超特務機関GALDO
1.鋭龍 改悟、現る
「鋭龍 改悟、入ります」
彼の名前は鋭龍 改悟。この超特務機関GALDOの職員だ。超特務機関GALDOは、魔導の脅威からこの国を守る為に出来た特務機関だ。
「んで、今回の任務は?谷地馬さん」
「今回は、エングレイド一体の捕獲だ。引き受けてくれるか?」
「エングレイド?そんなのB級の奴等でも倒せるじゃねーか、何でS級の俺が出なきゃいけねーんだよ」
エングレイドはこの世の魔導怪獣の基本とも言える魔導怪獣だ。GALDOの入隊試験ではエングレイド一体の狩猟をする。
「いや、そうとも言えないんだ。今回のエングレイドは、『希少種』だ」
「希少種…そうか。了解だ、1時間で片付けてやるぜ」
「分かった。報酬は多めに出しておく、制限時間は2時間だ。全力で殺って来い。契約書はもうできている」
改悟は契約書にサインをし、部屋を後にする。長い廊下を歩き、ロッカールームに着いた改悟は服を脱ぎだす。Tシャツを着ていたからわからなかったが、改悟はその凛とした顔に似合わず整った筋肉をしていた。改悟は言わば、『着痩せ』タイプだ。やっぱりGALDOの職員をしているとこう綺麗な筋肉になってしまうのである。改悟は自分のロッカーを開き、その中から1着のYシャツを取り出し、着てボタンを全部閉じ、ズボンもジーパンから黒のスラックスに履き替える。ちなみにロッカーの中には、換えのシャツやスラックスが入っており、その他には戦闘用の胸部プレートアーマーや腕部アーマーが入っている。改悟は胸部プレートアーマーを着け、学ランの様な制服を着る。その後腕捲りをし、ロッカーを閉めロッカールームを出る。ロッカールームを出た改悟はまた長い廊下を歩き、武器庫に入る。
「えっとー、785562、785562はーっと…あった!」
自分の武器を見つけた改悟は、武器を手に取り武器庫の外に出た。改悟の武器は『バスターソード ヴァラン・ドラスト』だ。バスターソード ヴァラン・ドラストは改悟の為に作られた武器で、本体の剣と鞘を合わせると、約50kgにもなる剣だ。改悟はそれを片手で扱うのだ。改悟はヴァラン・ドラストを背中に装着すると建物の外に出て門の外に出た。門の外には大きな街が広がっており、高層ビルが空を貫いていくようだった。改悟は愛車のバイクに乗ると街に向かっていった。街の近くに来ると、大きな鎧が突っ立っている。エングレイドは黒い鎧を身に付けているが、今回は赤みかかった紫の鎧だ。そう、これがエングレイド希少種である。
「よっしゃー、いたなデカブツめ!俺の名前は鋭龍 改悟!超特務機関GALDOの職員だ!今から貴様を狩らせていただく、容赦は無用、行くぜー!」
改悟はバイクから降りエングレイドに右ストレートをお見舞いする。改悟の右ストレートはエングレイドの胸部に辺り衝撃でメキメキとヒビが入る。エングレイドの鎧は生れつき持っている物なので痛覚があり、鎧の砕かれると痛みが走る。鎧の一部を砕かれたエングレイドは、
「GuAAAAAAAaaaaaaaa‼︎‼︎」
と雄叫びを上げ、太い右腕をあげる。改悟はエングレイドの攻撃を間一髪で避けるとヴァラン・ドラストを抜き、左足に叩きつける。ヴァラン・ドラストの一撃は改悟のパンチとは桁違いの威力でエングレイドの左足をへし折っていく。
「これで最後の一撃だ!」
改悟はエングレイドの眉間に飛び込みヴァラン・ドラストを振り下げる。エングレイドの頭殻は砕け散り、身体に合わない脳までも斬っていく。身体の外骨格とも言える鎧を真っ二つにされたエングレイドは内臓が飛び散り、ただ動いているのは、無駄に大きい心臓だけだった。心臓はドクンドクンと鼓動を打っていたが改悟はヴァラン・ドラストを心臓に刺し、大量の返り血を浴びる。
「チッ、またシャツが汚れた。なかなか落ちないんだよなー、このシミ。」
