姫と奴隷君②
「そこな奴隷、貴方の名前をこのわたくし、トリニティ・レオ・アメージュ第1皇女が付けてさしあげるわ。」
偉そうにもったいぶって仰々しくトリニティは言い放った。
「は?え?僕はレツって名前があるよ?」
僕はポカーンとしたまトリニティと言う高笑いが好きな異世界の皇女(お姫様の事だよな?皇女って)を見上げた。
家族が居ないし転生後の記憶が薄い以上、こちらの名前を名乗っても違和感しかない。
それに、奴隷ってなんだよそれ?
するとみるみる顔を真紅に染め上げ、頬をプク〜っと膨らます。
なんだこのお姉さん、めんどくさそうなタイプだけど滅茶滅茶可愛いな。
「分かりましたわ!レツね!
仕方ありませんわ、奴隷所有者の命名権使いたかったけど、でもこの子…とんでも無く可愛いから許してあげましてよ。
ま、まぁわたくしのほうがもっと可愛いですけれども。」
と何やらレツの顔を見てふいっと目を反らせ。
後半は小声でブツブツ言っているしほんのり耳が赤いのだが、レツは気付いて居ない。
「こほん、と、ともかくレツ、貴方は私の所有奴隷として仕えてもらいます。
城に戻ったらまずその薄汚れた姿を綺麗にして食事と寝床も与えましょう。
その代わり、礼儀作法武術文学歴史数学を覚えて貰うわよ。」
まくしたてるように言うと、
「覚悟なさい。」
と、不敵に笑った。
トリニティことティーとの生活は、なんて言うか破天荒だった。
彼女自身が才能の塊で天才、に見えなくもない。
ある程度は何でもソツなくこなせる万能型では有るのだが、天才では無かった。
興味ないことは皇女的な我儘を発動して見向きもしないのだ。
色々台無しにするのはそれ以外もあった。
女神の生まれ変わりだとかほざいてみたり。
癇癪で良く側近やメイドをコロコロ変える。
僕を買ったのも、絶対服従・絶対主人不攻撃が指示できる奴隷だったからだろう。
皇女や王族と言う身分は、暗殺毒殺噂と化かし合い足の引っ張り合いの宝庫でもある。
事実彼女の同腹の兄は3人毒殺されたり不慮の事故で死んでいる。
後宮にある女は、トリニティの母である第1皇后だけでは無い。
第2側妃以降数十人後宮に女がひしめいている。
子供の数もとんでも無いが、始末されてしまう末端のお手つきまでいれたら、とんでもない数だ。
下剋上を狙う女の家族も手引きしたりするから話はややこしくなる。
そんな中同腹で生きているのは、彼女と最近産まれた双子の弟くらいだ。
彼女が女だからこそ見逃されて居たのだろうし。
歳と共に強くなって行く神力と魔力両方駆使して魔除けの術や毒や状態異常耐性や回復術などから。
身体能力や使える全魔法を鍛え上げ、化け物レベルに戦闘力を上げ。
それでも不安が拭えないのか絶対裏切らない、確実に信頼出来る者が欲しかったのかもしれない。
だが、そこで同情してはいけない。
後宮は闇が深いね、異世界でも修羅になった女は怖いわ。
そんな事を散々され生き残った彼女がマトモな訳がなかった。
それは、恋愛依存癖とストーキングヤンデレ癖だ。
僕が拾われる前に、ある少年、翡翠・風魔と避暑地のバカンスにて運命の出会いを果たした。
何度目かの再開の時、僕も会ったかも知れない。
避暑地に行った記憶はボンヤリとある。
でも奴隷になりたてであんまり覚えたないけどね。
だが邪魔が入って運命の相手とは離れ離れになった。と彼女は言い張るのだ。
実際は、相手に一目惚れ→覚えた攻撃魔法を間違えたふりして彼に攻撃→回復術かける→感謝されて調子こく。
と言うマッチポンプを繰り返したのが相手方の親族にバレ、父皇帝に苦情と言う形で証拠付きでバラされて引き剥がされ近寄る事を禁じられた。
と言う真相をコッソリと面倒見のいい騎士団長に聞かされた。
「トリニティ様は、まっしぐら過ぎて視野が狭くなり過ぎてらっしゃる。
残念な美人って奴だよなぁ、アレ。」
遠い目をして居た様に見えたのは、多分気のせいじゃないだろうなぁ。
だって僕もついつい、
「わかる。」
と、女子高生の気ない返事的リアクションとってしまったのはご愛嬌だろう。
しかし、人事では無くなってしまったのはここ数年。
翡翠君の行動範囲把握と身辺調査から、彼や彼の仲良したちの尾行などなどを任されてしまった。
残念ながら奴隷に拒否権はない。
いや、涙目で上目遣いに拒絶しまくれば、普通の人ならショタ美少年の言葉を何でも聞いてくれるだろう。
だが、彼女は根っからのドS。
嫌がる涙目のレツを見て、内心無自覚にはぁはぁしてる、お巡りさんこいつです状態が発生するだけである。
レツの受難が続く。




