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第十二話「無謀者と啖呵」後編(改訂版)

挿絵(By みてみん)

 第十二話「無謀者と啖呵」後編


 実際、俺は負け惜しみでは無く、この事態は予測していた。


 魔術師の根城に本来なら前衛を務めるべき直接戦闘(ファイター)系の戦士や剣士という存在がいないことからもそれは想像できた。


 「……こうなるってな……予測はしてたんだ」


 常駐する傭兵なんてものは費用(コスト)もかかれば、雇われだけに簡単に金で転ぶ。

 もし裏切られればそれで終わりだ。


 しかし自らが使役する、支配下に置く魔物にはそれが無い。


 ――従属させた魔物の行使……だがそれがこのレベルの化け物かよ……


 そう、これほどの怪物が手駒ならば尚のこと、そんな不確かな者達は必要ないからだ。


 「ほほぅ、未だ貴様如き空頭でこの事態を予測していたと言い張るのか?クハハッ!ならどうする?人間如きが相手をできる怪物ではないと理解出来ようぞ」


 「…………」


 ”霜の巨人フロスト・ジャイアント”……推定レベル40以上の怪物(モンスター)


 この辺の大怪物(レベル)になると、下手をすると一国の軍隊が全滅するような相手だ。


 ――この呪術導士(エロジジィ)は、そんな怪物をどうやって支配した?


 当然だが、ここまでの怪物を支配するには術者にもそれなりのレベルとスキルが必要だ。


 ――いや、無いな……転移したこの世界の人間レベルでは……俺の経験上あり得ない


 ――だが……今はそこじゃない


 問題にするのは……


 「どうした?土下座男、儂の一手を読んでいたのではないのか?フハハハッ!下らぬ負け惜しみはもう(しま)いか?」



 圧倒的優位に立った魔術師は歪んだ顔で、泥まみれで四つん這いのままの俺を見下して(わら)う。


 「斎木(さいき) (はじめ)……」


 少し離れた位置で警戒する竜の美姫。


 「普通は……手も足もでないだろうよ……お前の勝ちだ」


 俺はそうした状況の中、スッと立ち上がった。


 そして目前の脅威に警戒しつつも、俺の行動を覗っている蒼き竜の美姫を指さした。


 「だが!こと”対氷系統の魔物”ならっ!氷雪竜フリージング・ドラゴンである”マリアベル・バラーシュ=アラベスカ”に負けは無いっ!」


 「っ!」


 ババーーン!と効果音が響きそうな勢いで俺は、これ以上無いくらい得意げに言い放ったのだ!


 氷雪竜フリージング・ドラゴンは氷系統の最高峰種族のひとつ。

 そして属性が同系統なら下位の魔法やスキルは上位のそれには効果が無い。


 つまり、氷系統攻撃が主たる霜の巨人フロスト・ジャイアントに限っていうならば、如何(いか)に強力無比な怪物であっても、マリアベルの敵とは成り得ないのだ!


 「ククッ……フフ」


 だが俺の完璧な対抗策(こたえ)にも、この呪術導士(エロジジィ)は意地悪くほくそ笑む。


 「無敵?ククク……」


 ――なんだ?なに笑ってんだジジィ……急にボケたか?


 「クククッ!如何(いか)に我が開発せし”大呪殺(カース・オブ・カオス)”が偉大とて……いや!()()もが、群がる呪詛相手に下位魔法の一つも放てない女が真っ当な”最上級種族”だと思うのか?フハハハァ!」


