Ⅸ マイ・ボーダー
一見無味な現行世界
乾燥を逃避して、世界を渡り合うこと幾度か
それは一つの物語
一人のたくさんの苦悩に溢れた偽りの世界
憧れた。
世界の欲する存在に。
ひっそりと佇む公衆電話に、
雑踏の下のマンホールに、
ベランダから見下ろす地上に、
どこかホントウの場所があると。
重ねた日々の中に、苛む頭痛としての異世界が僕を侵食して。
気づけば僕は渡り鳥
自然の摂理に従って僕を破壊していって……
気づけば僕は失われていた。
帰る場所なき流浪のバケモノなりに、
安住を頼んで世界を求めた。
絶望の泥の中から砂金を拾い上げる外界
疲れはて、また渡ろうと。
力空しい身体に命じて息を吸い込んだ
さよなら世界。そして
こんにちは。
今度は真っ白な世界。
棄てるには綺麗すぎる居場所。
ダメだな、僕は汚いから。
――!
棄てるに渡れない、どこか懐かしい世界で咆哮する。
無味乾燥な現行世界
逃避して、世界を棄てること幾度か
それは一つの物語
一人のたくさんの苦悩に溢れたきっとどこかにある世界
憧れた。
世界の欲する存在に。
ひっそりと佇む木々に、
雑踏の下の大地に、
ベランダから見上げる天上に、
どこか本当の場所があると。
消えたはずの世界が、
色だけ失って目の前に展開する。
……違うか、
色を捨てたのは僕自身だ。
邪な嫌悪を拒絶する白、不釣り合いな存在は居なくなれ。
世界が汚れるのは僕が許さない。
また、渡る
渡れなかった。
世界があまりにも美しいから
それが自分と錯覚させる受容に、
救われた。
渡った世界は数多く、どの一つもいとおしい。
渡って、渡ってきたこの現行世界は。
何よりも僕が欲し、
何よりも僕を欲している、
絶え間ない奇跡の顕現なのだと、列なった世界が告げてくれる。
求めた世界は求めるに値しない
僕の境界は、世界と同義だから。