君と絡む温かな僕
僕は足が好きだ。
性別を問わず、声も問わず、体格も問わず、足が好きなのだ。
僕の世界には素足しかないのだが、その素足に愛を見出した僕の話を聞いて欲しい。
僕は今日、恋をしたのだ。
すべすべの真っ白な足は、躊躇いがちに僕に触れ、「ほう」と柔らかな吐息が降り注ぐ。
これまで散々見て来た……いや、触れて来た足の中でも特に極上。
元々体毛の薄いであろう皮膚に、吸い付く様なしっとりとした感触。指先は僅かに握ったり開いたりを繰り返し、僕を昂らせた。
ゆるりとたゆたう君の温もり。
触れられた途端に、好きになっていた。君も同じだと良いのだけれど。
……もっとも、僕には手は無い。仮にあったとしても、伸ばしても君の指先を掴む事は出来ない。
バカだねと苦笑い。僕に出来る、精いっぱいの感情表現だ。
「あつっ!」
僕の苦笑いは熱かったらしい。と、すれば、さしずめ僕は、孤独の太陽と言ったところか。
僕の感情は君に心の熱を伝え、君はそれを重いと思った。
切ないが、これは覆しようがないだろう。
「大丈夫?」
「あ、う、うん。何だか急に熱くなった気がして、びっくりしちゃっただけ」
君は隣の男の問いかけに、笑顔で答えた。
僕に触れているくせに、隣の男がそんなに好きか。いいや、勿論僕だって隣の男の事も好きだ。
女性よりも大きな足に、筋肉質なふくらはぎが何とも言えない。すね毛に空気を孕みながらも、気にする様子もなく微笑む様は、さぞイケメンだろう。
僕としては、空気は勘弁してほしい。あいつが居るだけで、触れる面積が小さくなる。
「あー、でも、もう結構熱くなって来たかも。見て、汗が出てきちゃった」
「ホントだ。拭いてあげようか?」
「えー? じゃ、拭いて貰っちゃおうかな」
こんな光景を見ているだけで、胸が張り裂けそうだ。
一目ぼれをしてしまった僕が悪いのだろうか。だが、僕の事を完全に無視して、仲良くしている二人に、嫉妬せずにはいられない。
「本当にちょっと熱いかも」
「足湯? だよなー。何か温度上がってるっていうか」
僕は嫉妬して、嫉妬の余り熱くなった。
……所詮、足湯と人間の関係。いくら恋い焦がれても無駄なのだ。分かっている。だが、この湧き上がる感情はどうにもならない。
「あ、足湯だー!」
「ねぇ、入っちゃう?」
「入っちゃおうよー」
僕が自分の感情を持て余していると、女性の声が聞こえた。
彼女達は、するりと靴下を脱ぎ、あるいはジーンズを折り、更にはストッキングを脱いだようだ。
女性特有の柔らかな足裏が、僕を撫でる。
……わ、悪くない……。
ちゃぷ、と、僕をかき分けて、三人分の足が入り込んできた。
少し浮腫んだ足も、筋肉質な足も、あまり使われていない足も、どれも素晴らしい。
「ね、もう上がろうか」
「だな」
ちゃぷり、と僕の中から足が二人分消える。丁度、僕の恋した彼女の足が無くなったのだ。
例え、君が人のものでも構わない。醜い嫉妬心をむき出しにして悪かった。その上、他の足に浮気をしてしまった僕を許してはくれないか。
『また来てよ。君に逢いたい』
心の中で呟くも、きみに聞こえるはずもない。
ちゃぷ、とまた、僕の中に他の人の足が入り込んだ。
そう、僕は、足湯……。ここから動けぬ運命。
それでも君を愛していたよ。
今入っている三人の女性よりも、きっと君が好きだった。出来たらまた、君と絡み合いたい。
ちゃぷり、と、また一人、僕の中に足を沈めた。
……あ、今入ってきた君、いい足をしているね。僕と濃厚に絡まない? 君、凄くタイプなんだけど。
男? ああ、構わないさ。
だって僕には、性別が無い。人の足を愛する、足湯なのだから。