謎の青い薔薇とホーエンハイムさん
「おーい、ごめんください〜な!
ホーエン居るう?
居たら返事してくれよ。」
朝から爽やかなイケメンのカナディアの声が、不思議な洞窟住居に響く。
「ハイホー!朝から何の騒ぎだべ?」
モソモソと小さな扉が開くと、大人と言うよりショタショタしい体格なのに、髭とかはえてるアンバランスなドワーフとノームのハーフがあらわれた。
ショタなのに、大金槌とか斧とかブン回す方向性の青年だ。
俺より少し年上の19歳とか信じられない可愛いさだ。
「ハイホー!起こして御免よホーエン。
実は昨日一緒に居たキルケアとジェインがまだ帰宅して無いんだ。
特にジェインは女の子だからご家族が心配して来て、探してる所なんだ。
昨日君らと別れた後の事教えて欲しいなって思ってさ。」
始めは目を擦って寝ぼけ眼だったホーエンさんは、途中から驚きで目が覚めたらしく、じっとこちらを見ていた。
ハイホーはどうやら挨拶らしい。
「えっと…そちらさんは?」
俺の方を眺めて首を傾げる。
初対面だしな。
「ハイホー?えっと、初めまして。
俺は翡翠、翡翠・風魔。
風魔が姓になる。
俺ジェインと幼馴染でさ、キルケアとは親友なんだ。」
「そそ、翡翠は心配して俺も心配して声掛けてくれてさ、で、昨日君と一緒に居たのが最後だったし。」
などとカナディアは説明を続けてくれた。
「なるほどだべ…。」
とうなづく。
「あんたが二人が良く話していた翡翠君け、だからなのか何か初めてなのに不思議と懐かしい感じだべ。
まぁここだと何だし、中に入って欲しいべ。」
…一体奴らは俺の事の何を話したんだ?
聞くのも怖いが、知らないのも何だかなぁと少し遠い目をしつつ、俺はホーエンさんを見つめかなら彼の家にお邪魔させて貰う。
ホーエンさんことホーエンハイムさんは、俺たちに昨日の事を教えてくれた。
何故か前世で住んでいた群馬の田舎のおばあちゃんみたいな方言を駆使して。
ドワーフかノームの方言なのかな?
きっと、ノームだな。
グンマーにドワーフの居そうな洞窟や金山銅山ガチで極小みたいだし。
それはさて置き、ホーエンさんの話を纏めると。
夕方近くまで採掘作業をする為の魔物殲滅や追っ払う作業を二人にして貰って、一通り作業を終え。
クエスト終了のスタンプを専用用紙に記したものを二人に渡してから普通にダンジョン入り口近くで別れたそうだ。
因みにスタンプ用紙を冒険者ギルドに提出すれば、クエスト終了の報酬を得ることが可能だ。
何でも、採掘用のダンジョンと繋がる結界付きの別の出入り口が有り。
そちらは通常の冒険者とは違い、細かな洞窟住居に住むドワーフ達の様な鉱夫スキル持ち達のギルド登録者のみ通過出来るそうだ。
そうして決して無限では無い資源の盗掘防止措置にもなっていた。
要は鉱夫達以外の持ち出し禁止措置だった。
「だから、わしが別れたのは夕方で、夕陽が見える位だったから。
居なくなったのはそれより後だと思うべ。」
困った表情でこちらを見上げてくるホーエンさん。
何このわしとか言っちゃうショタ可愛いなぁ。
髭あるけど!
二人の一件無かったら頭もしゃもしゃ撫で回したい。
小動物のように、小動物のように!
いや、落ち着け俺。
「夕方…あ、ホーエン、二人と一緒の時、何か変な気配とか人影見なかったかい?」
カナディアが冷静に質問を始めた。
「変な気配…わしは分からなかったけど、時々キルケアが神経質そうな猫みたいに目を細めたりしてたべ。」
「…索敵してたのかな?」
「キルケアなら索敵範囲広そうだから、有りそうだね。」
「後なにか気付いた事とかは無いかい?」
「ん〜?」
少し考え込んだ後、ホーエンさんは顔を上げた。
「今回じゃ無いんだけど、キルケアとジェインそれぞれ別々で数回採掘補助を手伝ってもらった後、不思議な事に我が家の前に青い薔薇が置いて有ったべ。」
「青い薔薇?」
カナディアと俺は顔を見合わせる。
「新しいダンジョンの中に咲いてる新種の青薔薇だべ。
冒険者ギルドの連中は興味の無い話だろうけど、鉱夫ギルドにとっては違うだべ。」
「新しい鉱物でも出るとか?」
「アタリだべ。
普通鉱物の有る場所には花は咲かないんだべ。
でも魔鉱薔薇は違う、赤薔薇ならブロンズ、黒薔薇ならアダマンタイト、黄薔薇ならゴールド、白薔薇なら白金、桃色薔薇ならヒヒイロカネ、紫薔薇ならオリハルコン。
水色薔薇ならミスリル
そして青薔薇は、エクティカルコア、オリハルコンより古い神代の鉱物を含んで咲いて いるんだべ。」
「それって、植物って言うより鉱物の結晶の花?」
「細けえことは知らねーけど、それで合ってるべ。
まぁ、そんなもんが何で我が家の軒先に定期的に置かれてたかサッパリだべ。
ただ、取っておいてあるから今持ってくるべ。」
カナディアと顔を見合わせる。
答えに近付きそうで謎が増えて行く感覚がした。
カナディアも同じなのか肩を竦めていた。
「これだべ。」
ホーエンさんに差し出された青い薔薇は花束になっている。
とても綺麗な青色なのだが、軽く触れても花独特のやわらかさは無い。
だが魔鉱結晶の花な為か、枯れる要素の無いのに香り立つのだ。
故に、不思議な造花染みていた。
「薔薇は全部で12本、そのままだと不恰好だから花束にしたんだべ。」
そう言って、俺にホーエンさんは青薔薇の花束を差し出した。
おっかなびっくりそれに触れる。
カチッコチッカチッコチッ
カチッコチッカチッコチッ
カチッコチッカチッコチッ
ゴーンゴーンゴーンゴーン
ゴーンゴーンゴーンゴーン
ゴーンゴーンゴーンゴーン
何か音が聞こえた。
刻を刻む秒針と、刻を報せる鐘の音。
「え?刻の音?」
俺の言葉に二人は不思議そうに首を傾げた。
「わしには何も聴こえ無いべ。」
「何が聞こえるの?」
あんなに大きな音なのに…。
俺が刻を報せる音が聞こえたと言う前に、世界が真っ白に反転した。
「あなたなら、来て下さると信じておりました。
我が君。」
真っ白な空間に浮かぶ真っ白な長い髪の真っ白なロングドレスを着た乙女が微笑んだ。