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黄泉比良坂の巫女  作者: さくらさくや
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プロローグ

 「高知県○○市の○○山林道脇から転落していた大学生が通りががりの人に発見されました。

 見つかったのは都内に住む大学生18歳で都内から観光に訪れていて事故にあったものと見られてい ます。」

  それは五月の上旬に大手新聞の地方版に小さく掲載された記事だった。



 「熱い……」

 須藤優希は夏の青空を見上げて恨めしそうに唸った。

 彼の入院中に季節は春先からすっかり真夏に変わっていて校内の様子も夏休みを前にしたどこか浮ついた雰囲気に満ちていた。

 「知らぬ間に季節が変わってる……」

 そんな呟きを漏らしていた時「うおおっ」背後で驚いたような声があがる。

 「優希じゃん」 

 「よお健吾、久しぶり」

 健吾と呼ばれた男子は傍らに並んだ女子と顔を見合わせた。

 「お前……生きてたんだ……」

 まるで幽霊でも見るように本気で驚いているような友人の反応に苦笑いを浮かべる。

 「生きてるよ」

 さっきから会う友人みんなが一様に同じ反応を見せ、その度同じセリフを返した。

 

 

 

 「まあ、それも仕方なかろう」

 久しぶりに顔を出したサークル棟の一室でパソコンモニターから視線を外した長谷部佳奈は久しぶりに顔を見せた部員にそう言った。

 ここは都市伝説や実話怪談など不思議系のネタを探求するサークルの部室だ。

 部屋の中にはその手の本屋雑誌が乱雑に積み上げられている。

 長谷部佳奈は優希の先輩でこのサークルの部長だ。

 「君が死んだ、と言う第一報が流れただけだったからな……その後すぐ一年生にアイドルの誰とかが入学してたとかで皆君の事は忘れられてしまったからな」

 「なんですか、そのしょうもない理由は? 俺ってそんな影薄かったんですか!」

 「私はちゃんと覚えていたぞ」

 「大学側や警察にも色々聞かれたしな……なにせ当の本人に当時の記憶が無いのでな」

 そう言って疲れたように溜息を吐く。

 「すいません」

 「それで、本当に何も覚えていないのか?」

 佳奈の視線は今度は真っ直ぐに優希を見つめた。

 「んーっ……それが何も覚えていないんですよ……とにかく目覚めたら病院で……」

 優希は椅子を佳奈の机の前に引き寄せると座った。

 「すげー大怪我もしてるしで……親父には殴られるはお袋には泣かれるしで大変だったんですよ」

 「まあ、東京の大学に通ってると思っていた息子が四国の山の中で大怪我して保護されたって聞けば、まあ、そうなるだろうな」

 佳奈「フン」と口の端を歪めた。

 「ああ、その節は先輩にもご迷惑を……」

 「まったくだよ、学校側からは何か危ない事をしてるサークルだと思われるし警察からは……」

 そこで佳奈が口を淀ませた。

 「やっぱり先輩の所にも来ましたか……」

 「君の趣味とか交友関係とか四国に行った理由とか……ほんと……色々ね」

 「警察、変じゃありませんでしたか?」

 「変……とは?」

 「だって俺、轢逃げにあったんでしょう」

 そう言うと怪我をした手足をぶらぶらと振って見せた。

 「そう聞いている」

 「でも警察の態度が交通事故の捜査では無いような……なにか事件の捜査見たいな……とにかく、エラく厳しかったような」

 優希は手を顎に当てると眉間にシワを寄せた。

 「君は誰も行かないような山の中で崖下に転落してるところを発見されたそうだよ。警察の話しでは上の林道で車に轢かれて落ちたんじゃないかって」

 「そうなんですか?」

 「あくまで状況から見ての推測だ、当の本人にまるで記憶が無いのだから」

 「でも警察が問題にしてるのはむしろこっちの方かも」

 佳奈はキーボードに何かを打ち込んだ。

 「まあコレを見て」

 「?」

 優希は佳奈の隣に立つとモニターを覗き込んだ。

 それは街一つが壊滅するような大火事のニュースだった。

 「コレが?」

 「場所と日付!」

 佳奈が指先で示した先を須藤が音読する「五月四日……高知県……」佳奈がその横顔を凝視している。

 「先輩……これって……」

 「そう、君はあの日そこにいた」

 記事の内容は高知県のある街で起こった小さな火事が街全てを飲み込む大惨事になってしまっ事を告げる大手新聞のネット記事だった。

 「なお、火事の原因は不明、警察は放火の疑いも視野に捜査している……」

 優希は警察に第三者の存在をしつこく聞かれた事を思い出した。

 「先輩、俺もしかして疑われてる?」

 「街一つが消失してしまうような大火事、近くの山の中で大怪我して見つかった他県の人間。警察が関連性を疑うのも無理はないと思う」

 「先輩そんな人事みたいに」

 「慌てないの!その後火事は普通の失火だったって事になったから、君の件は普通の交通事故って事になったから」

 「よかった」