改悟はヴァラン・ドラストを鞘に収め谷地馬に連絡をする。
プルルルルルル、ガチャ
「あ、谷地馬さん?鋭龍 改悟です。エングレイド希少種一体、片付いたんで後片付けお願いします」
『分かった、今すぐ部隊をよこす。まっていてくれ』
改悟は電話を切り、真っ二つにした頭殻の片方に腰掛ける。暫く待っていると、建物の方からトラックが一台きたのだ。
「部隊の方も来たようだし、俺も帰るか」
改悟は愛車のバイクに乗り、また基地へと帰っていった。
……………
…………
………
「おい!こいつはどういう事だ!契約書には『エングレイド希少種一体の捕獲』と書いてあるだろ⁈」
谷地馬は凄い剣幕で改悟を怒鳴りつけていた。
「だって谷地馬さん、ぶっちゃけ言って捕獲も試みたんすよ。けど、あそこまで粉々に粉砕しちゃったら、捕獲も討伐も一緒じゃないっすか?」
谷地馬は深いため息を吐き、
「まったく、君にはウンザリしたよ。今回の報酬は全体から80%引かしてもらうよ。そして、君はまた小隊活動を行ってもらう。ランクも、S級2位からS級10位まで落とさせてもらうよ」
改悟にとって、S級2位からS級10位まで落とされるのは痛かった。これにより、仕事の量がガクンと下がる。ちなみに、S級の1位は、未だに小隊活動を行っている『十文字 榴斗』だ。
次の日になった。
「ここが、俺の配属された二〇小隊か」
改悟は部屋の扉を開け、
「失礼します、本日から二〇小隊に配属されました、鋭龍 改悟です。ランクはS級10位、よろしくお願いします」
と、部屋の中に入った。部屋の中の人達は改悟の方を向き、歓迎する。
「二〇小隊にようこそ。俺の名前は蒼㷔 大榮、今、この二〇小隊のリーダーをやっている。よろしくな」
「どうも、俺の名前は寒河江 鎧。二〇小隊の武器開発担当みたいなもんだ。よろしく」
「初めまして、僕の名前は刃柴 葬也。狙撃担当、5000mだろうが10000mだろうが全てを撃ちぬきます。よろしくお願いします」
「まぁ、中に入って、隊長殿」
「隊長?何で俺が?」
「さっき、ランクを言っていたでしょ?僕たちのランクより高いから隊長なんだよ」
大榮のランクはS級18位、鎧のランクはS級23位、葬也のランクはS級32位と、どれも改悟のランクより高くないのだ。小隊のリーダーは隊員の中で一番ランクが高い人がなる役職で、新人でもランクがその他の隊員より高ければその人が隊長になるというシステムだ。
「なあなあ、改悟!この剣、見ていいか?」
「別にいいけど、重いよ」
「大丈夫。…これ、武器ナンバーは?」
「武器ナンバーは785562だ」
「78ナンバー⁉︎す、すげぇ!こう武器を何百万本、何千万本と見たけど78ナンバーは滅多にお目にかかれない代物だ!」
この時代、武器はナンバーにより登録され、武器による犯罪もガクンと減った世界。改悟のヴァラン・ドラストの場合、ナンバーは785562。785562の78は、武器のレア度を表す。最高ランクは80で、80ナンバーともなると国宝級の武器であるという。警察の使うようなピストルはだいたい、05〜12くらいである。785562の5562は、その武器のナンバーとなる。このナンバーは武器を所有するにあたって行う防犯登録みたいな物だ。殺人や殺傷事件があった場合、事件の時間帯の防犯カメラを調べ、武器の種類を特定できれば犯人は簡単に捕まえられる。
「お前等の武器も見せてくれないか?」
すると、大榮は制服のジャケットの下に手を入れ二丁の銃を取り出す。
「俺の武器はこの二丁、名前はブラス・ガロンだ。武器ナンバーは598654だ」
ブラス・ガロンを改悟の前に置いた大榮は銃の説明を始める。次に持ってきたのは鎧だった。
「この剣は、帯電剣 トルマリン。武器ナンバーはEE7142だ、自分で作ったから登録はしてもレア度はわからないんだ」
