8.封印解放
セイヤの攻撃を連続で受け、オリハルコンゴーレム達はどんどん身体を圧壊させていく。そして、今回はそのままスケイルの向こう側に吸い込まれていくため、オリハルコンゴーレム達がパーツを回収することは不可能だった。
オリハルコンゴーレム達は、どんどんその数を減らしていく。もちろんそれは、セイヤの活躍のせいだけではない。セイヤほど派手ではないが、精霊竜やアンノーンもしっかりオリハルコンゴーレム達を潰していっている。
まずは精霊竜。精霊竜は水と風、土を操ってオリハルコンゴーレム達をボコボコにしている。どうやらセイヤの潰すという発言で攻撃をチョイスしているらしく、とにかくオリハルコンゴーレム達を凹ませるような面や重量級の攻撃を繰り出している。高圧縮された水球を用いた水圧攻撃。高密度に圧縮された空気砲による射撃。硬度の高い岩石を上空から叩きつける岩石落とし。
普通の攻撃はオリハルコン相手には通じないはずなのだが、【調整者】としての力か、精霊竜としての力が働いているらしく、わりと簡単にオリハルコンゴーレム達を凹ませていっていた。
そしてアンノーン。正直アンノーンの攻撃の原理はよくわからない。とりあえず解説するなら、傍目から見るとこんな感じである。
まずはアンノーンの中から何かが無数に飛び出す。この何かについては視認不能であり、それを近くで見たセイヤに精霊竜、【王】達三人もそれが何なのかはわからなかった。とりあえず実体は無いようだったので、【影】と呼称する。アンノーンから飛び出した【影】達は、それぞれがオリハルコンゴーレム達に接触。この時当然オリハルコンゴーレム達は迎撃をしているのだが、【影】はそのまま影のようで、オリハルコンゴーレム達から放たれた物理攻撃は一切効いていなかった。
【影】がオリハルコンゴーレム達に取り付いた直後、オリハルコンゴーレム達に異変が起きた。【影】が触れた場所が突然ひしゃげだしたのだ。これはスケイルの重力攻撃とは違い、【影】が触れた箇所にだけ起きている。
しかし、【影】には実体がなかったはず。それなのにどうやってオリハルコンゴーレム達の身体をひしゃげさせているのだろう?この光景を見ていた全員の疑問である。
アンノーンの攻撃は他にもある。アンノーンの身体が何の兆候もなく突然揺らめく。すると、オリハルコンゴーレム達の身体が何の脈絡も無くぺしゃんこになったり、まるで握り潰されたかのようにぐちゃぐちゃになるのだ。アンノーンの能力には、念動力のようなものもあるのだろうか?
とりあえず、アンノーンの攻撃方法の大半が得体のしれないものであることをセイヤ達は理解した。
「これで終わり!」
セイヤが最後の一撃を放ち、オリハルコンゴーレム達は全滅した。オリハルコンゴーレム達の残骸全てはスケイル達によって処分され、かけらも残ることはなかった。
「さて、それじゃあ封印を解除しよう」
『うん!』
『・・・』
「スケイル!」
監視役であったオリハルコンゴーレム達が全滅したこと確認したセイヤは、早速レルリオス達の封印を解きにかかった。スケイル達がレルリオス達を封印している剣と鎖にそれぞれ刺さり、それらを重力で捻り潰していく。これによって剣も鎖も簡単に圧壊していき、やがてレルリオス達は数百年ぶりに封印から解放された。が、急に封印から解放されたせいか、レルリオス達は封印が解かれた直後に気を失い、身体をその場で崩れさせた。
「えっ!?」
『任せて!』
突然崩れ落ちる【王】達にセイヤは驚きの声を上げ、精霊竜は慌てて仲間である【調整者】達をレルリオス達の下に向かわせた。そのかいあって、レルリオス達は地面に激突する前にそれぞれキャッチされた。
『危ない危ない』
「急にどうしたんだろう?」
『長い間封印されていたせいかな?』
「でも、アンノーンはそんなことなかったよ?」
