モフモフの初めての戦闘教室
やっとできた。
今後は一週間に1、2のペースで投稿していくつもりです。
よろしくお願いします。
アゾットが初めて薬学を学んで三ヶ月が過ぎた。
肝心のアゾットは……
「オエッ!不味いよぉ、臭いよぉ。いつまでコレ飲まなきゃダメなの?」
「お前がちゃんとソーマを完成させるまでだ。ほら、飲んだ飲んだ『良薬は口に苦し』って言葉もあるだろ。それに、かなり完成に近づいてきてるからあともうひと踏ん張りだぞ」
泣きながら『名状しがたい回復薬』を飲んでいた。
アゾットは、あれから一回もソーマ作りに成功していないため毎日飲むことになっている。
「もうやくがくやだよぉ」
若干、幼児退行も起こしていた。そんなアゾットの様子にパラケルススは……
「若干やりすぎたかな?」
頭を掻きながら苦笑いをした。
(普通の奴より優秀だからやりすぎちまったな。反省しねぇといかんな……)
アゾットは優秀だった。一般的な薬師にはこれほど早く完成に近づけるものはまずいない。ほんの一握りの『天才』と呼ばれる存在でもこれほど早く形にするのは不可能に近いだろう。それもそのはずだ。一般的に薬の調薬は師匠の下で何年も修業を積んで初めて完成させることが可能なのだ。それをアゾットは一回見ただけで通常のポーションを完成させ、その薬に魔力を混ぜるという工程を一か月後には覚えた。一般の薬師には一生かかってできるかどうかというものをたったの数か月で形にしているのだ。これは『優秀』という言葉で済ませられるほどぬるいものではない。
そのため、パラケルススはアゾットがどこまでできるか興が乗ってしまいやりすぎてしまったのだ。
「わかった。わかったから泣くな」
パラケルススはアゾットの頭を少し乱暴に撫でた。
「まぁ、なんだ……俺がやりすぎた。すまん」
アゾットはパラケルススが謝ったことに驚いた。
「いや!?師匠は悪くないよ、悪いのは俺だよ!?ちっとも完成できないし……」
「いや、お前はむしろ優秀だよ。そんな、古代の英知の結晶を一朝一夕で完成させたらこっちのがびっくりだぞ」
パラケルススは気落ちするアゾットを励ますように言った。そして……
「よし、それじゃぁ気晴らしに違うことするか」
「え?違うこと!本当!」
「おう」
大喜びするアゾットにパラケルススは「溜まってたんだな……」と苦笑いをする。
「なにするの!?」
「おう、わかったから落ち着け。ちょっと待ってろ」
そう言ってパラケルススは地下の奥の倉庫へ入っていった。しばらくすると出てきてアゾットにあるものを渡した。
「これは……木の剣?」
全長70センチほどの片手剣を模した木の剣だった。
「木剣な。今からやるのは『戦闘訓練』だ。と、いってもまずは剣の振り方からだがな」
剣の振り方も分からないアゾットでは『戦闘』訓練などできないからだ。
「じゃぁ、外に行くぞ」
アゾットはパラケルススについていき家の前にやって来た。
「まずは、お前の身体能力を確認してもらうぞ」
「パラケルススが確認するんじゃなくて?」
アゾットは意味が分からなかった。アゾット本人が身体能力を確認する必要があるなど思いもしないからだ。
「そうだ。わかりやすいのは、そうだな……そこの石を握りつぶしてみろ」
パラケルススはアゾットの足元のこぶし大の石を指しながら言った。
「これ?いいけどたぶん無理だぞ?」
「いいからやってみろ」
アゾットは石を思いっきり力を入れて握った。すると……
「え゛っ?」
アゾットの意に反して石は簡単に粉々になってしまった。目の前の事象にアゾットはすぐさま理解できず混乱した。
「えっ?なんで?」
「まぁ、だろうな。お前さんは無意識のうちに制御してるがその体は吸血鬼の真祖の体だぞ、そんなこと造作もない」
パラケルススはそう言いながら足元の石を拾ってアゾットと同じように握りつぶした。
「よほどのことがない限り無意識で物を壊すことはないだろうが注意しておけよ。」
「わ、わかった」
アゾットは恐々としながら答えた。その気になればだいたいのものは壊せてしまうのだ。
「よし、お前の力は現時点でも人族や獣人の大人を超えるだろうが鍛えていけばもっと強くなるだろう。それは追々やっていくとして、今日から薬学と交互に戦闘訓練をやっていくぞ。」
「よっしゃぁ!!」
アゾットは狂喜乱舞した。これからはあの名状しがたい回復薬を飲む回数が減るのだ。
「よほど嫌だったんだな……」
「うん!」
パラケルススの苦笑にアゾットは清々しくうなずいた。
「まずは剣の説明からだな。剣はどういう風に切ると思う?」
「えっ?切るってこうズバッと切るんじゃないか?」
アゾットは木剣を縦の振った。
「残念だがそうじゃない。剣といえば安直に『切る』というのを思いつくが、お前が持ってる木剣は『直剣』だ。『直剣で切る』というのはあまり正しくない、正しくは『たたき切る』だ。木剣を貸してみろ」
「うん、はい」
アゾットはパラケルススに木剣を渡した。
「しっかり見てろよ」
パラケルススが木剣を構えると空気がガラリと変わった。肌に突き刺すような空気だ。
「ッ!」
アゾットはその雰囲気に息を飲んだ。
パラケルススはそんなアゾットに満足そうな笑みを浮かべると、強く踏み込みながら木剣で力強く空を一閃すると、シュオッっと鋭い音が静かな森に響いた。
「……と、こんなもんだ。どうだ?」
パラケルススはアゾットに木剣を渡しながらニヤリと笑った。
「スゲェ……スゲェよ!!どうやるんだ!?」
「わかった、わかった。だから落ち着け」
興奮するアゾットをなだめるように言った。
「じゃぁ、まずはさっきの真似をしながら振ってみろ」
「うん……シッ!」
アゾットは剣を構え、一歩踏み込みながら一閃した。
「悪くはないな。次はもっと強く踏み込んでみろ」
「はいっ!」
アゾットはその日、日が落ちるまで一日ずっと剣の訓練をしていた。
剣って男なら誰だって憧れますよね?
我が家にも幼き頃の木刀が……
ふと、柄に目を向けると剣の名前が書いてあってそっとクローゼットにしまったついこの頃……黒歴史だ……