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第二十七話「竜と呪いと証明する男」後編(改訂版)

挿絵(By みてみん)

 第二十七話「竜と呪いと証明する男」後編


 再び襲い来る凶悪な蛇竜(ナーガ)とマリアベルの援護が期待できない状況に、

 俺は素手のままでサッと身構え、前面に立つ呪いの影娘に尋ねた。


 「百子(ももこ)!お前、あの呪い……”吸収(くら)”えるか?」


 「ん?……むぅぅーーん?」


 影のツインテールをぴょこぴょこと揺らせて唸る影娘。


 「あ、(あるじ)様っ!!」


 「ちっ!」


 ドガシャァァーーン!!


 巨大で強烈な尻尾の一撃が真横から薙ぎ払われ、俺と化狸と影娘は不細工な格好で間一髪それを横に転がって(かわ)す。


 「くっ……ぺっぺっ……も、百子(ももこ)っ!」


 俺は地面に()(つくば)ったまま、口に入った砂埃を吐きだしつつ、せっつく!


 マリアベルの援護射撃が期待できない今、目前の蛇竜(ナーガ)は自力で対応しなければならない。


 とはいえ、(ドラゴン)に正面から対抗できるとは到底思えない。


 となれば、本来と違う形で発現した魔竜化(ドラグフォルゼ)とやらを、

 それを維持しているであろう勇者の呪い……その元凶を何とか……


 「無理かにゃぁぁ?あの”トゲトゲの呪い”わぁ、”れべる”がだんだんダンチどぉえぇす?」


 ――トゲトゲ?……それがツェツィーリエを蝕む呪いか?


 「……」


 俺は立ち上がり、右手を肩の高さに前へと差し出す。


 ――どっちにしても、呪いレベルが高すぎて百子(ももこ)でも吸収も解呪も出来ないと……


 「ギシャァァァァッッッッーーーー!!」


 そうこうしている間にも大蛇の追撃が目の前だ。


 「呪いの正体は(わか)るかっ!?」


 俺は右腕を前に出したまま聞く。


 「うーーんと……トゲトゲのぉ……えぇ……と……あれはぁ……」


 ズゥオォォォォォッッ――――


 「くっ!」


 砂煙をまき散らし、大地で”のたうっていた”大蛇の尾が、俺の頭上数メートルを覆った!


 「ああ!そうですぅぅ!あれはぁ……”荊姫の剣(ドルンレイデン)”ですかぁぁ?」


 影娘が胸の前でパチンと両方の手の平を合わせて、そう言葉にした時には……


 ズズズ……


 俺の頭上に巨大な蛇の尾が……もう回避不可能な距離で(うごめ)いていた。


 「…………」


 ――”荊姫の剣(ドルンレイデン)”……そうか


 「あ、(あるじ)ぃぃ!!」


 「は、はじめくんっ!!」


 間近で化狸の情けない涙声があがり、遠くの方から怪物の群れと奮闘中であるはずの美少女の声が届いた。


 ズゥオォオォォォォーーーー


 頭上でモゾモゾと(うごめ)いていた巨大な影は、見る間に均衡(バランス)を放棄させ、俺という落下ポイントに雪崩(なだれ)の如く崩れ落ちてきた!


 「来いっ、百子(ももこ)っ!」


 迫り来る落下物の風圧で俺の髪は(なび)き、頬は(いびつ)に変形させられる。


 「……」


 が、頭を庇うことも無く、差し出したままの俺の右腕の先には……


 シュオォーーーーン!


 黒い霧が……


 呪いの集合体である黒霧が瞬く間に集約されて形を成すっ!


 ――ズッ!


 ドドォォ――――――ンッ!!


 激しい衝突っ!


 ズシャァァーー!!


 ガラッ!ガラガラガラァァッ!!


 大地が大きく上下に揺れる程の衝撃!


 次いで、俺が居た場所は神話の巨人が振るうという鉄槌跡と等しい陥没と成り果て、


 「グギャァァァァーーーー!!」


 その(えぐ)れたクレーターの上には、大蛇の尾が蜷局(とぐろ)を巻いて蓋をするように渦巻いて鎮座していた。


 「だ、だめでガスぅぅっ!ペッタンコでガスよほぉぉっ!!」


 「は……はじめ……くん……」


 呆然と立つ化狸と、未だ乱戦の中でも俺を気にかける美少女。


 「…………」


 ()(とん)()の様に易く叩き潰される身の程知らず。

 神如き上位種”(ドラゴン)”から見れば、矮小の極みである人間”斎木(さいき) (はじめ)”はまさにそれだった。


 「…………」


 ――さ、(さば)きとして……”神如き種族(ドラゴン)”に……(れき)(さつ)される咎人(とがびと)……ってか?


 ピシッ!


 乾いた音と共に鎮座するバケモノの尾の一部に亀裂が入る!


 ――と……とはいえ……ぜぇ……はぁ……


 ピシィィーー!!


 「なっ!?」


 「おおぅぅ!?」


 蒼き竜の美少女と化狸が向けた絶望の視線が先で、


 完全に俺を”下敷き(クッション)”にして大地へとめり込んでいた大蛇の尾に、一筋の亀裂が入って其所(そこ)から……


 ブシュゥゥーー!!


 大量の鮮血が吹き出し、輪切りに切断された尾の一部はズズズとスライドしてズレた。


 ズズゥゥーーーーンッ!


