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異世界ご飯事情と女神事情

 仕事って大事ですよね。ええ、何かしなけりゃ生きていけませんから。異世界ではお父さんやお母さんもいませんし。自分が世帯主ですから。それどころか扶養家族を養う側になりましたから。そうなんです。結局、清人は私の弟になりました。かわいい弟です。十三歳で母だったっていうのは異世界常識的にも無理があるらしいので、母と息子になるのは免れました。いやあ、あのときどうして十三歳って正直に白状しちゃったんだろうなあ。これだけは本当に残念。実に無念。正直者だなあ、私。千載一遇のチャンスだったのに。


 私が年齢を巻き戻し損ねたことはもういいですか。そうですか。年齢は戻せなかったけど話は戻しましょうか。私、就職したんです。元の世界では就活一年してもちっとも仕事決まらなかったのに、こちらではすんなりですよ。あ、もしかして、これが私の叶わなかった夢ということ? そういうことなのかしら。そのうち日本中のニートが移住してくるのかしら。


「ヒカリ姉。お腹空いたー」

「ヒカリー、飯ー」

「ヒカリー、ごはーん」

「ヒカリ、飯あるか」


「はいはーい。ごはんできましたよー」


 また脱線しましたね。異世界における村人Aのお仕事は飯炊き女です。次のトリッパーがやってきたときに無職のままだったら、それで職業確定しちゃうっていうんで急ぎました。食いっぱぐれがなくて、今すぐ自分ができる仕事を回してくれって言ったら、たっちゃんが勧めてくれたから迷わず即決。皆のご飯をまとめて作る分、原材料を貰うっていう給料は現物支給方式だけど、これで飢えの心配はなくなったっていうのはすごい。飢えないという安心感は何物にも代えがたいわ。それでも、もう一つくらい別の仕事探さないと、いざってときに困りそうだから慢心はしませんよ。といっても、現金収入が得られる仕事はないらしいから食べ物以外に何が手に入る仕事を選べばいいやら。衣食住ってくらいだから衣類関連かしら。住については庭付き一戸建て貰いましたから。もう心配なし。もう小梅大明神様が「あ、それ」と「あ、よいしょ」で作ってくれたもの。魔法使い、半端ない。私ももっと真剣に魔法使いになりたいって念じて生きてくれば良かったってすごく後悔した。完璧な和風一戸建て、家具付き、庭先には梅の木付きが手を六回も叩いたらできちゃうんだもの。もう二回叩いてもらって、まだ住人はいないけど犬小屋も作ってもらいました。ちょっとだけ心配なのは小梅さんが亡くなったら全部木の葉になっちゃうんじゃないかっていう疑いがあること。今すぐそんなことを聞くのは大恩人の小梅さんにさすがにね、申し訳ないから、そのうち追々確認しようと思ってる。長生きしてね、小梅さん。



「いただきまーす」


 大きなちゃぶ台を囲んで五人でご飯。白いご飯に糠漬けに今朝一番で雄太郎の釣ってきてくれたイワナ。その辺を駆け回っている鶏を追い掛け回して発見した卵を使った卵焼き。質素だけどいいの。お昼はこのくらいで十分。皆の笑顔が最後のおかずよ。


「ヒカリ姉ー、おかずこれだけ?」

「ヒカリー、ご飯これだけ?」

「糠漬け、浅漬けというより漬かってねえんじゃねえの?」

「・・・」


 なんて、笑顔で満腹になるような妖精さんはいませんよね。そうですよ。むしろ食べ盛りですよ。

「おかず欲しけりゃ、素材持ってきなさい。米はお櫃に入ってるから、二杯目からは自分でよそって。こっちの世界についたばっかりで古漬け作る暇あると思ってんのか、このすっとこどっこい。お前も、物欲しげな顔すんな」


 ふう。ああ、なんて爽やかな昼下がり。私、馴染んじゃってるなあ。ここに来てからまだ三日かそこらだってのに、この落ち着きはどういうことなのかしら。思いの外、図太い?

「あー、そりゃあ、お前。女神がそう望んでるからだよ」

「はい?」

 神様の思し召しですと。たっちゃん、見た目によらず信心深いなあ。

「そういうことじゃなくてな? 普通パニックになるだろう、異世界とか。でも俺たちはこの世界の原住民ってことになってるからパニックになってるわけには行かねえの。だから女神が原住民はここにいるときに安心して居心地よく過ごせるようにって望んでんだよ」

「何その、望んでるって。女神が望んだら叶うわけ? さっすが神様」

 異世界だから神様が実在してもまあいいよね。そうか私、神様に会ったことになるんだな。

「ヒカリ姉? 女神って渾名だよ?」

 ぴょこりと私の視界に顔を突っ込んできた可愛い清人。え、女神って渾名なの? あの子、神様じゃないの?

