第二十二話「疑惑」後編(改訂版)
第二十二話「疑惑」後編
――何らかの手は打たないとだが、もっと情報が欲しい
――あと、その前に”確認しておくべき事”も何点かある!
俺は現在成すべき事、やれるべき事を整理するために、早速”情報収集”に取りかかることにする。
「マリアベル、俺達が行動を起こす前にどうしても確認しておかなければならないことがある!」
重い沈黙を破った俺の言葉に、
「……」
蒼き竜の美姫が象徴とも言える蒼石青藍の宝石に緊張の色を浮かべて此方を見つめてきた。
「大事なことだ、今後の戦況を左右するかもしれん!だから識っているなら隠さず答えてくれ!」
「……は、はい」
俺の超真剣な眼差しに、彼女の美しい蒼石青藍の瞳も応じるように光って……
「先ずはス……」
「スリーサイズとか言ったら殺すわ」
即答する彼女。
「…………」
「…………」
無表情で固まる俺に、美少女はニッコリと女神の微笑みを向けていた。
「し……」
「下着の色とか言おうモノなら二度殺すわ……そうね、”斎木 創”が確実死する”二度目の死”はゆっくりと存分に時間をかけて……ね」
――シュォォン!
そして、またもや即答した蒼き竜の美姫は、言葉の最後である”ね”のところでウインクし、おもむろに右手を翳して例の”魔槍”を顕現させていた。
「…………」
「…………」
俺と竜の美少女との間に再び静寂が訪れ、俺は……
「じゃあ、もう特に無い」
キッパリ言い放つ。
「い。いや!あるでしょうっ!!あるはずでガスすよ!!ね?ね?主様!?貴方様の頭の中は”エロ”ばっかりでガスかぁぁーーっ!!」
化狸が大げさに叫び、犬頭人が目にモフモフの腕を宛がって、”情けないですぅー!”と大泣きしていた。
「…………」
――冗談だって……そんな大げさに嘆くなよ……
「はじめくん、あなた……」
部下共に泣いて呆れられる俺にマリアベルの冷たい視線がヒリヒリと染みた。
「いやいや冗談だって!んなわけ無いだろ!!はっはっはー、大体そんなワンワン泣くほどの事か?……わんわん、いや犬だけに……なんてな!!」
「…………」
――スチャ!
「マリアベル?ちょ、ちょっと!ベルちゃんっ!?槍を!槍をこっちに向けるなってぇぇっ!!」
下らない駄洒落が余程お気に召さなかったのか?
それともその前のやり取りの方からか……
「両方よっ!」
――エ、エスパー!?
蒼き竜の美姫、マリアベル・バラーシュ=アラベスカ嬢は、俺の心中を見透かしたような見事な台詞を発すると同時に、顕現させた槍の鋭い切っ先を俺に向けていた。
「ち、ちがう!ちがうて!!レーヴァテイン伯!?そう!ツェツィーリエ!ツェツィーリエ・レーヴァテイン=アラベスカだよっ!!」
「………………ツェツィーリエ?」
物騒なモノを俺に向けていた美少女は、その名にピクリと反応する。
「そう……そうそう、ツェツィーリエ・レーヴァテイン=アラベスカ、お前の従妹様の事だ」
「…………」
なんとか急場を凌いで胸をなで下ろした俺に対し、マリアベルは槍そのものは降ろしたものの……
殺気立った視線を、今度は怪訝な感じに変えて俺に向ける。
「”閻竜王”!つまり魔王の血族であるツェツィーリエ・レーヴァテイン=アラベスカがどれくらいの強さなのか知りたい。具体的なレベルとかスキルが解れば尚良いが、そうで無ければお前と比べてどの程度かとか……」
この場合の比べる対象は勿論、月の周期とやらで本来の能力を取り戻した状態の”真のマリアベル”だ。
「…………」
俺の質問にマリアベルはそっと視線を逸らした。
――”竜の一欠片”であり、能力に劣等感のあるマリアベルには答えにくいか……
だがこれは重要な事だ。
俺の見立てでは、あの状態のマリアベルはかなり強い。
魔王に準じる強力さ……
それこそ閻竜王の城でまみえた、あの三騎士と比べても見劣りしないであろう。
「マリアベル、答えにくいかも知れないが……」
「ツェツィーリエは蛇竜の血が濃い竜人族で、職業は”魔導戦士”。魔法レベルと武器レベルは解らないけど、”蛇連鞭”を装備していたと思うわ……それでレベルは多分……多分だけど、80から90くらいだと……」
答えるマリアベルの口調は戸惑いと朧な記憶からか、多少たどたどしいながらも……
”それ”が必要だという俺の言葉を信じて、昔の……多分、あまり思い出したくないだろう記憶を辿ってしっかりと答えてくれた。
――推定レベル80以上の上位職業……
ツェツィーリエが竜人族であることを考慮すれば、とても人間が適うレベルでは無い。
というか、数百、数千の軍でもあっさり返り討ちに遭う凶悪さだ。
――それがどうしてこうもアッサリと敵の軍門に降った?
――如何に勇者が相手でも……城には彼女の配下の軍勢もあるはずだが?
それに……
俺はズボンのポケットに無造作に放り込んであった”あるモノ”を確認する。
「はじめくん?」
自分のポケットに手を突っ込んで考え込む俺を不思議な目で見る少女。
「……」
俺の手には……
あるモノの破片……
あの”魔神の背”山で回収した希少魔法具の破片があった。
「主様、その鉄屑はなんでガスか?」
それを握ってポケットから出した俺の手の平を覗き込み、化狸は問うた。
「鉄鎖枷……」
「ふぇたーず?」
「”鉄鎖枷”は、”第四主天使の拘束具”と呼ばれる希少魔法具の一部だ……上位怪物さえも支配下に置くことが出来る希少魔法具……」
「上位怪物?……あの、フロスト……ジャイアント……」
思わず呟いたろう、蒼き美少女の言葉に俺は頷く。
「”第四主天使の拘束具”クラスの希少魔法具は通常の”依頼”ではまず手に入らない……それこそ”勇者”レベルの手練れでないとな」
「そ、それって?」
俺には嫌な予感があった。
――カラドボルグ城塞都市の占拠
――”第四主天使の拘束具”の破片
そして……
俺達が”魔神の背”山を目指す前日に、カラドボルグの宮殿で開かれたあの”社交的な催し”……
「はじめくん……いったいこれは……」
意味が解らないという三人を置いて、俺は独り頷いていた。
「どっちにしても……虎穴に入らずんば……かよ」
第二十二話「疑惑」後編 END