白の乙女
白の乙女を見た途端、頭が割れるように痛くなる。
脳裏に莫大な記憶が流れ込んだ。
この痛みに覚えがあった。
自身の前世を思い出す唐突な記憶の渦が押し寄せた時と同じだった。
ただし、今回は女子大生時代の記憶では無い。
この世界の古いものだ。
「月の皇子エメルディ・ディアナ・ルナティア殿下。
とうとう堕天の神が貴方様を弑いた時のような狂った愛を紡ぎ動き出しました。」
謳うような声が耳に届く。
「月の都が滅んだように地上が滅ぶやも知れません。
別の命を育む貴方様の今生を、わたくしはこの刻の間で眺めて居るだけしかもう出来ません。
ですから、あの青い薔薇に我が力を込めて、少しずつ少しずつ貴方様の魂に近しい方に送りました。
無事届いて嬉しゅうございます。
あの青い薔薇は刻の薔薇。
過去に未来に現在に飛翔出来ます。
あの堕天の神が貴方様を良いようにするのは許せないのです。
だから、抗う力をお渡しします。
わたくしはここから消滅しますが、いつか転生が叶いお会い出来る日が来ると信じております…。
エメ兄様…お元気で…。」
「ルビエラ…待って、封印の刻の間に生贄にされた可愛い妹よ。」
「名前…覚えていて…嬉しゅうござい…。」
不思議な力が右手に集結して青い薔薇細工の腕輪になった。
そして、白い空間に乙女は居なくなった。
一方的に声をかけてくれたルビエラは、前々世の妹だ。
堕天の神を封印する乙女として、この空間に生贄にされた。
そんな事をしても堕天の神少ししか封印出来ず、彼女だけが閉じ込められた。
何故堕天の神が暴れたのか。
彼女は、月の皇子である俺に一方的に惚れたのだ。
俺が月の姫ラーシア・ルナ・ロイディとの婚姻式の日に、暴れた。
婚姻式を邪魔する為にだ。
それまで神と会話する機会もほとんど無かったから俺も月の姫も困惑した。
神の怒りを止めようとしたが、堕天までしてしまったから会話にならず、応急処置的に妹が封印の間に入った。
しかし、力が足らず彼女の存在は現世から押し出されてしまった。
最終的に俺は姫を庇って死に。
姫は呪われ邪神の力を封じ込められた。
ゲームでは余り説明されなかった裏話。
それを思い出して溜息を吐く。
「やっぱりこうなってくると、マジで単なるモブが良かったなぁ。
どーするんだ、これ。」
手首の青い薔薇の腕輪を眺める。
腕輪に使い方がインプットされているから、問題は無い。
いや、あるな。
これに魔力を適量込めて作動させる。
過去・現在・未来。
念じた時代へと移動出来る代物だ。
まさにゲーム的アイテム。
問題は、この花束だった物はホーエンハイムさんの物だ。
アイテム認証されて、俺以外装備出来ない系だよこれ。
さて、どう説明したら良いのだろうか?
それに、堕天の神の事だ。
思い出した事。
うん、世紀を越える見事なヤンデレさんだね。
あいつが黒幕なら、キルケアもジェインも殺されるか心を潰されるか…ともかく酷い目に遭わされている事だけは確かだろう。
俺がこれからやるべき事と、カナディアやホーエンさんに何処まで説明して理解して貰い、協力を仰ぐか。
ガックリと肩を落としたタイミングで空間が歪む。
元の時間軸にそろそろ戻るようだ。
さて、腹をくくろうかね。