 優希は「ふーっ」と糸息吐き出すと椅子に座り直した。

 佳奈も両手を組むとその上に顎を乗せた。

 「警察に彼は高知県には何をしに?って聞かれて「四国でゾンビが現れたって噂を聞いたので」って流石に言えなかったわ」

 「ゾンビって……」

 ギョッとした須藤が「?」マークを浮かべて佳奈を見た。

 「なんだ、本当に全部忘れてしまったんだな」

 佳奈が溜息を漏らした。

 「君が四国へ行った理由だよ」

 「オレが四国へ行った理由?」

 「四国で死人がうろついているって言うスレットを見て飛び出していったんだよ。ちょうど連休じゃんって言って……本当に覚えていないのか?」

 そう言われて優希は考え込んでいたがやがて首を振った。

 「そうか……警察には言えないような事があったんで記憶が無いフリをしてるのかもと思っていたんだが……」

 佳奈はそう言うと落胆したように寂しそうに少しだけ笑みを浮かべた。

 (ああ、まただ)

 優希はこのサークルに入って最近気づいたの他の会員は肝試し感覚でこのサークルに所属しているのにこの長谷部佳奈という先輩は得体の知れないモノの存在を本気で信じそして追っていると言う事だった。

 「オレが何か隠してるって、どうしてそう思ったんですか?」

 「ああ」

 佳奈の顔にはさっきまでの落胆の色は無かった。

 「だってこの火事は普通じゃないだろう……別に強風が吹いていた訳でもないのに街一つが消失するって、ありえないだろう不通!」

 「そして死人がうろついているという情報を確かめに言った君が大怪我……もう何かがあったとしか考えられないだろう」

 「先輩考えすぎですよ」

 「考えすぎか……」

 佳奈は机の上に視線を移す。

 意味も無くマウスのホイルを指先で弾いていたがやがて呟いた。

 「君は、君はしっているか」

 「何ですか?」

 「君が発見された時、君の心臓が止まってたのを……」

 「まさか……親父達空は何も聞いてないです……」

 優希は口を噤む。

 それでも今となっては思い当たる節もある、目覚めた時の両親のうろたえぶりだ。

 怪我自体は確かに大怪我ではあったが、意識が戻ったばかりのけが人をいきなり殴って看護師に取り押さえられる程取り乱していた。あの時はそれだけ心配かけてしまったんだと思っていたが、

 「まさか……死んでいたなんて……あっ、これって甦りですね……」

 言ってしまって「はっ」とする。

 「そう……君は死人が甦ると言う都市伝説を調べにいって自ら都市伝説になってしまった……と言う事なんだよ」

 「そんなのありかよ……」

 優希は言葉が出なかった。

 佳奈は考えあぐねた末ある疑問を口にした。



 「君は……本当に須藤優希……本人か?」

 「先輩何……」

 一瞬佳奈の冗談かと軽口を叩こうとした優希の口が閉じた。

 佳奈の目がじっと優希を見つめていた。

 そう言われても彼には自分は自分だと言うしか無かった。

 「先輩、何かあるんですか?」

 「何か……と言う事でもないのだが…昔話があるのだよ……」

 「昔話ですか?」

 「昔、あるお坊さんが死体を甦らせた事があったんだが……甦った死体には人間らしさがまるで無かったという事だ……」

 「何ですかそれ」

 「死体に戻ってくるのが本人の魂……だとは限らないと言う話しだな」

 「いや……俺は俺です……」

 無論優希自身それを証明する事は出来ない。

 「それに、その話しって昔話でしょう……それが本当にあったとは限らないじゃないですか」

 「そうだな、単なる昔話……だな」

 佳奈の表情に一瞬影が射したように見えた。

 「せめて何が君自身に起こったのかが分かればな……」

 それも無理だった。彼自身にまるで記憶が無いのだから……

 「ふむ……」

 佳奈が表情を緩めた。

 「考えすぎも良くないかもな、単に蘇生したと言う事かもしれないからな」

 「蘇生?」

 「臨死体験って奴だ……あるだろう綺麗な花畑があってその先には川が流れてて、その対岸で死んだおじいちゃんにまだ来るなって言われて目が覚める。後で聞くとその時心臓が止まっていた……って話しだよ」

 「ああ」

 優希は頷いた。「すいません、川にもじいちゃんにも会った記憶が無いです」

 「本当に君は使えない奴だな、せっかくのチャンスだったのに!」

 佳奈は何時ものように口元を歪めて悪戯っぽい笑みを浮かべた。



 〝ガチャッ〟

 二人の背後で部室のドアが開けられた。

 「あれ、優希生きてるじゃん」

 開口一番柿崎裕二は信じられないモノを見た……という顔をした。

 「ほら」

 「……」

 優希と佳奈が顔を見合わせて笑う。

 

 

 「ああ、そうそう」

 面白い話を聞いたんだ……そう前置きして彼は今仕入れたばかりだと言う話しを始めた。

 それは「十三人峠に現れる白装束の集団」の目撃談だった。


 

 

 

 

  

 

  

 

 


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