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エルニート魔術学園


 魔術と呼ばれる、元日本人だった俺には到底できない、摩訶不思議にして緻密な技術の粋を極めた技術がこの世界には存在している。

 その歴史は古く、遡れば五百年以上前の事になる。所詮は書物で得た知識でしかないので、実際はどうであったかは不明だが、魔術師の始祖と呼ばれる男が遺した書物によると、魔術は人が“神”の力を真似る為に長い年月の中で編み出した技術だという。

 完全な円を描き、その中に古代語に分類される無数の言語を書き込み、“世界”の事象に干渉し、“魔力”という動力を得る事で炎を生み出し、大地を操る事の出来る力を発揮する。

 まるで隙間の無いプログラムのような物こそが、魔術なのだ。

 

 だがその一方で、何を一体どうすればそんな事が出来るのかと、万人が疑問を感じるであろう力が存在する。

 それは魔術よりも歴史が古く、遡ればキリがなく、最も古い伝承で“神”が振るったとされる力こそが、“魔法”である。今に伝わる魔法というのは、遺伝でも才能でもなく、“神”と呼ばれる存在が“人”に与える、魔術以上に超常的で理不尽なまでの力の事を指している。

 

 俺の師匠である爺こと、偉大なる魔導士ヴォン・ウェルミストの口癖の一つに、『魔術は才能がなくとも扱える』というものがある。前述したとおり、魔術は人が神に真似をして編み出した、人の為の技術だ。

 神に選ばれる事のない才能なき者が生み出し、現代に至っては数の少ない“魔法使い”よりも、安定して万人が扱える魔術の方が、重要視されている場所も少なくない。

 ではどうして、万人が扱える魔術すら、俺は扱えないのか。その辺りの疑問は、実は至極簡単な理由によるものだ。


 俺は、魔力を扱えないのである。

 魔力は、あらゆる生物に限らず、無機物にすら宿る超不思議万能エネルギーだ。ある研究者は精神エネルギーだの、魂の力だのと色々と考えているようだが、その実全く明らかにされていない、この世界の謎の一つであるのが魔力というものだ。

 魔力はどのような物質、非物質にすら変化する。焼き付く炎へとも、肉体を持たない“魔力体”のような生物にすらなり得る。まさしく、超不思議万能エネルギーである。いっそ、全能と言い切っても過言ではないかもしれない。

 そして多かれ少なかれ、この世界の生物は、ある程度まで魔力を扱えるのだ。言葉を変えれば、魔力を認識出来る、といった方が良いかもしれない。

 俺はその魔力を認識こそ出来るが、どういったものなのか全く想像がつかないのだ。苦節17年、俺の前世の短い人生で魔力なんてものに触れあう機会は一切なく、今の体になってからもその感覚を引きずり過ぎて、魔力を受け入れられないのだ。

 だから俺は、魔力を扱えず――魔術を扱えない。

 古い手口を使わなければ、という注釈付きだが。


 では話は変わるが、現在俺は、エルニート王国に来ている。

 エルニート王国というのは、人口約数十万人、人間のみならず、亜人、魔人といった多種多様な人種が暮らしている、世界でも指折りの巨大国家だ。俺が普段暮らしている、爺の家はエルニート王国の端に位置する、結構な田舎の方で暮らしていたので、地味にこんな都会に来るのは初めてだったりする。

 ではなぜ俺がそんな、エルニート王国に来ているのか。まぁつまり、エルニート王国が王のお膝元――王都に存在する巨大な建築物である――エルニート魔術学園の門をくぐる為だ。

 爺が唐突に俺に魔術学園に通えと言ってから、三日程が経過した現在。保護者よろしく俺の隣にいる爺と共に爺の“転移魔法”でこのエルニート王国の王都にやってきたのだ。


 ここで、俺は今から入学試験――というか、編入試験を行う事になっている。


「いくらなんでも、急過ぎるぜ師匠」

「儂の教えをきっちり学んでおったのならば、試験なんぞ問題ではないわい」


 そう言い切った爺さんの顔はドヤ顔だったが、俺が心配しているのは筆記試験ではなく、魔術学園ならではの、魔術の試験の方なのだがな。だが何やら自信ありげな爺さんに何やら嫌な予感がして止まないのだが。


 それにしても、だ。

 現在は授業中らしく、俺の視界に映っている何やらグランドのような場所で数十人の生徒が集まって魔術の講義らしきものを受けていた。いやぁ、この15年で慣れたつもりだが、相変わらずこの世界の人間の髪色には、驚きを隠せない。

 ショッキングピンクや紅色とか、青色とかカラフルにも程がある。それで肌が白いのだから、こいつらの色素は一体どうなっているのだろうか。地球で解剖でもすれば、興味深い事が分かるのかもしれない。

 しかし、俺と同年齢っぽいのだが、体格がいいのとか、発育がいいのとか、ホント眼福です。一生ここで眺めていたいあの揺れ。


「何をジロジロと見ておるんじゃ、一緒におる儂まで恥ずかしいじゃろうが、さっさと行くぞ」


 もう少し眺めていたいのだが、過ぎては逮捕されるので気を付けよう。

 いや、割とまじめに捕まるからなぁ。


「それで、俺が魔術を扱えない点をどうにかするいい案は浮かんですか? 師匠」

「ふむ」

 

 ふむ、と二度繰り返し、爺は目的の場所へ向かいながら思案気な顔をしている。


「それじゃが、儂の方から、学園の講師一人と模擬戦を行う形をする事で、お主の実力を見せるという手を考えておる」


 爺の案に、少しだけ考える。


「いや、無理だろ。魔術学園の講師って事は、魔術師だって事だろ? 無理だ。絶対無理」

「やる前から諦めるなど、魔術師の風上にもおけんやつじゃの」


 呆れるような顔をするが、残念ながら無理なものは無理だ。魔術を扱える者と、魔術を扱えない者。その差は地球で置き換えれば、自動的に敵に追尾するミサイルを、素手で相手するようなものだ。

 それがどれだけ無意味な戦いかなんてのは、それこそ戦わずに分かる事だ。


「対魔術師との戦いは、儂が手ずから教えた筈じゃろう」

「実戦なんて師匠相手が精々だけどな」


 というか、師匠以外と戦った事は一度たりとも存在しない。師匠相手ならばともかく、知らない相手に戦うなんて、とてもではないが無理な話だ。魔術を扱えないという事云々の前に、俺は自分が強いだなんて微塵も思わないし、別に強くなりたいと願っている訳でもない。


「儂を相手に出来るのじゃ。魔術学園の講師など、相手になるわけがなかろう」

「だとしたら、どうして俺に学園に通わせようと?」

「無論、先に話した通りじゃが、いつまでもお主が知る世界が、儂が教えるものだけではつまらぬだろう。お主は世界を知るべきじゃ。この学園で何か学べるモノがあるとするならば、貪欲なまでに欲せよ。魔術師とは、そういうもんじゃ」


 魔術師の道を歩むのは、俺にはまだまだ難しそうだ。


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