セイヤはアンノーンを見るが、アンノーンはゆらゆらと空中で揺らめいていた。元々顔が無く、表情なんて読みようがないので、セイヤには弱っているのかいないのかわからなかった。ただ、先程の戦闘を見るかぎりでは、戦える程度には元気のようだ。
『封印のされかたが違っていたから?』
「そうなのかな?どうなの?」
『・・・』
セイヤの疑問に、アンノーンは思念を返した。
「…どうやら違うみたい」
『みたいだね。というか、本当は封印されていなかったとかいうオチだったりして?』
「そうなの?」
『・・・』
「…半々みたいだね。封印はちゃんとされていたけど、レルリオス達みたいに剣と鎖で封印されていなかったこと。そして、あの封印がアンノーン自体に干渉出来る程の力がなかったみたい」
『へぇー、それがこの差なんだ』
「納得がいったし、場所を移そうか?」
『そうだね!契約も一つ出来てるんだし、残りは【王】達が目覚めてからの話しだもんね』
「うん!それじゃあ、お願い!」
『了承』
セイヤはダンジョンコアに自分達の移動を頼んだ。ダンジョンコアはセイヤの頼みを即実行した。セイヤや【王】達の姿は、ダンジョンの別の場所に瞬時に転送された。
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深い深い、木々が鬱蒼と生い茂る山の中。月明かりに照らされた山道を、二つの影が歩いている。
「お嬢さま、本当に良いんですか?」
「良いも悪いもないわ、だってもう終わってしまったことなんですもの」
「それは、そうですが…」
山道を歩いているのは一組の男女。
「気に病まないでちょうだいデュオン。貴方は私の為に、自分が出来るかぎりのことをしてくれたんですもの」
男性の方をデュオンと呼んだのは、ふわふわの金髪を腰を越えた辺りにまで長く伸ばした、大きな空色の瞳をした見た目十四くらいの美少女。服装は動きやすい革製のベストとズボンだが、あまり着慣れているようには見えない。どちらかといえば、その容姿と口調からして普段はスカートやドレスの方を着ているように思える。
「そうですけど…」
少女にそう返したデュオンは、肩にかかる程度まで伸ばされた黒髪に、鋭い眼光を放つ深い紫色の瞳をした少女と同い年くらいの背格好の少年だ。少年の顔立ちはかなり整っているのだが、男性的ではなく女性的な端整な面立ちをしている。服装は少女と同じ革製のベストにズボン。首に厚みのある首輪をしており、それが少年が奴隷であることを示していた。
「それと、口調はもう元に戻して良いわよ」
「……良いのですか?」
「ええ。だってもうここは王都ではないのよ。それに、私は今も貴方の主人のままではあるけど、私の立場は以前とはもう違うんですもの。貴方に丁寧な口調を強制する必要性はかけらもないわ」
「たしかにそうだな。わかった、これで良いか?」
「ええ、それで良いわ。やっぱりデュオンは、そちらの口調の方がしっくりくるわね」
「そうか?」
「そうよ」
「それでアマーリエ、本当に精霊の森に行くのか?」
「ええ、そのつもりよ。私の幼い頃からの夢ですもの」
「危なくないか?」
「たしかに危ないでしょうね。お伽話いわく、精霊の森には魔王が封印されているそうだし」
「魔王!?精霊の森って、精霊の生息地ってだけじゃないのか!?」
「あくまでもお伽話よ。実際に魔王が封印されているのかは、少なくとも私は知らないわ」
「おいおい、それなら行くのは止めた方が良いんじゃないか?」
「嫌よ。私は精霊の森に行くの!それに、そんなに心配しないでちょうだい、デュオン」
「どうしてだ?お伽話とはいえ、その話しの元になった何かがある。あるいは、いる可能性は否定出来ないだろう?」
「そうね。だけど、デュオンがいれば何も問題は無いわ」
「そうかぁ?」
「そうよ。この話しは今はおしまいにしましょう。お伽話が本当か嘘かは、現地で調べれば良い話だわ」
アマーリエはそう言うと、デュオンの手を引いて走り出した。
二つの影は、山の中に消えて行った。