 ――!?そ、そういえば……あの時の……てか、今日のマリアベルはどこか……


 俺はヒューダインに指摘され、間抜けなことに、ここに来て初めて”それ”に気づいた。


 ――そして当のマリアベルは……


 ――蒼き竜の美姫は……


 「…………」


 悲しそうに、悔しそうに、蒼石青藍(サファイアブルー)の瞳を伏せる。


 「大方その女は”一欠片(ハーフピース)”であろう?……なるほど竜人族の半端者(おちこぼれ)と話に聞くが、中でもその女は極端に能力が低い(たぐ)いという事か」


 呪術導士(エロジジィ)の”一欠片(ハーフピース)”という言葉に……

 竜の欠片(ドラゴン・ハーフ)半端者(おちこぼれ)という蔑みタップリの響きに……


 「…………」


 蒼き竜の少女は、ただ桜色の唇を悔しそうに強く結んで俯く。


 「フハハハッ!竜人族?その人間以下の能力で最強種?竜の欠片(ドラゴン・ハーフ)如き失敗作が片腹痛いわっ!フハハァァーー!!」


 「……」


 ――マリアベル……


 あの生意気な女が、ただ言われるがままに言葉で嬲られるがままに……


 声を押し殺して屈辱に震えるだけで佇んでいる。


 「……」


 ――なんだか……ムカつくな


 俺の胸にチリリとなにかが燻る。


 「だが”半端者(けっかんひん)”でも竜人は竜人、哀れな欠片に大魔導師たるこの儂が情けをやろう。常人では味わうこともかなわぬ快楽を与え、これから執り行う、ありとあらゆる魔術儀式の末に髪の毛の一本、血の一滴まで、この儂が、大魔導師ヒューダイン=デルモッド様が活用し尽くしてくれようぞっ!!」


 「…………」


 呪術導士(エロジジィ)の馬鹿にした言葉、少女の白い肌に執拗に纏わり付く()()た視線……


 それにも、ただ無言で耐え続ける少女。


 「……ちっ」


 ――なんか……な、敵の攻撃にまんまと置いてきぼりにされたり、俺自身が”バカ”とか”死ねば良いのに”とか言われるより…………断然ムカつく


 俺の胸の中の燻りは徐々に大きくなってゆく。


 「さぁ、半端者(けっかんひん)の娘よ!運命を受け入れ、我が懐中に来……」


 「もう黙れクソジジィ」


 そう感じたときには既に俺は、行動を決めていた。


 「クソジジィ?この大魔導師ヒューダイン=デルモッドをクソジジイ?……口の効き方を知らぬ小僧が、身の程を……」


 「うっせぇ!お前の何処が大魔導師だ、このエロジジイがっ!俺が他に巨人対策を持っていないと思っているのかよっ!」


 俺は眼前の相手に啖呵を切ってから短剣(ダガー)を前面に突き出し、どう見ても太刀打ちできるようには見えない”霜の巨人フロスト・ジャイアント”に攻撃の構えをとっていたのだった。


「……斎木(さいき)(はじめ)?」


 蒼き竜の……しょぼくれ姫が、蒼石青藍(サファイアブルー)の宝石を僅かに上向け、無謀者を見ていた。


 「生意気なマリアベル(おまえ)だからな……どうせ、また俺を馬鹿だと思っているんだろうが……」


 俺はそんな視線を感じつつも――


 「まぁな、それもいい……マリアベル、お前はちょっと生意気な感じがきっと丁度良いんだろうよ」


 ボソリと呟いたそれは、多分、俺の本心だった。


 「ヴォ!ヴヴォォォーーーー!!」


 ――っ!!


 そして、大本命……(そび)え立つ白き巨人の咆哮が、戦いの再開を高らかに告げたのだった。


 ドスンッ!ドスンッ!


 地響きと共に小山のような巨体を左右に揺すって俺に迫る巨人。


 「……」


 ――どうする?どう戦う?


 ”霜の巨人フロスト・ジャイアント”……推定レベル40以上の化物。

 勿論、基本性能も人間種とは桁違いだろう。


 「……はは、そうだな」


 だが、どんな展開になろうと最終的に俺のとれる”策”は一つ。


 竜剣士ファブニールの時と同じ……

 絶対的強者に対する平凡な俺の唯一の”切り札”は――


 ――固有スキル”状態強制初期化(ちゃぶだいがえし)!”しか無い!!


 ドスンッ!ドスンッ!


