら(ことごと)くを弾き返して形を維持するこの”氷の箱”は……


 マリアベルの言で現すなら、この”氷棺宮(ホワイトカスケイト)”とやらは……


 ――蛇竜姫(ツェツィーリエ)の一撃をも遮り窮地の俺達を救う”神話の箱船”たりえるのだろうか?


 ……と、


 「マリアベル……」


 中の広さは三畳ほど。

 暗闇の中で俺は僅かな期待を胸に少女の名を呼んだ。


 「そんなに……長くは持たないの」


 しかし、その淡い希望は創造主の姫によって直ぐに否定される。


 「…………」


 ――ふぅ、未だ窮地は変わらない……か


 「くっ!」


 落胆した途端に、折れた右腕の痛みを思いだした俺は暗闇の中で唸った。


 「ごめんなさい、ちゃんと手当してあげたいけど……今は時間が無いの……逃げる算段をしないといけないから……ね?」


 いつになく優しい声の彼女は、多分、俺のすぐ傍に立っているのだろう。


 血生臭い戦場には場違いな”マリアベル(かのじょ)”特有の甘くて良い香りが漂ってきていた。


 「導く灯明を」


 ――ブゥゥン


 俺はとりあえず”灯火(ライト)”の魔法で暗闇に光を灯す。


 「……」


 「……」


 薄明かりの中、予測通りにマリアベルの可愛らしい顔が近くにあった。


 「マリアベル、お前は魔力がもう殆ど底を()いていたんじゃなかったのか?」


 続いて”治癒呪文(ヒーリング)”を唱えて一応の応急処置をしつつも、俺は暢気な話題を振る。


 「”氷棺宮(これ)”は氷雪竜(フリージングドラゴン)の固有スキルよ……ツェツィーリエを退けたのも槍の武器スキル”戦乙女の投擲槍ヴァルキリズ・ジャベリン”だし……」


 ――スキルか……確かにスキルなら魔力は殆ど消費しない


 氷雪竜の固有スキルは流石に()らないが、武器スキル”戦乙女の投擲槍ヴァルキリズ・ジャベリン”は槍のスキル攻撃としては、ほぼ最上位だ。


 ――凄いな……ほんと、”戦乙女の投擲槍ヴァルキリズ・ジャベリン”はゲーム以外では初めて生で見た


 俺は先程の興奮を少しだけ甦らせていた。


 「さすが、暗黒竜(ダーク・ドラゴン)氷雪竜フリージング・ドラゴンの血を引くお姫様だなぁ」


 「現在(いま)はそんな事より此所(ここ)から撤退する話よっ!はじめくん、この”氷棺宮(ホワイトカスケイト)”はもう数分も持たないの、だからその時に私が合図したら……」


 ――けれど、お嬢様はそんな男の子的ファンタジック浪漫(ロマン)より現実志向(リアリスト)か……


 俺はそれもこの状況じゃ仕方無いかと……話題を変えた。


 「あの蛇竜(ナーガ)娘なぁ、魔竜化(ドラグフォルゼ)してるっていう……アイツ、呪いで縛られてるぞ」


 「……」


 しかし、マリアベルは……この話題にも冷たい視線を返したのだ。


 ――だろうな……けど俺は……


 実はそれを予測していた”斎木(さいき) (はじめ)”は……


 それでもこの話題は……


 こっちの話題だけはマリアベルの表情を無視して会話を続けるつもりだった。


 第二十八話「だから俺は嘘を()く」前編 END

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