6.新しい契約
セイヤに抱かれて嬉しそうに膨らんだ後、アンノーンはセイヤからいったん離れた。アンノーンがセイヤから距離をとると、【星導のグリモアール】がセイヤの目の前に出現し、契約書が一枚飛び出してきた。
「ええっと何々……うん?この内容って…」
セイヤが契約書の内容を確認したところ、内容は精霊竜の時とどっこいだった。
つまりは、ほとんど相手が自分のメリットを要求してこなかったということだ。違いは一つ、自身を常に同行させることという一文。どうやらアンノーンには、召喚される気はまったくなく、精霊竜と同じようにセイヤに張り付いておきたいらしい。
その理由はセイヤにはさっぱりわからなかった。だが、先程セイヤが無意識にアンノーンに言った言葉からすると、セイヤは精霊竜同様にアンノーンと面識があるのかもしれない。
セイヤはこの条件で【契約】を発動される。契約書が二つに分かれ、それぞれセイヤとアンノーンの中に消えていった。
「これで契約は完了ですね」
『そうだね』
『・・・』
「それじゃあ、皆さんの封印を解くとしましょうか。……うん?」
一応当初の目的を果たしたセイヤは、レルリオス達の封印を解くことにした。しかし、行動に移そうとしたあたりでセイヤは自分の中で何かが変化を起こしたような感覚を覚えた。
『どうかしたの?』
『・・・?』
そんなセイヤを精霊竜とアンノーンが不思議そうに見た。
「ううんと、違和感とかは無いんだけど、今何か自分の中で変化が起こった気がして…」
セイヤ自身にも何が起こったのかわからないので、曖昧な答えしか精霊竜達に返せなかった。
『変化?どれどれ』
「うわっ!?」
セイヤの言葉に首を傾げた後、精霊竜はセイヤに近づいてそのままセイヤの身体の中に頭を突っ込んだ。セイヤはそれに驚いたが、身体の方に違和感や異物感は覚えなかった。どうやら精霊竜は、肉体的にセイヤの中に入り込んだわけではないようだ。
『ああ、スキルシードが成長したんだよ!』
少しセイヤの中で頭を動かした後、セイヤから頭を引っこ抜いて精霊竜はセイヤにそう教えた。
「スキルシードが成長した?うんと、【契約】を使ったから?」
『そうだと思うよ』
セイヤはソフィアから与えられた知識で、スキルシードの成長方法を知っていたので、すぐにスキルシードが成長した理由に思い到った。そして、それを精霊竜は肯定した。
スキルシードの成長方法の一つは、そのスキルシードのスキルを一定数使用することである。熟練度や経験値的なもので成長していく感じであろうか?ともかく、使用回数を重ねていくことでスキルシードは成長し、スキルツリーを形成していくのだ。今回は【王】と契約したことで、大量の経験値的な何かを獲得出来たのだろうと予想される。
「何かスキルが増えたりしたかな?」
『増えてるよ!』
「えっ!?どんなスキル!」
『うんとね、【眷属召喚】、【同調】、【共鳴】の三つだね』
セイヤの質問に、精霊竜は先程見たものを思い出しながらそう答えた。
「えっ!三つも増えたの!?」
『まあ、【玩具】製の特別なスキルシードだし、契約相手の僕達も普通じゃないからね』
「ああ、なるほど」
精霊竜のその説明に、セイヤはすんなり納得がいった。たしかにどちらも規格外なんだから、そういうものなんだろうと思ったからだ。
「増えたスキルは、どんな効果なのかな?」
『それは…!』
『!』
「どうしたの?」
精霊竜はセイヤに答えようとして、その途中で視線をセイヤから急に別の場所に向けた。アンノーンもなぜか精霊竜と同じ方を一緒に見ている。セイヤが不思議そうに二人を見るが、二人は答えずにじっとある場所を注視している。
そんな二人を見て、セイヤも釣られるように同じ場所を見た。そこには、四肢を失ったオリハルコンゴーレム達が転がっていた。
「あの残骸がどうかしたの?」
『ピ・ガ・ガガ・ガ・。シン・ニュウシャ・キ・キケン・・・レベル・レッド。・ホン・キ・ハイジョ・フノウ』