鎧は、二〇小隊の武器開発担当みたいな物なので、武器を作成するのはお手の物なのだ。
「僕の武器は対戦艦ライフル レブラス・ダートスだ。武器ナンバーは425631」
と、葬也が取り出したのは自分背丈と同じかそれ以上の長さがある狙撃銃だった。対戦艦ライフルは、世界歴1355年になってから作られた狙撃銃で、戦艦のブリッジを一撃で狙い撃つために作られたのだ。戦艦を狙い撃つため、5000m級の狙撃はもちろん、10000〜100000m級の狙撃を行う事もあるため、精度と威力は対戦車ライフルの何百倍もある。そのため、とても重く、精密機械を大量に使い、そして、とても扱いにくいという狙撃銃だ。改悟は全員の武器を見終えると、
「お前等の戦闘能力が見たい。谷地馬さんに頼んで何か依頼を取ってくる」
と、言って部屋を出る。改悟は長い廊下を歩き、谷地馬の部屋に入る。
「失礼します、谷地馬さん」
「改悟か?入れ」
といって、谷地馬は改悟を中に入れる。
「谷地馬さん、なんかいい依頼来ていない?」
「ああ、そういう事か。すまないな、今はいいのは来ていない」
「そうか、済まなかったな、谷地馬さん」
そう言われると改悟は部屋を後にし、自分の小隊部屋に戻る。
「皆んな、済まないな。いい依頼が無かった」
「いいよ、改悟。俺らはまた今度にするぜ」
大榮はそう言って小隊部屋を出る。その後、12時になり昼休みになった。改悟はいつもは社食でカツカレーを食べるが、仲間との信頼関係を築く為近くの食事処で食べることにした。
「大榮、隣いいか?あれ?鎧や葬也は?」
その食事処には大榮しか居なかった。改悟は大榮の隣に座り、テーブルに置いてあるお品書きを見る。
「カツカレーないかなー」
改悟はカツカレーがあるかしばらくの間探し、カツカレーを注文する。少しの間待っていると、カツカレーが出て来て改悟の目の前に置かれる。改悟はカツカレーをかき込み、コップ一杯の水を飲み干す。大榮は隣でラーメンをすすっている。その時、外で爆破音が聞こえてきた。すると改悟と大榮の携帯に同時に連絡が入ってきた。
『諸君、聴いて欲しい。只今、将台市南部で爆破が起きた。想定では、Sランク相当の魔導怪獣がいる。近くのGALDO職員は全員向かってほしい』
「大榮、一番近いのは俺達だ。行くか?」
「ああ、行くぜ」
と言って店を出る。改悟は一旦、基地に戻り、胸部プレートアーマーを付け直す。そして、ヴァラン・ドラストを背中に装着し愛車のバイク、ハシカワ S3800 颯に乗る。全速力でバイクを走らせ現場に着き、改悟は辺りを見回し警戒する。
「改悟、来たか。ちょっと市の中を見てくる」
と言って大榮は腰からブラス・ガロンとは別の銃を2丁取り出し、弾倉を確認する。大榮が弾倉を確認し終えるとまた爆破音が聞こえてきた。
「近い…!」
改悟は背中のヴァラン・ドラストに手をかけ、構える。
「爆破音の間隔が短くなっている、それに近い!」
その時だ、確認に出た大榮の叫び声が聞こえてきた。
「大榮‼︎」
大榮は建物に打ち付けられ、その場に倒れ込む。その後すぐに大きな鎧が現れた。エングレイドに似ていたが、亜種でも無ければ通常種でも希少種でも無い。エングレイドの場合、斧を持っていることが多いが、今回は剣を持っている。
「未知の魔導怪獣だと…?」
魔導怪獣はリスト化され保管されているが、此奴はどの魔導怪獣にも当てはまらない。すると、改悟の携帯に連絡が入った。
「改悟、そいつは魔導怪獣じゃない。そいつは、『元英雄・アーサー・ペンドラゴン』だ。改悟、お前に討伐命令を下す。報酬は多めに出しておく、いいな⁉︎」
「了解だ、谷地馬さん。さて、英雄狩りの始まりだ!」
