誰ぞ 我が身に
誰ぞ 我が身に 火を放ちたまえ
枯れたる この身に 火を放ちたまえ
我 齢三十を越え 未だ 何事も成し得ず
この手は 何らの業も持たず
暮らしの日銭 稼ぐこと 甚だ難し
この心は 稚気を引きずりて 悟ることなく
暮らしの先行き思えば暗く 鬱々と沈みたり
鏡に映りたるは 無為に老いたる男の顔
目じりには 醜き皺 刻まれ
かしらには 黒き髪に紛れ 白きもの混ざりたり
我が身を蝕む老いの速きこと
竜宮にて戯れた 浦島の如し
ああ されど 我が辿りし半生
浦島の物語と比して 甚だ惨めなり
麗しき乙姫の姿なく 華やかなる城もなし
暴徒より亀を救うが如き 活躍もなく
ただ 玉手の箱のみ 生来抱え
漏れ出ずる煙に 咽びつつ 刻々と蝕まれん
我が齢 三十を越え
もはや 何事かを為す気力なし
枯れたる心と 枯れたる体
ただそれのみが 我に残されしものなり
願わくば
誰ぞ 火を放ちたまえ
枯れたる この身に 火を放ちたまえ
それ故に 我が命尽きるとも 構わず
この身を糧に燃ゆる炎が 凍える者を暖める
而して 我が身は灰と散り逝かん
ただそれのみが 望みなり