11.当たり前の終わり
「死ね!」
「させるか!」
襲い掛かるアナルト騎士団。迎え打つデュオン達。しかし、モンスター達との戦闘直後であるデュオン達の方が、明らかな劣勢だった。
「ふん!疲労で弱っているお前達など、我等の敵ではない!」
「それでも、私達をたやすく倒せるなんて思わないことね!」
「くっ!」
アマーリエは風の魔法を放ち、アナルト騎士団のメンバー三人を吹き飛ばした。だが、魔法を放った直後にアマーリエは、疲労した身体で魔法を行使した反動で身体をふらつかせた。
「アマーリエ・エアルハイン覚悟!」
「アマーリエ!」
「行かせんぞ、奴隷小僧!」
その隙をチャンスと見たアナルト騎士の二人が、アマーリエに切り掛かる。
それを見たデュオンは、アマーリエを助けに向かおうとしたが、他のアナルト騎士によってそれを妨害された。
「終わりだ!」
「くっ!」
アマーリエは一人目の攻撃はなんとか捌いたが、二人目の攻撃を防ぐ方法はなかった。その場にいた誰しもが、次の瞬間のアマーリエの死を幻視した。しかし、現実にはそうなることはなかった。
「ぐはっ!」
「「なっ!?」」
なぜなら、アマーリエの目前に剣がきたその瞬間、アマーリエを攻撃していたアナルト騎士が背後から何か鋭いものに貫かれたからだ。
「ごふっ!…い、いったい、…何、が…」
貫かれた騎士が吐血し、自身を貫いたものを握りしめながらゆっくりと自分の背後を見た。そこにあったのは、自身の蔓を束ねて槍のように突き出しているキラープラントの姿だった。
「くっ、なぜ、このタイミングで」
そのキラープラントの姿を見たアナルト騎士団の面々は、あまりの間の悪さに歯がみした。あのキラープラントが偶然今のタイミングで仲間を攻撃していなければ、アマーリエ・エアルハインを確実に殺せていたのに。と、アナルト騎士団全員が思っていた。
「ぐはっ!」「ぎゃっ!」「な、何だ!」
だが、アナルト騎士団の面々はそんなことを悠長に思っている場合ではすぐになくなった。アナルト騎士団全員の注意が貫かれた仲間とキラープラントにいっている間に、アナルト騎士団の面々は数多のキラープラントやスケルトンに囲まれており、全方位から攻撃を受けることになった。
アマーリエとデュオンを多数で攻めていたアナルト騎士団が、今度は精霊の森から無数に沸いて出て来るモンスター達に、順次袋だたきにされたのだ。しかも、アマーリエやデュオンの二人時とは違って、モンスター達の援軍は森のあちこちから今も絶賛集結中だ。戦力比は完全に覆った。モンスター達はアマーリエとデュオンには見向きもせず、アナルト騎士団だけをフルボッコにしていく。
「うわー」
「大丈夫かアマーリエ!」
「え!ええっ、大丈夫よ」「そうか」
アナルト騎士団がモンスター達にズタボロにされている隙に、デュオンはアマーリエに駆け寄り、その無事を確かめた。アマーリエの身体を頭のてっぺんから足のつま先まで確認し、デュオンはホッと息をついた。
「デュオンの方も大丈夫?」
「なんとかな。しかし、どうなっているんだこの状況」
二人の視界内では、アナルト騎士団の面々が次々とモンスター達の餌食となっていた。もうすでにアナルト騎士団のメンバーの半数が倒され、死体をモンスター達に食い荒らされている。肉はキラープラントの養分となり、骨はスケルトン達の一部となっている。跡に残るのは、彼らの装備していた武器や鎧だけとなっている。
「わからないわ。さっきまでモンスター達は、普通に私達にも襲い掛かってきていた。なのに今は、アナルト騎士団の人間だけに襲い掛かっている。私達には見向きもしていないわ」
「だな。というか、なんであいつらにはこんな大量に群がっているんだ?俺達の時には、道中で接触したモンスター達だけが襲い掛かってきていたってのに?」
「謎よね」
「謎だな」