 本体から削ぎ落ちる巨大暗黒蛇竜(ナーガ)の尻尾部分。


 「はじめくんっ!!」


 「(あるじ)様ぁぁっ!!」


 ズズ……ズルズル……


 「ぷ、ぷはぁぁーー!!……し……死ぬって……マ・ジ・で!……はぁはぁ……」


 絶望から一転、喜びの表情になる麗しの竜姫を遠目に確認し、俺は”よっこらせ”と立ち上がっていた。


 ――見たか!我が”刀剣破壊武器(ソードブレイカー)”の圧倒的”特異性能(ポテンシャル)”を!!


 そして、尾が輪切りになって落ち、四分の三程になった暗黒蛇竜(ナーガ)と砂埃(まみ)れの俺は再び対峙した。


 「グルルルルゥゥ……」


 「……」


 実の所――


 俺の”刀剣破壊武器(ソードブレイカー)”は敵が勇者や魔王級の規格外(チート)であるなら、それに比肩しうる性能を発現する”魔剣(デュランダル)”だ。


 一定水準以上の強力な防御障壁の魔力を喰らって、刀身(じしん)が帯びる付加魔力を凝縮、強化するというヴィ○ラニ○ム並の変わり種超超希少金属、”魔鉱結晶(マギステル)”で創造されし逸品なのだ!


 (*注)敵に投げた後戻ってきたり、中央にデッカい星のマークは入ってません


 「グゥオォォォォォォォーーーーーー!!」


 ――っ!


 なんて脳内で蘊蓄を垂れている間に、刻まれた暗黒蛇竜(ナーガ)がビリビリと大気と鼓膜を痺れさせる雄叫びをあげる!


 ――ズズ、ズヌゥゥゥ……


 「うわっ!?なっ……」


 輪切りになった切断面がボコボコと泡立ったと思うとそれは緋色の肉となりモリモリと溢れ、そして直ぐに変容して、失ったはずの新たなる身体(からだ)に成り代わる。


 「さ、再生……早すぎ……はぁぁっ」


 呆れた再生力に溜息を吐きつつも、それでも一矢報いてやった俺の顔には自信が漲っていた!


 埃まみれで、命からがら這い出した(てい)の俺だが……勝負はまだこれからだ!!


 「ふふん、何度も言うがな、相手が(ドラゴン)だろうと戦い様は色々とあるんだ……今度こそ俺がそれを証明してやるっ!」


 「はじめくん、貴方って(ひと)は……」


 蛇女(ラミア)達の猛攻から飛び退いて一旦距離を取った美姫が、熱い視線で()(ちら)を見ている。


 ――熱いなぁ、可愛(かわ)()ちゃん


 ウットリした蒼石青藍(サファイアブルー)の瞳、ほんのり染まった雪の頬……


 ――これはもう俺に惚れた、メロメロと言っても過言では無いはずっ!!


 思わずニヤけそうになる締まりの無い口元を意識して引き締めながら、

 俺は堂々と、悠然と、雄雄しく!


 右手の”刀剣破壊武器(ソードブレイカー)”を高々と掲げ――


 ――カクンッ


 「は?…………え……と?」


 掲げたはずの右腕はカクンッと垂れ下がっていた。


 「…………」


 ――プラン、プラン……


 握った刀剣破壊武器(ソードブレイカー)の重みで、振り子のように左右に揺れていた。


 「う…………お?……あれ?おぉ?」


 意志に反して、頼みもしないのに”奇妙奇天烈”な動きを披露する自身の右腕を間抜けに眺めていた俺は……


 「ちょっ!こ、これ?え、えぇぇぇーーーー!!」


 そこでハッキリと現実(リアル)を認識する!


 ――ポッキリ逝っちゃってますよほぉぉーーーーいっ!


 ってな感じで!?


 「グゥオォォォォォォォーーーーーー!!」


 巨大暗黒蛇竜(ナーガ)は吼える!


 「わっわっ!ちょいタンマ!!痛ててっ!……これはもう無理!!無理だってっ!そうだ!き、棄権!斎木(さいき) (はじめ)棄権(リタイア)しまーーすっ!!」


 「ギシャァァァァッッッッーーーー!!」


 「うひゃ!」


 ドシャ!


 暗黒蛇竜(ナーガ)の威嚇に、俺はスッ転んで、這い蹲って逃げる!逃げる!


 「痛ててっ……やめるっ!やめるって言ってるだろ!?聞けよっ!ニョロニョロさんっ!!」


 ズルズルと片手で這い蹲って必死に逃げる俺は泣きべそだった。


 「(あるじ)!”相手が(ドラゴン)だろうと戦い様は色々とある、今度こそ俺がそれを証明してやるっ!”じゃなかったんでガスかぁぁっ!!」


 無様に逃げ惑う俺に、化狸が半泣きで(すが)って来るが……


 「えぇい、鬱陶しい!だから証明してやっただろうがっ!」


 俺はそれを払いながら言い放つ!


 「(あるじ)?」


 「人間はなぁ……(ドラゴン)様には到底適わないんだよほぉぉーー!!」


 「……」


 「……」


 ――


 決戦のカラドボルグ宮殿で――


 恥ずかしげも無く、情けない”証明”とやらを高らかに宣言する男の涙声……


 蒼き竜の美姫と化狸は同時にキッカリと三秒は絶句していた。


 そして――


 マリアベル・バラーシュ=アラベスカは白い指先で形の良いおでこを押さえながら、ついさっきと全く同じで、全く違う意味の言葉を(つぶや)いたのだった。


 「はじめくん、貴方って(ひと)は……」


 第二十七話「竜と呪いと証明する男」後編 END

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