今日だけは
馬鹿みたい、馬鹿みたい、馬鹿みたい。
どうしてあんなこと言ってしまったんだろう。
私は狭い自分の部屋の中で、ベッドの上に寝そべって目を覆った。さっきから涙がとめてもとめてもあふれ出てきて、シーツはかなり湿気を含んでいた。そして私の心は、水分を吸ったシーツ以上に重たかった。この心を浮き上がらせる方法など誰が知っていると言うのだろう。考えれば考えるほど心は痛み、さっき起こったことが忘れられなくなる。
覚悟は、できていたはずだったのだ。
何もかも理解したうえで私は、彼に伝えたはずなのに。いざ、こうしてそれが現実になると受け止めきれない思いばかりが私に押し寄せてきた。望みは一パーセントもなかった。なのに私はどこかで0.一%の可能性を期待していたのだ。そうじゃなければ、こんなに胸が痛むはずがない。
泣いて、泣いて泣いて。
このまま私は干からびてしまうのではないかと思った。けど、干からびる前に涙は止まって、少しずつ動悸が落ち着いていくのが分かる。そしてふと、鏡の中の自分を見てしまった。
目は腫れて真っ赤。顔はぼさぼさで頬には涙の跡がいくつもついている。ひどい顔だ。そう、笑っちゃうくらいに。
笑え、笑え、笑え私。
けど、出てきたのは先ほど枯れたはずの涙で、笑顔を作ることはできなかった。ああ、まただ。また悲しみが襲ってくる。そして同時に彼との思い出ばかりが頭に浮かび上がる。
隣の席になったこと。よく授業中二人で盛り上がりすぎて、先生に怒られたこと。そしていつもいつも、彼の視線の先には私じゃない女の子がいたこと。
どうして私じゃないんだろう。彼を好きになって、何度も何度も自分に問いかけた。私の何がいけないの? 彼女のどこがいいの? どうして彼は、私を好きになってくれなかったの?
いつも、彼の傍にいたのは私だったはずなのに。
「好きなの」
そう告げたときの彼の驚いた顔が忘れられない。いつもの冗談だろ、と言われて、傷ついた私の顔を見て更に彼は傷ついた顔をしていた。すぐに彼は私に謝って、そして……。
もう、何も考えたくなかった。
けれど、明日にはまたいつもの顔で彼に会わなければいけない。笑顔でおはよう、なんてきっと無理だ。そう思っていても、明日にはそれができる自分がいるのだろう。そして何事もなかったかのように、月日は流れていくのだろう。
最後の一滴が、私の頬を伝い、ベッドのシーツの上にとけていった。私はそれを静かに目で追うと起き上がり、ベッドに腰をかけた。
さあ、がんばろう。
私は鏡の中の自分に笑いかけた。その笑顔はひどく歪だったけどれど、どうにか笑顔にはなっていた気がする。明日からはまたいつもの私。彼の好きじゃない、ただの友達にしか見られない私。
だけど、今日だけは。どうか今日だけは。
彼の記憶に残る私でいられたらいい、そう思った。