二人はとりあえず、現状を見守りながらゆっくりとアナルト騎士団から距離をとった。というか、距離をとらざるをえなかった。現在進行系でモンスター達が集まって来ている為、モンスター達がどんどん自分達に近づいてくるのだ。しかし、相変わらずデュオン達には興味を示さない。ただ押し合いの結果、デュオン達の近くまできてしまっているだけである。
「どうする、アマーリエ?」
「どうすると言われてもねぇ?私を殺しに来たアナルト騎士団を助かる義理は無いし、というかもう手遅れよね」
「そうだな」
アマーリエ達の視界は、すでにモンスターと森で埋まっている。アナルト騎士団の姿は、すでに何処にも見当たらなかった。
「退路も塞がれていることだし、ここは奥に進みましょう」
「危険じゃないか?」
「それは百も承知よ。だけど、他に選択肢が無いでしょう?」
「そうだな。あのモンスター達を迂回しても、他のモンスター達と戦うはめになるだろうしな」
「なら決まりね」
「ああ」
アマーリエ達はアナルト騎士団達がいた方向から踵を返すと、精霊の森の奥を目指して歩き出した。監視役である精霊はそんな二人を追いかけ、先導を再開した。
二人が去った後には、モンスター達だけが残された。
□□□□□□□□□
「ふうー。無事に片付いた」
二人が無事に立ち去るところを確認し、セイヤは一息ついた。
『みたいだね。ねぇセイヤ、これがさっき言っていた当たり前の終わりなの?』
「そうだよ。モンスターのテリトリーで、人間がモンスターに襲われて死ぬ。ごくごく当たり前の、ありふれたことでしょう?」
『そうだね。モンスターに襲われて死ぬなんて、この世界では当たり前のことだね。それがこんな森の中なら、なおさらだよね』
「でしょう。アマーリエ達との戦いでその姿はもう見せているんだから、モンスターに彼らを始末させた方が自然だと思ったんだ」
『だね。けど、少し派手にやり過ぎたんじゃない?』
「そうかな?」
『僕はそう思うよ。【眷属召喚】と【同調】のコンボであんな風になるなんてね』
「まあ、そうかもね」
セイヤがまず最初にやったのは、アマーリエを斬ろうとして騎士を始末することだった。同調していた精霊を起点に【眷属召喚】を行い、キラープラントを騎士の背後に召喚。そして召喚直後にキラープラントに同調し、キラープラントに命じて騎士を背後から不意打ちした。意識がアマーリエに向かっていた騎士に一撃で致命傷を与え、他のアナルト騎士団達の注意を一カ所に集める。そしてその隙を突いて、さらに複数のキラープラントやスケルトン達をアナルト騎士団の面々を各個に包囲するように召喚した。あとはまたそのモンスター達にそれぞれ同調し、一斉にアナルト騎士団に襲い掛かる。その結果は、先程までのたこなぐりの袋だたき状態である。むろん、数の暴力だけでアナルト騎士団全員を始末出来たわけではない。彼らとて国を守る立場の人間達、個人的な強さもそれなりにあった。だからセイヤは、彼らをそれぞれ孤立させて全方位から攻め立てた。
ちなみにセイヤがモンスター達と同調していた理由は、モンスター達に直接命令する為という以外にも、アマーリエやデュオンに手出しをさせない為という理由もあった。セイヤの意思と同調していたモンスター達は、アマーリエ達をセイヤと同じ認識で見ることとなっていたのだ。つまり、獲物ではなく客として認識していたというわけだ。これがあの乱戦で、アマーリエ達がモンスター達に襲われなかった理由だ。
『それで、次はどうするの?』
「アマーリエ達のことは、【調整者】達に任せるよ。僕はちょっと、森の外側に目を向けてみることにするよ」
『森の外側?具体的には?』
「森の外にまだあのアナルト騎士団の仲間がいるのなら、始末する」
『ああ、なるほどね』
「まあ、いないことを祈るよ」
セイヤはそう言うと、同調している小精霊を森の入口の方に向かわせた。




