プロローグ4
『さて、それじゃあこのダンジョンコアの基本的な能力について説明するよ』
「はい」
『まずは名前のとおり、ダンジョンの核となる能力。このダンジョンコアを基点に、いろいろなタイプのダンジョンを構築出来るんだ。それと一応言っておくけど、この【玩具】バージョンのダンジョンと、最初の【ダンジョンクリエイト】バージョンのダンジョンでは、いろいろと違いがあるんだ。そして、君がこれから行く世界のダンジョンは、後者のタイプにあたるから、自分のダンジョンが基準になるとは思わないことだね』
「どう違うんですか?」
『慌てない慌てない。今からちゃんと説明するからさ。とくに大きな違いとしては、【玩具】タイプのダンジョンは現実世界じゃなくて、亜空間にダンジョンを構築すること。そして、君の居住空間となるコアブロックが最初から存在していること。ダンジョンコアから呼び出せるアイテム類に、異世界の物が混じっていることの三つだね』
「……亜空間にダンジョン。なんでそんな仕様なんですか?」
『あの方のご趣味だね。だけど君が向こうの世界を旅するなら、こっちの方が都合が良いだろう?普通の設置型ダンジョンだと、一度設置するとそこから動かせなくなるからね。専守防衛思考ならそれでもいいんだろうけど、逃走とかの選択は出来なくなるから、選択肢が狭まっちゃうんだよね』
「なるほど」
たしかに移動出来ないよりは、移動出来た方が採れる選択肢は多くなるな。
『次にコアブロックの設備についてだけど、リビング、ダイニング、キッチン、浴室、トイレ、庭、倉庫などを完備しているよ。近代的な設備も使用が可能で、エアコンにストーブ、コタツや扇風機といった冷暖房はもちろん、ドライヤーや洗濯機、冷蔵庫、掃除機に炊飯器なんかの家電製品も魔力を消費して使用可能だよ』
「至れり尽くせりですね」
剣と魔法の世界という点から見ると違和感があるけど、便利なことには違いがないんだし、違和感には目をつぶっておこう。
『それが賢明だよ。そして最後に異世界から呼び出せる物についてだけど、各種調味料、冷凍食品、レトルト、異世界産の野菜や果物のような食料品関係。漫画、小説、電子ゲーム、パソコンなどの娯楽品関係。あの方が作成した世界の産物エトセトラ。だいたいのニーズには対応しているよ』
「……なんかここまで前世のものが揃っていると、転生するというよりも旅行に行くような気になってきます」
間違いなくありがたいんだけど、異世界観はかなり薄くなってきたと思わずにはいられなかった。
『まあ、そう思うだろうね。けど、いろいろ考慮するとこれくらい必要なんだよ』
「そうなんですか?」
『うん。少し話しが脱線することになるけど、君がこれから行く異世界について少し説明するよ。それがここまでいろいろと準備した理由だからね』
「わかりました、お願いします」
『うん。まずは必要無いんだけど、一応世界の名前から教えておくよ。異世界の名前は【リーライル】っていうんだ』
「【リーライル】。……何か意味のある名前なんですか?」
異世界の名称って、地球みたいに何か由来があるのかな?
『意味としては、辿り着きし地、異世界、彼方の世界という意味だよ』
「……何なんですか、そのラインナップ」
辿り着きし地、異世界、彼方の世界。どれもその世界の住人が付けるような意味じゃない。これはむしろ……。
『君の想像通りだよ。【リーライル】は、あの方に創造された直後にいろいろあったんだよ。だけどまあ、そこは気にしなくて良いよ。君にはとくに問題は無いからね』
「そう、ですか」
あまり釈然としないけど、問題が無いというのならここは流しておこう。
『次に世界観だけど、これは最初に言った剣と魔法の世界だね。だから、科学サイドの機械に類するものはまったく存在していないよ。次に文化水準だけど、中世ヨーロッパくらいかな。もっとも、魔法という便利技術や、モンスターという外敵のせいか、文化の発展段階がまちまちだから、ひょっとすると君の前世での中世ヨーロッパよりも劣っているかもしれないけど。というか、この辺りのことが私がいろいろと用意した理由なんだけどね』
「と、言いますと?」
『まずは食料品関係について。向こうの文化技術が未発達なせいで、食料事情が悪いんだよ。まずは冷蔵庫なんてないから食べ物の保存がきかない。だから足の早い食べ物は腐らない範囲の地域でしか食べられないし、少しのトラブルなんかで簡単に傷んでしまう。飢饉とかも普通に起こるし、食中毒なんかも珍しくない。生卵には寄生虫が潜んでいるし、そこらへんの川の水ではお腹を壊すことになりやすい。流通もモンスターのせいで分断されやすくて、栄養の偏りやすさも半端じゃない。だから一日三食、栄養面も考慮すると、ダンジョンで用意しておくのが確実なんだよ』
「なるほど」
たしかにこう説明されると、食料品関係が絶対に必要なことが理解出来た。
『次は娯楽品関係について。こっちはまあ、食料品関係程には差し迫った理由はないね』
「差し迫っていない理由はあるんですか?」
程にと付けるからには、まったく理由がないわけではないはずだ。
『そうだね。あえて言えば、精神的な余裕とストレス緩和目的だね』
「それはまあ、娯楽用品は趣味の類いですからね。僕としては嬉しいんですけど、ソフィアさんがわざわざ用意する必要はあるんですか?」
『その理由も、向こうの世界の文化水準にあるんだよね』
「と言いますと?」
『向こうの世界には機械のように自動で物事を処理してくれるものなんてないから、その大半が人力で処理されているんだ。そうすると、一人で炊事、洗濯、水汲みなどなど全て片付けているとそれだけで一日が終わるんだよ。だから、娯楽に割ける余裕や時間なんてほとんどない。その結果、向こうの世界では娯楽はほとんど発展していないんだ。数ある娯楽としては、祭りの日にみんなで集まってお酒を飲むくらいかな?』
「それはまた、味気ないというかなんというか…」
『まあ、向こうではそれが普通だからね。まあ、だから娯楽用品の方も私が用意したというわけだよ』「お気遣い、ありがとうございます」
ここまでの話しを聞くと、向こうの世界はいろいろと不便みたいだ。まあ、文化水準が近代から数百年前なのだから、それはごくごく当たり前のことだ。
内政チートとか出来そうな下地もあるわけだが、下手に手を出すのはやめておこう。
『その方が良いだろうね。向こうの国々は、絶対王制だからね』
「世界観的にはそうですよね」
ここで民主主義国家とかでてきたら、世界観的にかなり異常だから当たり前だけど。
『最後に異世界のものについて。これは君へのバックアップにあの方が用意したものだね。危険な兵器とかは呼び出せないけど、それを構築する為に使われた技術なんかは呼び出せるよ。それらの技術を駆使して頑張れば、SF的な巨大ロボットや宇宙要塞みたいな超兵器も自前で造れるから、やる気があるのなら試してみると良いよ』
「超兵器って……」
実物は駄目で、作成は良いってどんな理由なんだ?
『さあ?そこはあの方に聞いてみないことにはわからないね。もちろんそんな物騒なものだけじゃないよ。便利な魔法道具とか、研究資料なんかもあるし』
「それは何よりです」
『違いの部分はこんなところだね。じゃあ話しをダンジョンの機能的なものに戻すよ』
「はい」