第十六話「卑怯な男と転移の宝珠」後編(改訂版)
第十六話「卑怯な男と転移の宝珠」後編
「フハハハッ!燃えろ!燃えろ!なに殺しはしない、ほどよく焼き払った後は、死なぬ程度に癒やして……しかる後に、また、いたぶり尽くしてくれるわぁっ!!」
ヒューダインの掌から黒い魔術の炎が立ち上がるが、肝心のマリアベルは宝珠を使うどころか……
「…………だって」
切ない双瞳で俺を見る。
――おい!今、そんな顔されたって……
ゴォォォォオッ!!
黒炎は勢いを増し、そしてそれは遂に呪術導士の手から離れた!
――させるかよっ!!
俺は跳びだしていた!
またも……後先考えず……だ。
「こっちだよ、根暗エロジジィっ!!自称”大魔導師様”とやらは、女子供しか相手に出来ない腰抜けかぁ!?」
挑発的な言葉をばらまいて、態と隙だらけのポーズで的になる。
「ぬぅぅっ!!小童がぁぁっ!!」
途端にヒューダインの標的は俺へと変わり、急遽向けられたジジィの節くれ立った掌から黒炎が俺めがけて噴射された。
ブオォォォォォォォォーーーー!!
至近距離で放たれた黒炎に巻かれた俺の身体は一気に燃え上がるっ!!
――くぅっ!!
「魔法抵抗っ!あちぃっ!魔法抵抗っ!あちちっ!魔法抵抗っ!あちぃぃってっ!!」
――暗黒魔法レベル4”煉獄の炎”
地獄へ誘う魂の罪を問うという断罪の炎だ。
「魔法抵抗っ!魔法抵抗!ぐわぁっ!魔法抵抗ぉぉっ!!」
それに俺は、能力値の魔法抵抗値を上げる魔法で必死に抗う!
――腐っても上位職業、俺の魔法抵抗値と魔法抵抗ならある程度防げる……はずだ!
ゴォォォォォッッーー!!
メラメラと皮膚を、臓腑を煮えたぎらせる煉獄の炎に包まれながら、俺は必死に魔法抵抗を試みているが……
「魔法抵抗っ!あちぃっ!レジストっ!あちちっ!れじすとぉっ!!あちぃぃってっ!!」
流石にこれは……無傷とはいかない。
挑発のため、信じられないほどモロに受けてしまったし、如何に俺の職業が上位職業であっても……
俺の職業、”影の刃”は抑も魔法に対してそんなに優位性が無いのだ!
「さ、斎木 創っ!!」
「ふん、一端に魔法抵抗するか……ならば!」
炎に遮られた向こう側から、悲痛な声を上げる少女と、更に何かを企む呪術導士の嗄れた声が聞こえた。
「我は断罪する咎に塗れし……」
「っ!?」
――くっ!?……うっ……や……ばい……あれは……魔力の上乗せを……く……
ゴォォォォォォォォォオッーーーー!!
ヒューダイン=デルモッドが追加で呪文を上乗せした途端に火力は増大し、皮膚を焼く炎熱は体中の骨をも熱した鉄棒に変質させる勢いに移行する……
――ば、万事休すか……
燃えさかる炎の中で、俺は自身の愚かさを呪っていた。
「斎木 創ぇぇっ!!」
炎に焼かれ、もう殆ど見えない向こうで悲痛な声を上げる美少女がひとり……
――俺が死んだら……
――この”状況”で死んだら……駄目だ
状況は変えられない!
俺の固有スキル”再挑戦権獲得”は死んだ直後に一度だけ生き返れる。
死因となった傷も完治する……が、しかしそれでは状況は変わらない。
それどころか、時間的には”霜の巨人”も加わって終わりだ。
二度絶望を味わうだけのバッドエンド確定ルート。
「ぐ……うぅ……あつ……いたい……くるし……ぃ…………けど……けどなっ!!」
ゴォォォォォォォォォオッーーーー!!
燃えさかる炎の刃の最中で、俺は全身を焼きごての刃に突き刺される激痛の中、折れそうな心を無理矢理に奮い立たせた。
――俺はそれでも……それでも諦めて……たまるかよっ!!
炎の剣山を両瞼に押しつけられたまま、俺は目を開く。
ブワァッ!!
「ぐはぁぁっ!!」
直ぐに見開いた眼球の水分が蒸発する激しい痛みが走り……
「ぐぅぅおぉぉぉぉっっーー!!」
俺はその激痛の中で……
「おっ!おぉっ!!」
黒い灼熱のカーテン越しに呪術導士の姿を確認していた!
――っ!?
そして……俺は異変に気づく。
――なんだ?あれは……
呪術導士ヒューダイン・デルモッドの灰色ローブの胸元辺りから、ボンヤリと光が漏れている事に。
――見間違い?いや……あれは確かに魔術的な……”なにか”だ!
どうしてそう言う力の流れが見えたのだろう……
瀕死になって新たな能力に目覚めた?火事場の馬鹿力?
解らない
解らないが……
「しぶといな……見てくれだけで無く生命力もゴキブリ並か……ならばっ!」
再び魔力を注ごうとする呪術導士に――
「や、止めて!!……は、はじめくんっ!!」
蒼い髪の美少女は顕現させた魔槍を手に立ち上がっていた。
ゴォォォオォォーーーー!!
「ぐぅあぁぁぁー!!」
更に勢いを増す炎の中、俺は……
俺は……
なんてことだ!
「ぐぅっ!……」
俺は焦燥のあまり、今まで奴の大きな変化に気づいていなかったのだ。
あの光は……エロジジィの懐で光っているアレは……
魔術遮断結界で巨人へ注いでいた魔力が阻まれ、逆流したものだ!
――つまり!
「はじめぇーー!!」
シュォォーーン!
俺を助けようと、愛用の魔槍を手に叫ぶ少女を阻むように黒い霧が立ちはだかる。
「間もなくゴキブリの丸焼きの出来上がりだ!フハハハッ!」
呪術導士ヒューダイン・デルモッドが下品に大口を開けて嗤っていた。
――つまりは……
――なぁっ!
バフゥッ!!
俺は全身に炎を纏わり付かせたまま、短剣を手に渾身の力で飛びだしていた!
「な、なんだとぉっ!?」
そして間抜けな面を晒す陰気なエロジジィに突進する!
「……が……はっ……」
吐血し、ボロボロに焼け焦げた身体で……
「うぉぉぉぉっ!!」
しかし、余力の全てを注ぎ込んでっ!!
シュォォーーン
だが、俺の決死の突撃を阻むように目前に集約する黒い人型の呪い……
さっきまでマリアベルを遮っていた例の呪いは俺の前に出現する。
――もう……見飽きたって……お……まえは……
無論、俺の突進は止まるどころか減速することさえもない。
ブワァァァッ!!
そして呪いの坩堝……無策にて死の霧を構わず突破する!!
邪炎の裂傷を全身に負い、無防備に呪いの……死の霧に覆われて……
――だがそれを突き抜けた先に……
――先にこそっ!!
「み……えた……」
俺の短剣、その切っ先は……
「こ、小童ぁぁーー貴様、小物の分際でぇぇーー!!」
「お、おかげさまでみ、耳がなぁぁっ!焼けただれて聞こえねえよっ……エロジジイッ!!」
遂に”呪術導士”ヒューダイン・デルモッドの姿を完全に捕捉していたっ!!
第十六話「卑怯な男と転移の宝珠」後編 END