「女神はなあ、何でも自分の思った通りにしたいっていう願いが叶わなくてこっちの世界に来たんだよ。つまり、ここでは何でも思い通りってわけ」


 ちょっと、なにそれ。反則じゃないの。何でも思い通りになるって。それ以前に、何もかも自分の思い通りにしたいって願望を強烈にもってる人ってどうなの。そんな我儘娘がこの世界で何でもできるようになっちゃってていいわけ?


「最初は大変だったみたいよ? 創世記にも入れてあるけどあれは女神の黒歴史だよねえ」

「皆どっかいっちゃえばいいのにって叫んで本当に世界中から人類消しちゃった奴だろ。あれは酷いよなあ。あいつの癇癪で世界一回滅んでるからな」

「まあ、あれで随分反省したみたいだから、僕が来る前にその辺乗り越えといてくれて良かったよ」


 人類全消しとかなんですか。アリなんですか。アリなんですね。あったんですもんね。女神恐るべし。そりゃあ女神って呼ぶわ、みんな。

「ま、そんなわけで、女神が皆に幸せでいてほしいって思ってると皆幸せになれるわけ。ヒカリの馴染みが早いのは女神がそうなってほしいって思ってるからっていうのは、そういう意味だよ」

 きらりん、と目を輝かせて彰くんが締めくくってくれた。

 なんかこの世界、とことん邪道なんだな。神様までもが異世界トリッパーで構成されているとは。後で創世記読もう。女神の黒歴史勉強しよう。消えた人達がどうなったか知りたい。あ、創世記ってどこにあるんだろ。


「あの、私も創世記読んでみたいんですけど」

「「龍臣」」


 おお、デジャブ。なんですか。面倒くさいんですか、創世記の取扱い。たっちゃんは思いっきりよく頭を掻いている。全員食べ終わってるからギリセーフだけど、食事中だったら許さんよ。


「創世記はなあ、本にはなってないんだよ」

 なんですと?

「女神の神殿に彫ってあるだけでな、あとは口伝。そういう約束になってんだよ。でも常識レベルは全員知ってなきゃいけないからヒカリにも話しておかないとなあ」

「なんで本にしなかったの」

「世界の始まり簡単ガイドブックとかあったら、おかしいだろ」

 ああー、なるほどー。それ、今、すっごい欲しいと思ってた。正方形のおしゃれ女子向けの旅行本ほどのスタイリッシュさは無理でも、異世界の歩き方っぽいものが欲しいなと思ってたよ。そっか。それ見つかったら世界一丸となって新しいトリッパーにドッキリしかけてるのばれるもんね。ないのか。そっかあ。

「お前がこれから作る分にはいいんだぞ。あくまでこの世界の原住民としてな」

 しょげた私を気遣ってくれているのね、雄太郎さん。ありがたいけど、その理屈が通るならあなたが書いてくれても良いのではなくて? おい、目を逸らすな。もうその茶碗には米粒一つ残っていないだろうが。

「まあ、順番に話していくから。覚えられるだけ覚えればいいだろ。伝説なんて世界中の全員が同じだけ覚えてるわけじゃないだろうしな」

「そうだね。軽く覚えておいて、もし新しいトリッパーに難しいこと聞かれたらあの人の方が詳しいとか言っちゃえばいいんだしー」

 ありがとう、たっちゃん、彰くん。少し気が楽になった。一夜漬けは苦手なのよ。

「じゃあ、困ったらたっちゃんに聞くようにするね!」

 にっこり。雄太郎と彰くんの振る舞いを見ればこれで正解のはずよ。ねえ、清人。清人もそう思うよね? うん、やっぱりね。

「お前もか・・」

 たっちゃん、仕方ないよ。がっくりしても。僅か三日でも分かってしまったもの。チャラい見た目に反して、一番面倒見がいいのはあなただわ。


「しょうがねえなあ。じゃあ、まあ晩にでも順番にな」

「え、なんで寝物語にするの?」

 ぶっ。お茶吹いてる隙に突っ込み代行ありがとう彰くん。なんで夜なのよ。どういう創世記よ。それ清人も知ってて良い奴なの?


「寝物語じゃねえよ。これから話し込んでたら夕飯のネタ仕留めてくる暇なくなるだろうが」

「「「ああー」」」

「ああーじゃねえよ!」


 うん。たっちゃん。やっぱりあなたが仮想お母さんだ。






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