【閑話】一方その頃ジェインちゃん
「ほらジェイン、そんな所で寝てたら風邪引くぜ?
折角お前の好きな市松クッキー作ったのになぁ。
全部食べちまおうかなぁ?
それとも無防備なお前を俺が食べちまおうか?」
ふふふと笑う幼馴染のからかうような甘い声が聞こえる。
いや、翡翠はそんなこっぱずかしい事は言わない。
だからこれは夢だと直ぐ判明した。
本人は無自覚で凡人と思い込んで居るようだが、幼馴染の翡翠は顔立ちも美形まで行かなくてもソコソコカッコよく、隠れイケメン枠に辛うじて入っておる。
無論、妾はライバルの牽制には数年来余念は無いがな。
立ち居振る舞いも、庶民の割に洗練されていて。
無意識にする仕草が、計算づくの絵画のように綺麗だった。
あと妾より線が細く華奢な色白で、まつげ長いのは悔しかった。
多分学生服も女子制服の方が似合うだろうが、本人に言うとドン引待った無しだから言わぬのじゃ。
はて?
妾は少し前までダンジョンに居たはずなのだが、ダンジョンの中で倒れておるのであろうか?
雑魚敵しか居ない中級ダンジョンでか?
それに、妾は起きて居る。
なのに動けぬ夢の中だ。
「あらあらぁ〜もう揺りかご夢の中から意識が戻ったのぉ?
つまらないわぁ。
そのまま死に果てて魂消えされば良かったのに。
邪神に本当にしてあげられたのにぃ、忌々しい。
ツマンナイツマンナイツマンナイツマンナイツマンナイツマンナイツマンナイ!」
耳障りな甲高い癇癪声が辺りに響くと、先程まで見て居た夢の景色が消えて、埃っぽくカビ臭く薄暗い納屋のような景色が見えた。
声を上げかけて、出ない事に気付いて目を見開く。
そのリアクションにやっと満足気にニマッと女は嗤った。
その顔に見覚えがある。
幼い頃、サマーバケーションに行った時、翡翠に付いて回っていたストーカーだ。
何がタチが悪いかって、翡翠をわざと怪我させて動けなくした癖に。
「わたくし聖女のチカラがあるから、ヒスイくん助けてあげるね?」
とかいけしゃあしゃあと回復させたりしていた。
鈍感な翡翠は自分がドジして怪我したと思い込んでいたのか、彼女に感謝の笑顔を向けるのだ。
だが流石に彼の親が気付いて、翡翠にあの自称聖女を近づけさせないようにして事無きを得た。
後で真実を知った翡翠が真っ青になって暫く引きこもった対人恐怖症状態から復帰させるのに数年掛かった。
あれを成長してもやらかそうとして居るのだと知った。
睨み付けると小馬鹿にした様子で、ゴミを見るように見下して来る。
「本当にゲーム通りに闇堕ちして、とっとと邪神になって翡翠と私に倒されるべきなのに、何でストーリーから外れるの?
NPCの癖に本当邪魔な女ね!」
ガスッ、と鈍い音が響く。
杖で殴られた様だ。
額から血が流れる感触がするが、やはり声も出ないし動くことも出来なかった。
何かに固定されて居るのだと気付くが、どうにも出来なかった。
「あ〜あ、キルケアまで翡翠は攻略しちゃったからあんたとセットで再闇堕ちさせなきゃね。
魔王と邪神は居ないとゲームにならないわ。
あんたら倒さないと、わたくしのハーレム作れないじゃ無い。」
そう言って杖を妾に向けると、妾の意識はそこで途絶えた。
あぁ翡翠、助けて。
無理なら妾を倒して。
翡翠なら妾をどうしたって構わない。
貴方は本気にしてはくれなかったけれど、妾は初めて会った時から、愛してたの。
運命だと思ったの。
翡翠になら殺されたって構わないよ。
自称聖女を笑えないね。
でも、本気だから覚悟してね。
世界の上層部に、邪神ジェインと魔王キルケア復活の知らせが響く。
仕立て上げられたそれは、少し遅く翡翠の耳に届けられるのだが。
その頃翡翠は時間の旅の最中だった。
果たして翡翠は2人を助けられるのだろうか?
自称聖女さん幼女は現在グレートアップして自称女神の生まれ変わりとか言ってます。