と言って改悟はヴァラン・ドラストを抜く。アーサーもやる気があるのか、剣を構え改悟の方を向く。改悟はヴァラン・ドラストを振り、的確に当てていくが、鎧がなかなか砕けない。改悟のヴァラン・ドラストは鉄でも砕くことができるが、アーサーの鎧は砕くことができない。
「伝説ではアーサーの剣はエクスカリバー。エクスカリバーの鞘は自動修復機能が付いているはず」
改悟は狙いをエクスカリバーの鞘に定め、一気に破壊に出る。
「チッ、やっぱ一撃じゃ壊せねぇか。まぁ、何回も叩き込んでりゃそのうち壊れるだろ」
と、鞘目掛けて斬り込んで行く。第6発目で鞘は破壊され、アーサーを囲んでいた結界が壊れた。
「よし、結界が壊れたなら後は5、6発くらい叩き込みゃあいいだろ」
と、改悟は攻撃をアーサーの兜に集中させる。兜は後、何撃目かで割れるくらいだった。アーサーは剣を地面に突き刺し、右手を前にする。手からは魔法陣が出て、白く光った。
「まさか、固有魔法を使う気か……⁈今ここで固有魔法を使われたら、どれだけの被害が出るんだよ⁈」
白く光った魔法陣からは、ビーム光線のようなものが出て改悟を攻撃する。改悟はヴァラン・ドラストの刃で受け止めるが、足掻きも虚しく近くのビルの壁に叩きつけられる。
「いててて、チックショー!こうなったら、本気で狩りに行かねぇとな!ヴァラン・ドラスト、形態移行、さーて、魔導狩りの始まりだ!」
すると、ヴァラン・ドラストの刃が割れ、柄の部分に近いシリンダーが回転し始める。
「ヴァラン・ドラスト、魔導狩りモード発動!俺のヴァラン・ドラストは、対魔導合金『ウェルドニウム合金』で出来ている。刀身で吸収した魔力を弾として放つ、それが、俺のヴァラン・ドラスト、魔導狩りモードだ!」
改悟はヴァラン・ドラストの剣先をアーサーに向け柄を両手で持つ。
「さっきの魔法で魔力は溜まった。これで、あれが放てそうだ!ドラストキャノン‼︎‼︎」
改悟はヴァラン・ドラストの引き金を引き絞り、割れた刀身の中からオレンジの閃光が放たれる。
ズドォォォォォォォン‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎
という衝撃波と共に、アーサーは灰と化した。ヴァラン・ドラストは、シリンダーの一部を開け冷却を開始している。
「この技使うと斬れ味落ちるんだよなー、めんどくせ、また研がなきゃいけねーじゃん」
鉄さえも砕くヴァラン・ドラストでも刃毀れすることもあるのだ。
「さて、後始末はC級に任せて帰るか」
改悟は冷却の終わったヴァラン・ドラストを鞘に収め、現場を後にする。
……………
…………
………
「改悟、君のお陰で将台市の全壊は免れた、ありがとう。今回の報酬は【¥1000000】となっている、いつものように口座に振り込んでおいていいな?」
「ああ。あと、俺の壊した道路や建物の修理代は報酬の方から引いといてくれ。盛大にぶっ壊しちゃったもんなー」
谷地馬は頷き、改悟の手を掴んだ。改悟は谷地馬と握手を交わし、部屋を出る。改悟は自分の小隊部屋に戻り部屋の扉を開ける。扉の中では盛大なパーティーが行われていた。
「改悟、お疲れ」
と言ったのは、頭に包帯を巻いた大榮だった。
「はい、これ、刃毀れしていたから直しておいたぜ」
鎧からは、ピカピカになったヴァラン・ドラストを受け取った。
「改悟のお陰でウチの小隊のランクが少し上がったから、歓迎会兼改悟お疲れ会を開いたんだ。心を込めて作ったんだ。ド素人の作るカツカレーだから口に合わないかもしれないけど、みんなで作ったんだ」
と、葬也からカツカレーを渡され、改悟は美味しそうな見た目と鼻腔をくすぐるスパイシーな匂いに目を輝かせる。改悟はカツカレーを一気に掻き込み、満足気な顔で皿をテーブルに置く。
「ありがとうな、皆んな。俺の為にこんな事やってくれて。カレー、美味しかった、ぜ!」
と右手を突き出し親指を立てる。こうして、改悟の部隊は結束を深めるのだった。