 「……」


 で、問題はどうやって奴に、あの巨人の体内に……俺の血を与えるかだが。


 目の前の怪物の迫力につい弱気になる俺だが、頭に先ほどの蒼き竜の美少女の……

 俺を見る頼りなげな……けど僅かに”なにか”を期待した(すが)るような顔が浮かぶ。


 ――ちっ!やってやるぜ!応とも!やってやるよ!!


 俺は、なけなしの勇気と根性を総動員して短剣(ダガー)を低く構え、地面を掴んだ蹴り足の指先にまで力を通わせて……


 「身の程知らずで愚かな土下座男よ……死ぬるが良い」


 「斎木(さいき)……(はじめ)……はじめくん」


 薄ら笑いの呪術導士(カース・メイジ)


 頼りなげな美少女。


 ――ははっ!なに?このシチュエーション!!燃えるねぇ!!


 「死?知るかよっ!俺は瞬間(いま)、昔読んだ物語の英雄(ヒーロー)してんだよっ!!」


 ダダッ!


 叫んだと同時に踏み出す俺!


 「はじめ……くん」


 後方へ遠くなるマリアベルの瞳に僅かに光が戻り、頬が少しだけ朱に染まっていた。


 ――おおっ!!これって俺に惚れるパターンだよな!な!

 ――毛嫌いしてた相手に助けられ、その反動からメロメロに……


 ツンデレの”ツン”しか無かった俺の人生に、とうとう”デレ”期が到来だ!!


 「いっっくぞぉぉーー!!マリアベル!俺の勇姿に惚れるなよっ、いや惚れろっ!」


 かき集めた勇気と奮い立たせた気合い!


 そして清々しいまでの下心!


 いや、隠すこと無いこれは寧ろ上心だっ!!


 上心の意味は不明だが、走る俺の心は確かに”うわ”ついてはいた。


 「いっくぞぉぉぉっ!!」


 そこはかとない欲望”を胸に、俺は雄々しく敵に飛び込み……


 シュオォーーン!


 「なっ!?」


 霜の巨人フロスト・ジャイアントに向け駆けだした俺の目前に突如黒い霧が結集し、それは人型となる。


 ――お、おいおい?これってまさか……


 「愚か者めっ!!我が魔導の粋”大呪殺(カース・オブ・カオス)”があれしきで消え失せたと思うたかっ!!」


 このタイミングを待っていたのだろう、最高に愉しげに、歪んだ顔で叫ぶ根暗なジジィ!


 「ヴォヴォォッーー!!」


 と……霜の巨人フロスト・ジャイアント


 シュォォーーン


 行く手を遮るのは復活した”呪いの人影”……


 「…………」


 先ほどまでの勢いは何処へやら、一転、俺は……

 立ち止まって”それら”を静かにマジマジと……眺める。


 「(さい)()?」


 マリアベルは咄嗟に俺の意図、その行動を予期できず……


 彼女の美しい蒼石青藍(サファイアブルー)は、俺と”呪いの人影”と”霜の巨人”、その間を忙しく移動していた。


 「…………………………てった……」


 俺はボソリと呟く


 「え?な、なに?なに?」


 竜のお嬢様はそれを聞き直す。


 「撤退」


 「は?」


 俺はサッと真正面から蒼き竜の美姫に視線を合わせて叫んだ!


 「だから、てったぁぁーーいっ!!」


 「え?…………ウソウソ!なんで?ちょ、ちょっと……」


 キョどる美少女の白い手をむんずと掴み、俺は180度回頭して脱兎の如くその場から離脱する。


 ひゅぅぅーーーーん!!


 一昔前の漫画のように俺の足はぐるぐる回転してラーメンに浮いた”なると巻き”の様だったろう。


 「えぇぇーー!!ちょっとだけ見直しかけたのにぃーーは、はじめのバカぁぁーー!!」


 そしてその”なると巻き男”に手を引かれた美少女の叫びは悲しくその場からフェードアウトしていったのであった。


 第十二話「無謀者と啖呵」後編 END

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