セイヤが残骸となったオリハルコンゴーレム達がどうかしたのかと思った直後、オリハルコンゴーレム達から途切れ途切れに機械音声が聞こえてきた。
『エ・エマー・ジェンシー。エングン・ヨウセイ。……ヘントウ・・・ナシ』
オリハルコンゴーレム達は誰かに助けを求めたようだが、ここは亜空間と一体化しているダンジョンの中。普通の連絡手段では外と連絡をとることは不可能だった。
『シュ・シュウイ・サーチ。……ミカタ・キ・カクニン。エン・グン・ヨウセイ。・・・タイ・ショウ・・ノ・ソン・カイ・カカ・カクニン。モ・モード・ユニオン・ハ・ハツ・ドウ』
連絡を諦めたオリハルコンゴーレム達は、それぞれが近くの味方を捜しだした。それでまあ、すぐに味方を見つかったわけだが、揃って達磨になっていた為、自力での合流は出来るわけがなかった。そうするとオリハルコンゴーレム達は、一斉に何かの機能を発動させだした。オリハルコンゴーレム達の胴体部分から丸っこい何かがそれぞれ一つずつ飛び出した。
『コア・ゲンシュツ。……ガッタイ・カイシ』
そしてそれが同期するように同じタイミングで明滅しだし、やがて一カ所に集まりだした。また、床に残されていたオリハルコンゴーレム達の身体のパーツも、それぞれが合流を開始しだした。胴体や手足がそれぞれ一つのグループを形成し、やがてそれらは重なり合ってより大きな一つのパーツとなっていった。そして、それぞれのパーツが一つにまとまった後は、どこかの人形の如く五体が連結していった。
「うわっ!大きい!」
最終的には、元の数倍の高さや厚みを持ったオリハルコンゴーレムが一体ダンジョン内で直立していた。傍目から見ると、わりと壮観に映ることだろう。
『シンニュウシャ・ハイジョ・サイカイ』
セイヤ達が巨大化したオリハルコンゴーレムの姿を見ていると、声を出していた丸っこいものがオリハルコンゴーレムの胸部に合体。セイヤ達目掛け、移動を開始した。
「おおっ!動きだした!」
セイヤはそれにとくに慌てておらず、暢気にそんなことを言っている。
逆に慌てているのは、レルリオス達三人の【王】達の方だ。レルリオス達から見ると、セイヤはすぐにでもオリハルコンゴーレムに踏み潰されてしまいそうで、きがきではなかった。しかし、セイヤを助けに行こうにもレルリオス達は今だ封印されている身。ハラハラしながらセイヤ達を見ているしかなかった。レルリオス達は、先程まで封印されていたアンノーンにこの状況をなんとかしてもらえないかと、淡い期待を持つくらいしか出来なかった。
『ハイジョ』
【王】達が見守る中、オリハルコンゴーレムは右腕を振り上げた。そして、全力でセイヤ目掛けて拳を叩き込んだ。
キィィーン!!
【王】達はセイヤがミンチになる光景を想像したが、現実にはそうならなかった。【王】達三人がそおっと現実を確認してみると、オリハルコンゴーレムとセイヤの間に薄い白銀の障壁が展開されていて、それがオリハルコンゴーレムの巨大な拳をこゆるぎもせずに受け止めていた。これには【王】達は仰天せずにはいられなかった。また、この障壁の正体が何なのか考えずにはいられなかった。
だが三人は、ある程度の想像は出来ていた。三人が揃ってある場所に視線を向けた。その視線の先には、セイヤ達三人が驚いた様子も見せずに立っている。このことからして、三人の【王】達はあれがセイヤ達三人の内の誰かの能力なのだろうと当たりをつけていた。それが正解であることは、すぐに証明されることになった。
「邪魔です」
セイヤはそう言うと、手甲を装備している右腕を横に薙ぎ払った。その瞬間、白銀の障壁が幾つにも分かれ、その後一本の鎖で繋がれているかのように連結した。その姿は、白い穴から出現していた鎖っぽいものと酷似していた。
セイヤが右腕を振るう。それにあわせて、白銀の一閃がオリハルコンゴーレムの拳に襲い掛かる。
セイヤが数度腕を振るった後には、オリハルコンゴーレムの拳はバラバラになっていた。




